第277話 『蠱毒・2日目《因縁》』
拙者特に設定ないけど名前考えるの大好き侍でござる
文字通り桁が違う獲得ポイントにさすがのヒャッハー達も面食らっているのと同時刻。
やる事が事前にほぼ決まっているが故に開始が遅れても手早く終わった【カグラ】の会議と違い、元は敵同士である複数クランからなる連合の会議は未だに続いていた。
◇◇◇◇
『あえて明言させて貰うが、対【カグラ】を掲げるこの同盟において、絶対的なエースと呼べるクランないし個人は存在しない』
この同盟の発案者にして盟主たるギルド【アルガK】その代表を務める全身鎧の騎士、レオは取り繕うこと無く言い切った。
『【カグラ】はその圧倒的な力故にイベントに取り込まれ、それすらも逆手にとって魔王として君臨している。そして、そんな【カグラ】と渡り合えると目されるトップギルド……数少ないSランクギルドたる【クラウン】や【魔導研究会】、そしていくらかのAランクギルドなど、声はかけたが参加表明が得られなかった戦力も多い』
その言葉に、一部の人プレイヤー達の雰囲気がピリつく。彼らは総じてAランクギルドのメンバーであり、この言い方ではまるで……。
『まるで自分たちは有力ではないと言っている様ではないか。そう誤解される言い方だったのは認めよう』
先んじて、レオが頭を下げる。
先手を打たれてしまっては糾弾の声はあげにくい。とりあえず、彼らはレオに視線で先を促す。
『【眠れる羊】、【唄う幸運】、【ネオンテトラ】、【食卓戦争】、【偶像神輿】、【ミミランド】。そして、【御庭番衆】。Aランクギルドだけで7つ、錚々たる顔ぶれに加え、Bランク以下やこのイベントのための急増ギルドを含めれば我々【対神楽連合】はこのイベント最大規模の一団と言って差し支えないだろう』
Aランクギルドとは、決してSランクになれなかった敗北者などでは無い。
そもそも、Sランクは達成される事をほぼ想定していないであろう理不尽極まりない難易度の条件を満たした例外である。
現に、例外中の例外たるS+ランクの【カグラ】を含めてもSランクは先に名の上がった【クラウン】と【魔導研究会】を含めた3ギルドしか存在しない、ある種のバグのような存在なのだ。
そして、Aランクギルドも数多く存在するギルドの中でたったの10ギルドしか存在しない、上澄みも上澄み。
その半分以上が集ったこの同盟は、誇張抜きで最大勢力なのだ。
それでも、最大戦力足りえないところがカグラの、ひいてはSランクの異常さを際立たせているのだが。
『絶対的なエースの不在と戦力の不足は違う。むしろ、1人の絶対的なエースと九十九の有象無象集まった烏合の衆よりも、百の猛者が集まった軍団の方が圧倒的に強い』
握り締めた拳を円卓に叩き付け、レオは叫ぶ。
『故に!こうして歴戦の猛者が集いし我らが恐れる事は何も無い!目指すはただ1つ。勝利だ!』
「「「おぉぉぉぉぉぉ!」」」
円卓に集いし猛者共が沸く。
それは、君臨する強者共の喉元を食い千切らんと猛る戦士の咆哮。即席の同盟である彼らは、しかし【カグラ】という圧倒的かつ強大な敵を前に生半可なギルドよりも結託していた。
「あのぉ、いっこ、いいですかぁ?」
そんな中、円卓に座する1人の少女が手を上げる。
戦場には似つかわしくないふわふわのゴシックドレスに身を包み、こんな場所よりもお菓子の家のようなファンシーな場所が似合うような可愛らしい笑顔を浮かべる少女。
まるでお姫様のような甘ったるい声は、猛る戦士達すらも蕩けさせる危険な気配を宿していた。
『ふむ?なんだろうか。【戦場神輿】クランリーダー、メリル氏』
「あたしのことはぁ、メリルちゃん、って呼んで欲しいな♡」
『そうか。ではメリルちゃん。何か意見かな?』
(((呼ぶんだ)))
「はいぃ。えっとぉ、この後、【カグラ】と戦うじゃないですかぁ。その時ぃ、出来ればトーカさんは【戦場神輿】に任せて欲しいなぁって」
それは、甘ったるい声に包まれていてもなお鋭さを残した『獲物宣言』だった。
この同盟に集った者達はそれぞれが何かしらの思いを抱えている。
例えば、強者へ挑むため。
例えば、【カグラ】の独走を拒むため。
例えば、【カグラ】の誰かとの因縁のため。
個人の欲を出せば、崩壊はせずとも歪みが入る。それを承知の上で彼女はソレを切り出したのだ。
『ふむ。同盟としては双方の戦力、戦術を考慮して配分を割り振りたいと思っているのですが……。何か理由でもあるのでしょうか?』
そう尋ねたのは、リーダーたるレオではなく参謀を担うヴァルゴだ。そして、レオは口を挟まない。己よりも参謀に任せる方がいいと判断したのだ。
「理由ですかぁ?もちろん、ありますよぉ。あたしぃ、トーカさんのファンなんですぅ。キャッ言っちゃった!」
恥ずかしそうに両手で口元を覆うメリル。
「あ、あとぉ。【求道者】のルーティちゃんもファンなんだぁ。この同盟にいないって聞いてぇ、残念だったなぁ」
かつて【異端と王道】の名を取り、正式にギルドとして発足するにあたって名を改めたAランクギルド【求道者】。
この同盟に参加していない3つのAランクギルドのうちの一角である彼らの最大火力保持者の名を挙げ、メリルはキャピキャピと笑う。
トーカのファンだから任せて欲しい。
ルーティのファンだからいなくて残念だ。
そのどちらもが戯言であると、誰の目にも明らかであった。
可愛く愛らしく包んだオブラートを突き破り、グラグラと煮え滾るは果てしない程の敵意。
『まぁ、我々は一時の同盟。最低限の司令系統はあっても厳格な上下はありません。他に、【カグラ】の誰を相手にしたいなどの希望がある人、ないしグループはありますか?』
ため息を1つ、ヴァルゴは他のメンバーへと問いかける。下手に縛り付けて軋轢を産むくらいなら、因縁を利用して士気を上げようと判断したのだ。
「ふむ。わがままが許されるのであれば、拙者はリーシャ殿に借りがある故、そちらに割り振って頂きたいでござる。無論、【御庭番衆】全てをそちらに、などと言うつもりはないでござるよ。これはあくまで拙者個人の因縁でござる」
「ん。わたしたち【ミミランド】はリクルスくんをまかせてほしい。マリィちゃんもハルちゃんもカルちゃんも、リクルスくんには借りがあるから」
「いいねぇ。自分を出していい組織は居心地がいい。俺……ってか俺らは白龍姫と当てて欲しいね。実質負けの引き分けに持ち込まれたんだ。革命しなきゃ寝覚めが悪い」
「なら俺も……」「私らも……」
【御庭番衆】を率いるフィロー、【ミミランド】を率いるミミティア、ギルドではないが『革命軍』のリーダー。この3人を皮切りに、各々が因縁の相手を告げていく。
直接的な因縁以外にも、憧れや嫉妬、一方的なライバル視など絡まりに絡まった【カグラ】との因縁の束がヴァルゴに叩きつけられる。
『なるほど、分かりました。あなた方がソレを強く望むと言うのなら、考慮しましょう。ただし、必ずしも配慮する訳ではありません。作戦によっては希望に沿わない配属になる可能性があることは覚悟しておいて下さい』
『ま、しょうがねぇでやんすよ。出る杭は打たれるじゃねぇでやんすが、特出した力ってのは良くも悪くも縁を引き付けやすからね』
『ってな訳でだ。それぞれ希望の相手がいることは理解した。最大限その意を汲むように作戦を(ヴァルゴが)組む。けどまぁ、ダブりもあれば得手不得手もある。どうなろうが恨みっこ無しだ。いいな?』
「はぁい♡」
「勿論でござる」
「ん。わかった」
「了解だ」
強大が故に多くの因縁を引き付けた【カグラ】の元へ、その縁を手繰り刺客が迫る。
容易く弾くか下克上か。激突の時が近付いていた。




