13:アップロード→草刈り→これは!?
「解析眼!」
再び建物内へと戻り、室内に置いてあったコレ――ハンモックを解析する。
目的は、作り方を調べるためだ。
【解析結果:ハンモック。太い紐を使って編んだもの】
うん。それは知ってる。
そうじゃなくって、俺が知りたいのはその編み方なんだって。
【編み方を解析――完了――万能クラフトへアップロード――完了】
「よし! あとは紐さえあれば作れるぞ」
「ほんとに!?」
「あぁ。でも……紐、なぁ」
解析したこのハンモックの紐も、ちょっと引っ張っただけでブチブチ切れた。
ベッドの板が朽ちかけるぐらいだ。紐だってダメになってるだろ。
「それなら大丈夫よ」
「え? 大丈夫って、アテがあるってこと?」
「うんっ。この近くにね、糸の原料になる植物がいっぱい生えてたの。私が生まれ育った集落で栽培してたのと、同じ植物だったわ」
おおおぉぉぉ! 持つべきものは現地の友!
「よし。まずはエメラルドを交換して、それから草刈りだ!」
塔へ行って、魔導装置のエメラルドを交換。先にセットしていたエメラルドを、レイアへと返した。
「レイア。俺のスキルでブローチに戻せると思うよ。留め具、持ってる?」
「えぇ。魔法の巾着に入れてあるから」
彼女が腰からぶら下げた巾着中に手を突っ込み、ブローチの留め具一式を取り出した。
「それって、見た目に反してたくさんのものを入れられる、魔法アイテム的なもの?」
「えぇ、そうよ。あなたのインベントリと違って、こちらは中の空間サイズが決まってるの。んー、これくらいの箱四つ分、ぐらいかしら」
彼女がこのぐらいとジェスチャーしたサイズは、みかん箱ぐらいか。結構入るんだな。
レイアから留め具を受け取り、それとエメラルドをインベントリへ。
万能クラフトを開き、さっきの二つを素材に選択すると【修繕】という項目が出た。
それを押せば、一瞬で元通り。
「出来たよ、レイア」
「わぁ。本当に元通りだわ。ありがとう、志導くん」
受け取ったブローチを、レイアは大事そうに両手で包んだ。
彼女の笑顔が見れて、本当によかった。
「こちらこそ、あの時咄嗟に貸してくれて感謝してるよ」
改めて装置を起動させる。あの家で見つけたエメラルドでちゃんと装置が動くか、確認しないとな。
「ニーナ、どうだい?」
『大丈夫、ですの。ちゃんとお仕事、出来てるです』
お仕事ってのは、魔素の浄化のことだろう。
よし、次は草刈りだ。
レイアに案内されたのは、塔からやや南東に行った場所。
建物の痕跡となる瓦礫は一切なく、元々この辺りには何もなかったことが伺えた。
駆け抜ける風が心地いい。初めて訪れた時と比べて、ここの空気は確かに綺麗になっている。
レイアが立ち止まったのは、長ーい茎の植物がびっしりと生い茂った場所だ。
「ずいぶんと背の高い草だなぁ。これが例の?」
「そ。よく育ってると、二百五十センチぐらいになるの。じゃ、さっそく切っていくわよ」
レイアは剣を抜き、それを一閃。
ヒュンッという風を斬る音がすると、何本もの茎が一斉に舞った。
「おぉ、お見事。いやでも、草刈りに剣を使うとは……」
「だって、こっちの方が早いんだもの」
苦笑いを浮かべて、彼女が刈り取った草を拾い集めた。それをインベントリへと押し込んでいく。
足元の草を収納するだけで、既に掌が青臭くなっていた。
「お。クラフトメニューに、繊維の抽出って項目が出てるぞ。そのまま糸に加工も出来るのか」
草を拾い集めながら、同時にクラフト作業も進めていく。量が多いと、さすがに少しだけ加工するのに時間がかかるようだ。
まぁまずは全部拾ってしまわないと、な――。
「うわぁ!? レ、レイア?」
テニスコート二、三枚分ほどの広さがあったはずなのに、気づけばその半分近くが禿げていた。
「ふ、ふにゃあ~。志導くん、志導くんここ」
「レイア? ど、どこだ……いたっ」
刈られた部分とそうでない部分の境界線で、猫の姿に戻ったレイアが出てきた。
本人はもちろん、地面に落ちた剣も服も草まみれだ。
ちょっと笑いが込み上げてきたが、そこはぐっと我慢。
「大丈夫か?」
「うん。でも途中で猫になっちゃって。全部刈りたかったのに」
いや、十分過ぎだろ。
俺がちょっと糸づくりしている間に、テニスコート一枚分を禿げさせるなんて……。
よ、よし。俺も頑張るぞ!
「この草、アーサって言うのか」
麻みたいなものかな?
長ーく伸びた草は細く、でもこのサイズになるとそれなりに重い。な、なかなか地道な作業だ。
何度も何度も、しゃがんでは草を拾い、一歩前進してはしゃがんで草を拾い。
単調な作業でも、これはかなり腰が痛い……。
『ニーナもお手伝い、するです』
「おぉ、ありがとうな、ニーナ」
小さな体で、自分より遥かに背の高い草を抱えるニーナ。草を抱えているというよりは、草に翻弄されている。あっちにフラフラ、こっちにウラフラ。
猫のレイアも一本ずつ加えては、俺の傍まで運んでくれた。
三人で協力して全ての草をインベントりに入れ終える頃には、もう昼になっていた。
「ふぅ。一旦戻ろうか」
「んにゃ。そうね、ユタとユラも戻って来てるだろうし」
ユラが息子に狩りの仕方を教えるんだといって、二頭とは今朝から別行動。昼には戻ると言っていたから、もう帰ってきているかもしれない。
『ユタ、たち、戻ってきたですの。ニーナ、先に戻ってるですね』
「そっか。じゃあ俺たちも今から戻るからって伝えてくれる?」
ニーナは笑顔で頷き、それからすぅっと光になって消えた。
あんな風にして消える姿は、神様っていうか、なんかだ精霊っぽい。
ま、どっちも人間じゃないっていう点は同じだけど。
「さて、戻ろうかレイア。……レイア?」
さっき自分で禿げ散らかした場所を、レイアがじっと見つめて動かない。
「レイア、戻ろうよ」
背後からそう声をかけると、猫のレイアがぷるぷると震えながら振り返った。
その瞳は、キラキラと輝いてい見える。
「ど、どうしたんだ、レイア?」
「し、志導くん……私、す、凄いもの、見つけちゃったかも」
「凄いもの?」
何だろうと思って彼女の側へと向かう。
地面から十五センチほどの高さで綺麗に刈り揃えられたアーサの茎の根元。
なんとそこに、懐かしくも感じる見慣れたものが埋まっていた。
スーパーに行けば当たり前のように並んでいるそれ。
土から少しだけ顔をだしているのは、オレンジ色の――。
「こ、これってまさか……」
「えぇ、そのまさかよ!」
俺とレイアが視線を合わせる。それから二人同時に、
「「ニンジン!」」
――と叫んだ。
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そのニンジンは誰のもの?
飢えた男は猫と幼女を交互に見た。
渡してなるものか。これは俺のだ!
次回
【野菜炒め→家族会議?→異変。】
ニンジンを巡るサバイバル会議が始まる!?




