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第86話『得た物と失った者』

遅くなってすいません!

ちょっと状態異常:テスト期間にかかってしまい、執筆時間が全くと言っていいほど取れない状況になってしまったので、長くて2週間程更新が停止します。

復帰して早々の更新停止で本当にすいません……


 

 とある田舎町の路地裏にある、気味の悪い1軒の建物。

 用がなければとても近付こうとは思わないそんな場所から出てくる人影があった。


「ふぅ、アルテフ本体は弱くて助かった」


 呪いに蝕まれて村を滅ぼした哀しき守り神。その守り神に呪いをかけた張本人である呪術師アルテフを討った、前線で棍を振る神官界の異端児、トーカである。


 結局、身代わり人形も呪造獣も失ったアルテフには、ご自慢の呪術をも【カースキュアー】で解呪できるトーカを止める術はなく、そのまま重鋼鉄棍の錆となった。


「ったく……本当に胸クソ悪くなる奴だったな……」


 今回のアルテフ戦で得た物は限り無く少ない。

 元凶こそ倒したものの、アルテフ自身は相当に弱く、レベルも上がらなかった。得た物と言えばせいぜい2つ。


 アルテフの呪いを【カースキュアー】で解除しまくっている時に習得した『解呪』という、読んで字のごとく呪いを祓うスキルと、『カースリング』という趣味の悪いデザインの指輪だけだ。


 一応『カースリング』には『人を呪わば穴二つ』という『呪術魔法』を強化してくれるスキルがついてはいたが、それも「呪術魔法の効果を2倍にする代わりに術者自身にも解除不可の同一効果の呪いを付与する」という使い所を選びそうな効果だった。


 一応このカースリングを装備して『呪術魔法』でVIT減少の呪いを全力でかければ相手の防御力を無視して殴る事も出来るが……

 他のステータス値の場合は自身に対する反動がデカ過ぎて使い道と言えばこの程度になるだろう。


「後は……村長老に村の……今回の事件の諸々の調査結果を伝えるだけだな」


 守り神が守っていたはずの村に牙を剥いた理由は、1人の呪術師による身勝手な呪いが原因であり、その呪術師はもういない。


 最後まで見苦しく喚き散らしていたアルテフを倒したところで死んだ彼等が生き返る訳でもなければ気分が晴れる訳でもなかった。


 直接の被害者ではない俺ですらそうなのだから、直接の被害者であるあの村の住人達の無念が晴れることは決して無いだろう。


 それでも……俺には包み隠さず全てを伝える義務がある。


 ◇◇◇◇◇


「そう、じゃったか……」


 トーカの報告を聞き終えた村長老は、まさになんとか……といった様子でそう絞り出すと、それっきり黙ってしまった。


 顔を俯かせ、何とはなしに豊かな髭を撫でている村長老の内心はいかがなものか……それはトーカには分からない。


 ただ、村長老の視線はそれでもトーカが取り出した彼等の遺品に注がれ続けている事だけは間違いない。


 数分……あるいは数秒の沈黙の後、村長老はようやくその遺品達から視線を上げ、同じく沈黙を保っていたトーカに向き直る。


「まずはお礼を言わせて欲しい。強大な相手に大切な者達を守るために勇敢にも立ち向かい、そして散って逝った彼等の遺品すら回収してやれんでは彼等も浮かばれんだろう」


 まるで空気を読んで遠慮したかの様な控え目なクエストクリアのファンファーレが静かに脳内に響き渡る。


「彼等の、そして守り神様の敵を討ってくれた事、重ねて感謝する」


 村長老は、深々と頭を下げる。心の底から村の敵を……呪術師アルテフを討ってくれた事に感謝している事は疑いようもない。


 それでも、トーカはその感謝に純粋に喜ぶ気持ちにはなれなかった。

 ジャジャから皆を逃がす為にジャジャに立ち向かった村の男衆や、呪いに蝕まれて村を滅ぼさせられた守り神、そして、1度折れた心を再び奮い起こしたムート。


 救われない者が多過ぎる。


「若いのに無理しなさるな。お主がいなければ我等を逃がす為に戦った彼等を弔う事すら出来なかったのじゃ。お主が気に病む必要は無い」


 いたたまれなくなって俯いていると、村長老は朗らかにそう言ってくれた。

 だからと言ってそう簡単に割り切れる物でも無かったが……ここでまだくよくよしているのは、1番辛い立場にいるにも関わらずこちらに気を使ってくれた村長老に失礼と言うものだろう。


「俺は犠牲になったほとんどの人の最期を知りません。でも……間違いなく彼等は皆、最後まで大切な人達を守るために勇気を振り絞って戦っていたと思います」

「ほほ、そう言ってもらえると村の長として鼻が高いの」


 その後も村長老と今回の件についての会話を重ね、そろそろ帰ろうか言う時になって村長老が「そうじゃ」と呟き、机の下から1本のビンを取り出す。


「お礼を渡しておらんかったな。コレを持って行ってくれ」


 ゴトリと机に置かれたビンのサイズはだいたい一升瓶くらいだろうか。白い陶器製のようで、中に何が入っているのかは伺いしれない。ちゃぽちゃぽという音が聞こえるので液体が入っている事は間違いないだろうが……


「コレはワシが作った秘伝の薬酒(くすりざけ)じゃ。コレを飲むだけで万病に効く、まさに万能薬じゃ。まぁとんでもなく苦いのが玉に瑕じゃがな」


 ほがらかに笑いながら手渡された薬酒入のビンは、しっかりとした重量感を受け取った腕に伝えてくる。満タン近く入っているのではないだろうか。


 =========================


 『秘伝の薬酒』


 とある村に代々伝わる

 特殊な製法で作られた秘伝の薬酒。

 その効果は凄まじく

 1口飲むだけであらゆる病を治し、

 小さな傷ならたちどころに癒すという。

 ただしとてつもなく苦い。


 【効果】

 全状態異常を回復し、HPを僅かに回復する。


 =========================


 これは……身も蓋もない言い方をすれば最高クラスのポーションって事だよな。

 あらゆる状態異常を治すだけでも凄いのにHPの回復効果もあるとか……村長老の言う通りまさに万能薬だな。


「これ……貰ってもいいんですか……?」

「ほっほっほ、ほんのお礼の気持ちじゃよ。村を襲った災いの元凶を討ってくれた恩人を手ぶらで返したとなれば末代までの恥じゃ」

「そういう事なら……ありがたくいただきます」


 薬酒の入った一升瓶をインベントリにしまうと、村長老に改めてお礼を言うと、村長老に見送られながらトーカは村長老の家を後にした。


 ◇◇◇◇◇


「ふぅ……っと、もう10時過ぎか……」


 ログアウトして、《EBO》現実世界に帰ってきた時にはもう既に時計の針は10時過ぎを示していた。明日は日曜日とは言え、夕飯も食べずにぶっ続けで……というのはいただけない。


 ジャジャ戦が予想以上に長引いた事や、村長老に報告に行った後に園長にも報告した事も原因としてはあるのだろうが……それを言い訳にしてはダメだろう。


「夕飯は……どうするかな」


 昼以来何も食べてないので腹は減ってはいるが、この時間からガッツリ食べるのもさすがにはばかられる。


「うーん、どうしたものか……」


 コンコンッ


 護が悩んでいると、片方の窓が時間を考えてか控えめにノックされる。ノックされたのは米倉家の方向の窓だ。


「瞬?こんな時間にどうしたんだ……?」

「護!助けてくれ!」


 窓を開けて瞬を招き入れる。すると、するりとした動きで部屋の中に入ってくるや否や、瞬は護に縋り付き、そんな事を言ってきた。


 その緊迫した表情から、何か並々ならぬものを感じ取った護も、同じく真剣な表情になる。


「何があったんだ!?」

「家が……家が占領されちまったんだ……!」

「占領……?」


 まさかこの現代日本で占領なんて言葉を聞くとは思わなかったが……それでも相当切迫した状況だと言うことは瞬の並々ならぬ焦りようを見れば分かる。


「占領って……どういう事だ?」

「家が……JK達に占領されちまったんだよ!」

「………………………………はっ?」


 JKが?瞬の家を占領?マジでどういう事だ?


「すまん。全然話が飲み込めない。詳しく説明してくれ」

「イモウト、ゲツヨウ、ショウテスト。ベンキョウカイ、ユウジン、ツレコム。ケッキョク、ヨニン、トマル。メチャクチャ、キマズイ」

「なぜにカタコト?」


 けど言いたい事はだいたい分かった。

 瞬の一つ下の妹が月曜日に小テストがあって、それ対策で友人4人と勉強会をしていたと。んでしかも泊まる流れになって、家に知らないJKが4人がいる状況が気まず過ぎて俺の部屋に逃げて来たと。


「…………という事でいいか?」

「さすが護!ぶっちゃけあれだけ(冗談半分のカタコト)で完全に伝わるとかむしろ怖いな!」

「はいはい。飯は食ったか?」

「知らんJK4人+妹がキャイキャイ食ってる中で一緒に食えと?最初はJK組で外食しに行く予定だったのに、娘の友達のお泊まりにテンション上がってる母さんが変に張り切って料理作ったおかげで夕飯食い損ねたよ」


 うん。知ってた。


「まぁそうだよな。俺も食ってないし……軽くなんか作るか」

「さっすが護!」


 瞬を引き連れてリビングに向かうと、瞬には適当に待機してもらってぱぱっと軽食を作る。

 と言っても冷凍していた米を解凍しておにぎりを作るだけだが。


「にしても護が夕飯食ってないって珍しいな」

「あーちょっと《EBO》のクエストが長引いてな」

「おぉ、随分とめり込んでますなぁ。っとなら明日は時間あるか?」


 んー明日か……食材の買い出しがあるけどそれ以外はちょうどジャジャ関連のクエストも終わったし、特に何も無かったな。


 早速出来上がったシンプルに塩を振った握り飯を瞬に投げ渡し、残りは皿に乗せてリビングに持っていく。


「明日は食材の買い出し以外は、特に予定は無いな」

「なら明日ちょっと付き合ってくれよ。っても《EBO》だけどな」

「何気にお前と《EBO》するのも久しぶりだな。分かった、買い出し行ってからだから……午後からでいいか?」

「あぁ、んじゃ1時に噴水広場な」

「了解」


 結局、この後も夜食のおにぎりを食べながら瞬と《EBO》談議に花を咲かせ、夜は更けていき、寝る頃にはとっくに日付を跨いでいた。


一応今回でジャジャ編は終了となります。

次回からは幼馴染サイドのお話になる予定です(予定は未定であって決定ではない)


今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!


おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします


ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!


今後も当作品をよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] アルテフのホルマリン漬け達どうなったか気になるー
[気になる点] 最近読み始め。 瞬の妹突然出てきたような。主人公達高1で一つ下の妹も高校生? 男3人ならまだしも1つ上の女の幼馴染み(明楽)居たら妹も絡むのが普通なのでは?(´-ω-`)
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