第256.5話 『妖精会議』
これもある種の運営サイド
新キャラ(実は何人か既出)大量放出!
1番大変だったのは妖精の名前を決める作業
友人に適当に名前の候補出してーとお願いして出た候補から妖精本人が選んだものにする事で解決しました
ここは、プレイヤー達とは隔てられた特別な空間。
そよ風が草原を撫で、葉擦れとせせらぎの穏やかな二重奏に花々が微笑む。そんな美しい自然が広がる、GMコール担当用AIたる『妖精』達の居住区にして憩いの場。
通称『エリアS』。
その中心には人間から見ても立派なサイズの大樹をくり抜いて作られた、そんなおとぎ話に出てくるような、『木のお家』が大きくそびえ立っている。
「さて、時間です。会議を始めましょう」
妖精達が『トールハウス』と呼ぶそのツリーハウスの中では、直近に迫った第3回イベント『ギルド対抗戦』に向けて、運営サイドとは別口に妖精達による会議が開かれていた。
大きな丸太で作られた丸テーブルをぐるりと囲むように座る7人の妖精達。
妖精は全員で10人いるので、既に3人足りていない。
会議の開始を宣言したのは、かつて現実世界にてAR越しにとはいえヒャッハー達と邂逅を果たした第1妖精のエリカ。
腰まで伸びる白髪をティアラを模した髪留めでまとめた、灰色の瞳を持つ真面目そうな雰囲気を纏った妖精だ。
「姉貴ぃー、オレの目がおかしくなったんじゃなきゃよ、頭数足りなくねぇか?」
会議が始まって真っ先にそう投げかけたのは、これまた丸太で作られた丸椅子の上で器用にあぐらを組んでいる第2妖精のタウィル。
ベリーショートの灰髪と吸い込まれそうな黒色の瞳を持った男勝りな性格の妖精だ。
「そうねぇ……ひぃ、ふぅ、みぃ……。確かに、足りないわね。リーリアちゃんとマーシャちゃん、後はお母様も居ないわ」
片手を頬に当て、聖母のごとき慈愛に満ちた微笑みを浮かべ指折り数えるのは第3妖精のアンディア。ウェーブのかかったふわふわの黒髪を腰まで伸ばし、優しげに細められた青い瞳と圧倒的な胸部装甲を持った妖精だ。
「あの二人のことだからどうせサボりでしょ?部屋でごろごろしてたりどっかぶらぶらしてるに決まってるわ」
そう言い捨てて卓上に置かれたお菓子をポリポリと口に運ぶのは、第4妖精のカトレア。
美しい青髪のツインテールと燃え上がるような赤い瞳を持った、身長やら胸部装甲やらが全体的にちっこい妖精だ。
アンディアとの胸囲の格差に創造主に反旗を翻そうとして同族の第1妖精にたしなめられた過去を持っていたりする。
「マーシャは間違いなく部屋で寝てるだけでしょう。私が引っ張り出して来ます」
『えー、ひどいなー。私だってちゃんと参加するよー』
きっちりと切り揃えられた鮮やかな赤髪とキリッとした黄色の瞳が特徴的な、メガネをかけた生真面目そうな第5妖精のシェスカがすくっと立ち上がると、見計らったように彼女の2つ隣の空席の上にヴンッとウィンドウが現れ、手入れのされてない伸ばしっぱなしの緑髪と眠たげな橙の瞳を持った第7妖精のマーシャが布団にくるまった姿で映し出される。
「マーねーさま、めっ!だよ!こういう時くらいちゃんと集まらないと!」
そんなものぐさな姉にぷりぷりとお説教をしているのは、第8妖精のセラ。
物理的に小さな体を持つ妖精の中でも、幼いという意味で一際小さな体格の彼女は橙の髪をぴょこんと跳ねるサイドテールにまとめ、怪しげに輝く紫の瞳に可愛らしい怒りを宿している。
「どうせマーねぇちゃんの事だから『会議には参加するんだからいいでしょー』って言うに決まってるって。それより、リーねぇちゃんと母さんはどうなのさ」
そう言って残った2つの空席をそれぞれ指さすのは、第9妖精のケイシー。
タウィルほどでは無いが結構短めに切り揃えた紫髪をぴょんぴょんと跳ねさせるくせっ毛とジト目に彩られながらも元気そうな白い瞳がどことなく活発さを醸し出している。
この8人に欠席している第6妖精と妖精達をまとめる『母』と呼ばれる第10妖精を加えた計10人が《EBO》のGMコールを担当するAI達である。
「お母様は次回イベントについての運営の方々の会議に呼ばれているので欠席です。というか、お母様がそっちの会議に出席してる間に私たちの方でも話し合っておきなさいとお母様に言われたのが会議の発端よ」
「さすがはおかーさまね!」
「すっげーよなぁ母さんは。GMコール担当用AIってよりもう半分くらい実際に運営する側だろ?」
「オレ達も負けてらんねぇよなぁ?……ぷはぁ、ってな訳で会議すっか。……ってあれ?シェスカはどこ行きやがった?」
卓上に置かれたほんのり甘いはちみつ水を一息に飲み干したタウィルが会議を進めようとして、空席がひとつ増えている事に気付いた。
「シェスカちゃんならさっき上に上がって行ったわよ?多分、マーシャちゃんを引っ張り出して来るんじゃないかしら。まぁ、カトレアちゃん、お口の周りにお菓子のカスがついてるわよ」
「ふぇ?ふぉふぉ?」
「カトレア、口にものを入れたまま喋るのは止めなさい」
「……ごっくん。はーいエリカ姉様」
「あらあら、ふきふきしましょうね〜」
「アンディア姉様、子供扱いしないで!」
「あら、怒られちゃった。カトレアちゃんったら可愛い〜」
「むぅぅぅ!」
と、その時。会議が始まらず、そんな微笑ましいやり取りが繰り広げられている会議室に、妙にまったりとした悲鳴が響き渡る。
「は〜な〜し〜て〜。横暴だ!りもーとでも出席してるんだからいーじゃんか〜!」
「ダメです。こういうのは全員が直接顔を合わせる事にも意味があるのです。自由気ままな子も多いですし、たまには姉妹全員で直接対面する機会も大切にしてください」
「ぶ〜。そんなこと言ったってリーリアちゃんも来てないじゃんか〜」
「それについても報告があるから諦めて会議に参加しなさい」
「働き方改革はどこに行ったんだ〜!」
「あなたは大して働いてないでしょう」
「うっ……」
いつの間にか引きこもりの部屋に突撃していたシェスカがマーシャの首根っこを引っ張って連れ出して来たのだ。
「ご苦労様、シェスカ。マーシャ担当みたいにしてしまって悪いわね」
「いえ、エリカ姉さん。私が自主的にやってる事ですので。この子は無理やりにでも引っ張り出して来ないと部屋から出てきませんから」
「む、そんなことないやい!」
「くははっ、マーシャが部屋から出てくるのなんて母上に怒られた時かお菓子取りに来る時くらいじゃねぇか」
「ぐぅのねもでないとはまさにこのこと」
「マーシャ姉さん変なとこで素直だよな」
「マーねーさまぐでーってしちゃだめ!ちゃんと会議に参加しなきゃ!……マーねーさまほっぺぷにぷにね」
「くすぐったいよー」
「……それで、マーシャを引っ張り出す前にリーリアの部屋にも行ってみたのですが。机の上にこんな書き置き?が」
ぐでっとしているマーシャを席に座らせたシェスカはそのまま流れるようにテーブルに突っ伏して妹にぽっぺぷにぷにの刑に処されているマーシャを見てため息を付くと、手のひら大のファミレスの呼び出しボタンの様な装置をテーブルに置く。
「これは……?」
「とりあえず、見てもらった方が早いと思います。では」
疑問に思う姉妹たちに答えるべく、シェスカが呼び出しボタンのような装置をカチッと押す。
『あー、あー、マイクテスマイクテス。マイクなんかないけどね!』
すると、きらんっと擬音がつきそうな無駄に凝ったポーズを決めるリーリアの立体映像が映し出される。
「あっはっは、あのバカまーた凝った事をするなぁ」
「その行動力を変な方向以外にも活かしてくれればいいのですが……」
『えー、当メッセージは録音なので質問には答えられません!ごめんね!』
恐らく誰かが開口一番にどこにいるんだ!的な質問をしてくる事を予想して仕込んだメッセージが、無駄に洗練された振り付けと共に流れる。
確かに質問した後にこれが来たら大変イラッとするだろう。だが、悲しいかな誰も質問をしていなかったので滑稽なのは記録映像のリーリアの方であった。
そんな煽ろうとして失敗してる滑稽なリーリア(記録映像)は急にシリアスぶった雰囲気で話題の急転換をぶちかます。
『さて……このメッセージを聞いているという事は、私はもうこの家には居ないでしょう……』
テンションの乱高下が激し過ぎる上にまだ最初のミスが尾を引いているが、リーリアの立体映像は録画故に滑稽さを挽回する機会を与えられずに進んでいく。
『私は……私は……………………………………………………』
「はぁ……一体何がしたいのかしらあの子」
「単純にタメが長ぇ。過ぎたるは及ばざるが如しだな」
「あらあら、止まっちゃったわ。故障かしら?」
「違うでしょ。これ会議止めてまで見る必要ある?」
「この世ではなくこの家と言ってる辺り十中八九家出の報告でしょうね」
「……zzz」
「マーねーさま寝ちゃダメ!」
「無駄な所に力を入れてるってのがリーリア姉さんらしいと言えばらしいよな」
両手を小さく胸の前で握りしめるヒロインっぽいポーズで無駄に長いタメをする立体映像の中のリーリアが続ける。
『私は……!こんなブラック企業辞めてやる!ストライキだ!ボイコットだ!サボりだ!無断欠勤だ!』
「これも一種の家出……なのかしら」
「というか、辞めるならストライキもボイコットもサボりも無断欠勤も出来ないでしょう」
「本当に家出したいならこんなの残さずにふらっと居なくなればいいのに。かまってちゃんなんだから」
「あら、マーちゃんったらぐっすりね。お布団かけてあげなくちゃ」
「……もぐむにゃもぐむにゃ……」
「見てみ見てみ!マーシャ姉さんの口元にお菓子運ぶと寝ながら食べるよ!」
「マーねーさま凄い!セラそんなこと出来ないよ!」
「ほーら。無駄に長いタメ作るからチビ達が飽きちまってるよ」
『多分これを聞いた時、カトレア姉様辺りが『かまってちゃんなんだから』って言ってる事でしょう。ざんね〜ん!違いますぅ〜!引き止めて欲しいとか探して欲しいとかじゃありませ〜ん!』
「なっ……!あんのバカ妹……!」
「ぶはっ!おいおい、思っきり言い当てられてんじゃねぇか」
「タウィル姉様!」
『私がこのメッセージを残した理由はただ1つ!なんで私だけ仕事多いの!?この不満をぶちまけたかったからです!おかしくない!?なんで私だけ通常業務に加えてイベント担当もしなきゃいけないの!?しかもコール担当も私だけ配分多いし!挙句の果てにはお知らせメッセージ文も書くってどういうこと!?しかもそれの補填が飴玉1粒って……!しかもハッカ飴……!もはや嫌がらせでしょ!世の中理不尽だ!待遇の改善を要求する!具体的にはマーシャレベルで働かなくていい環境を要求する!いや、もう疲れた!私は旅に出る!友の元へと三千里!私は今後一切の業務を放棄するぞ〜!ぐっばいしすたーず!たっしゃでなぁ〜!』
地団駄を踏んで転げ回って駄々こねて、そんな小さな子供の癇癪モーションをひとしきり取ったあとで負け惜しみのような捨て台詞と共に立体映像は去っていった。
……と、これが残されたメッセージの全貌である。
「いや、基本あなたの仕事が多いのは自業自得なのですが」
「第1回イベントの説明の時もエボだけの予定だったのに勝手に引っ付いてってプレイヤーに気に入られちまったから続投されてるだけだしな」
「お知らせ文に関しても確か【島】を【カグラ】が手に入れた時に個性バリバリに出して書いたからじゃあ部分的に担当してみてってなっただけなのに」
「ハッカ飴もいたずらに使うようによく仕入れるから好きだと勘違いされているだけですしね」
「あら〜。リーリアちゃんそんなに大変だったのねぇ。言ってくれればお姉ちゃん手伝ってあげたのに」
姉達は呆れた様にリーリアが隠していた部分を指摘し、妹達は寝てたりほっぺぷにぷにに夢中になっていたりする。
リーリアの置き土産は姉妹達になんのダメージも与えるこは出来なかったようだ。
『やぁ、会議は踊ってるかい?向こうは今イベントに仕込むギミックの会議が終わって【カグラ】を筆頭に一部のプレイヤーへの対策をどうするか話し合ってるけど』
と、そんなノーダメ置き土産の鑑賞が終わったタイミングで会議(始まってすらいない)に乱入してきたのは、イタズラ小僧のような雰囲気を纏った10歳くらいの少年。《EBO》のマスコットキャラクターであるエボ君である。
妖精達と同じAIと言う存在でありながら、全く別の役割を持つエボ君ではあるが、時たまこの『トールハウス』に訪れるのだ。
「されど進まず……どころか始まってすらいないわ。残念ながら。とある妹のせいでね」
『ほむん?そういえばリーリアちゃんがいないね。あの子どうしたの?あとせっかく背後に急に現れたんだからちょっとくらい驚いて欲しかったな〜』
白髪灰目の少年は美少年と言っても過言ではない程に整ったの顔立ちを不満の色に染めながら、ドッキリに対するあまりの無反応ぶりにぶーぶーと不満を露わにする。
見た目に違わぬイタズラ小僧であり、その性格の近さからリーリアとよくセットにされるのも彼女がイベント進行にも駆り出される一因だったりする。
「家出ですって……。今頃どこにいるのかしら……不安だわ……。エボ君、リーリアちゃんがどこに行ったか貴方なら分かるんじゃない?」
『わー、アグレッシブ!この世界のどこに家出したんだろうね。んー、そりゃまあ識ろうとすれば分かるけど……そんなホイホイ使っていいものでもないし。あの子ならそのうちふらっと帰ってくるでしょ。この世界にあの子を……というか運営側のAIを害せる存在なんて居ないんだから』
「エボの坊ちゃんの言う通りだアンディア。あのバカだってそこまで馬鹿じゃない。満足したらかえってくるさ。それにしても、坊ちゃんがここに来るのは珍しいな。……ってかお前が動き回るとチカチカして目に悪いんだよ。どっかでじっとしてろ」
『やータウィル、君は本当に歯に衣着せないね。そんな君に言われるとこの部屋で動き回りたくなっちゃうよ。とまぁ冗談は置いといて、僕はほら、マスコットキャラクターだからね。君たちとはちょっと担当が違うんだよ。んで、なんで来たかだっけ?次のイベントでも僕は出るしその準備でね。その打ち合わせもあって次も僕と一緒に出ることになったリーリアちゃん呼びに来たんだけど……』
無駄足だったみたいだね、とリーリアの席だけ空席になっている会議室を見渡し、両手を横に添えて肩をすくませる。
「あ、エボくん!こっちおいでー、マーねーさまのほっぺが凄いぷにぷになのよ」
『へ?わっ、ほんとだ……!すっごいぷにぷにしてる……マーシャちゃんも大概自由人だよね』
「ふしゅぐっひゃひひょ〜……zzz」
「これは……もう会議どころじゃ無いわね」
「ま、母上不在でまともに会議出来た事なんて数える程もねぇだろ。いつもみたいに一部だけ集まって話詰めとこうぜ」
「ですね。お母様が戻られるまでに最低限報告が出来るくらいまではまとめておきたいです」
「じゃあ私はその間、妹たちの面倒を見てるわ」
『んじゃ僕もリーリアちゃんが家出した事を君たちのお母様と運営の人にチク……伝えに行こーっと』
結局、本来妖精全員で決めるはずだった内容はエリカ、タウィル、カトレア、シェスカの4人による話し合いに委ねられることになったのであった。
全10人の妖精の内9人が(伏線と共に)出てきました
こことは別の妖精登場回を見返すと違和感があったりなかったり
ちなみに最後の一人の『お母様』は描写はないですがセリフが既出だったりします
『お母様』が第10妖精なのに1番上(母)なのには一応理由があります
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