第246話 『適材適所』
おまたせ……!
リアルもちょいちょい用事がある上にソロモン王兼マスター兼騎士くん兼トレーナーはやる事が多過ぎる……!
「ふぅ……リクルス、カレット。分かってると思うが、俺たちの役目は新フィールドボスの討伐および第4の町【ファジー】への到達だ」
トーカは《アラーム・スライム》から目をそらさず、仕切り直す様に白銀ノ戦棍を一度振るう。
「おうよ。最終的にゃみんな通る必要があるとはいえ、今の段階じゃ1人でも達成すりゃいいんだもんな」
「他は任せてボスに専念してくれ……と送り出されたはいいものの、これでは期待を裏切ってしまうぞ!」
トーカの言葉に、リクルスは手甲を打ち鳴らし、カレットは歯痒そうに答える。
包囲してからの総攻撃が失敗し、集合した3人の眼前には、依然ノーダメでプルプルしている《アラーム・スライム》が鎮座している。
このプルプル無敵野郎は無敵性に全振りしているのか、攻撃的とは言い難い。そのせいもあって、こちらから攻撃を仕掛けないとボス戦中にあるまじき何も起こらない時間が流れる事があるのだ。
目標の擦り合わせも兼ねた集まりの後、【カグラ】としてギルドを結成すべくヒャッハー達は動き出していた。
ここで結果を大きく左右することになるのが、メイのゴーレムが行ったことはどこまで達成と判定されるのか、という点だ。
結論としては、討伐系、生産系は含まれる。到達系は含まれない。収集系は実質含まれる。となっている事がメイの調査で判明した。
収集系が実質含まれる、という言い回しなのは、ゴーレムが取得した段階では達成扱いにはならないが、ゴーレムが取得した物をメイが回収すれば達成扱いになるからだ。
これらの判定に対して、メイは「まぁ予想通り、かな。僕のゴーレムって言っちゃえばスキルの産物だし。『人形創造』で作った人形に『改造』で核心石を埋め込んだ物を【魂無き軍団】で統率してるだけだからね。戦闘や生産に関しては『スキルで敵を倒す/アイテムを作る』ってやってるのは同じだから、これがダメだったら必然的にスキル縛りになって生産系は詰むよね。到達はまぁ『投擲』とか『魔法』とかの遠距離攻撃がエリア跨いでも本人がそこに行った事にはならないしこれも当然だね。収集系もスキルで出したアイテムを回収しなきゃ取得したことにはならないのと同じ理論だろうね」と何やら納得した様子で頷いていた。三馬鹿は最初の方で理解を諦めた。
と、言う訳でメイのカバー範囲は生産系、討伐系(雑魚)、収集系となり、旅好きでありこの《EBO》においても最も広い行動範囲を持つリベットが到達系を担当することになった。
リーシャはゴーレムだけでは不安が残る小ボス以上の担当、サクラは実戦経験を積むためにリーシャのボスラッシュに同行していた。
「にしてもよぉ、あの時のメイのはしゃぎっぷりは凄かったよな」
「めちゃくちゃテンション上がっていたな。そりゃもうアゲアゲだったぞ」
「発言が古臭いな……まぁ分からんでもないが。人の縁ってのはどこでどう繋がってるか分からんもんだな……」
そう言って3人が思い出すのは、先程と同じく数時間前のこと。
◇◇◇◇◇
と、再び回想に入るのも芸が無いので端的に伝えよう。
リベットから、新たにメンバーの推薦があったのだ。
その人物は、リベットの親友にしてこと槍作りに関してはメイにも引けを取らない槍の名匠。ウォルカスである。
トーカとはかつて1度だけ会話した事のある人物だが、ギルドを結成するならぜひ自分の親友もとリベットが推薦してきたのである。
無闇矢鱈にグループを大きくするつもりはトーカ達には無いが、リベットの親友と言うならば拒む理由もない。それどころか、槍作りに関してはメイに勝るとも劣らない名匠であるならなおさらだ。
なので【カグラ】としては普通に受け入れる方針だったのだが、ウォルカス本人が「既に形成されているコミュニティに友人特権でタダ入りするのは気が引けるからね。今回のギルド結成クエストで役立ってみせるからそれを入団テスト代わりにでもお願いするよ」と言い出したのだ。
そう言った経緯で、ウォルカスはリベットに同行しその場所場所でのアイテムの採取と一部の生産系を受け持つ事になったのだ。
「正直さ、現状生産はメイ一強だったじゃん?特に俺らん中だとトーカが齧ってるくらいしか無いし。それに切磋琢磨できる相手が増えるってのは……」
「正直、楽しみであり怖くもあるよな。常に自分と競争してるようなメイにさらに好敵手とも言える相手が出てくるんだ」
「ウォルカスの方が感化されてメイ二世になるかもしれんぞ!……む?メイが2人とか普通にこの世の終わりでは?」
「お前はメイをなんだと思ってるんだ……?」
こちらの攻撃は全て通じず、向こうは攻撃頻度が少ない。そんな理由から戦闘中にも関わらず流れる穏やかな時間。そんな時間を彩るのは、手持ち無沙汰なヒャッハー達の会話だ。
「さて、そろそろ話を戻すか。俺たちはボスの突破と新たな町への到達を任されて、それを達成出来ずに躓いている訳だが……」
「強いスライムの定石って言ったら……物理無効とか核があってそれ以外は何があってもノーダメって感じだよな?後は変幻自在か」
とりあえず動かない《アラーム・スライム》4、5発ぶん殴って帰ってきたリクルスがその不思議な手応えに気持ち悪そうに手をぐっぱぐっぱする。
ここまで手応えの無い相手を殴るというのは、なんだかんだストレスが溜まるのだ。
「その理論だと私の『火魔法』が効かないのはおかしいぞ……?」
「あらゆる攻撃に対して耐性を持ってるって思った方が良いだろうな。となると考えられるのは核があってそこ以外はノーダメって線だが……」
「んー、それっぽいのはねぇよな?全身薄水色透明のプルプルだ。核が透明だったりすんのかね?」
目を細めて《アラーム・スライム》を観察するリクルスだが、トーカが見つけられない以上リクルスが多少目を凝らした程度で何か見つかる訳もない。
「見えさえすれば撃ち抜くのは訳ないのだがな……リーシャがやっていたようにな!」
「あー懐かしいな。池の主……アレ正式名称なんだ?まぁいいや。そいつが復活しようとした時にリーシャが射抜いたヤツ」
「そんなこともあったな。池の主は正式名称『池氷竜』らしいぞ。他とは一線を画した強さだったし、納得と言えば納得だな」
「「竜!?」」
ファンタジーの代名詞でありながら、未だにその存在をイベントでしか確認されていない竜。
池の主がそんな大それた存在であったことに驚きを隠せない2人。
だが、カレットの【白龍砲】を防いでみせたりめちゃくちゃなまでの強さとさらに復活するという特異性を考えれば、トーカの言うように納得である。
「待って、何それ俺知らない!」
「私も知らんぞ!?なぜ黙っていた!?」
「もしかしてお前ら……ドロップアイテム確認してねぇの……?」
「「……あっ」」
「ウッソだろお前ら!?池の主と戦ってから結構時間あるぞ!?」
「いやぁ……あの時は戦うのが楽しすぎてその後のことは考えてなかったというか」
「リーシャの復活キャンセルの衝撃でそれどころじゃなかったというか……」
「……マジか。悪い事は言わん。その死蔵されてる素材。メイに売ってこい」
「「あいさー……」」
「あ、それで思い出した。ミッション確認に池の主とも再戦するか」
「むっ!ならば私は初手超全力ブッパを所望するぞ!池よりなお広い焦土を作り上げてやろう!」
「それ俺に死ねって言ってるのとほぼ同義だって分かってるか……?」
「もちろんだ!だが、最速で倒すならそれだろう?」
「……はぁ。とりあえず、話はこのスライム倒してからだな」
ズレかけていた話を、無理やり元に戻す。
カレットがどこまで強くなろうと、【サクリファイス】でさらに上乗せ出来る以上常にカレットの全力は自分の死が前提にあるという事実から、トーカはそっと目を逸らした。
「とりあえず、核らしき物は確認出来ない。ただし、透明で見えない可能性はあり、と。なら他に考えられるのは許容限界があるとかか?一定値までダメージは無効化する……みたいな。サブHP……あるいはアーマーとでも言うのか?そういう能力を持ってる可能性だ」
「それは確かにありそう……だけどよ、俺ら3人で結構ダメージ与えただろ?それでもまだ耐えられるってのはちょっと怖いぞ……?」
「むぅ……分からん!【白龍砲】で焼き払うか!?」
「アリかナシかで言えば割とアリ。ただ、威力を落としてあるとはいえ初手の【白龍砲】を耐えられてる……ノーダメだった以上、無策で火力を上げただけで通用するかは怪しい」
そう。実は、出会い頭の初手【白龍砲】を《アラーム・スライム》は耐えているのだ。
正確には、それすらノーダメージで乗り切った。
この前例があるからこそ、一定ダメージ以下は無効という1番ありそうな可能性を切り捨てているのだ。
なにせ、最低でも【白龍砲】以上のダメージでないと攻撃が通らないボスというのは恐らくほとんど誰も突破出来なくなるからだ。
「んー、んー、んー……なぁちょっと思い付いたんだけどさ」
「お、リクルスがか?他にいい案はあるか?」
「酷くね!?いや、今回は真面目に気になる事があるんだよ!」
「ふむ。そこまで言うなら言ってみるといい。だが、下らん事だったらトーカの雷が落ちるぞ!」
「最初に却下した俺も悪いが、勝手に人の名前使って脅しをかけるな。それで?気になることって?」
珍しくリクルスが何かに気付いたようだ。
ただ、悲しいかな普段の脳筋スタイル故に信じて貰えなかった。悲しきかな脳筋。さすがは知能を捨てて筋力を上昇させるスキルを好んで使うだけはある。
「このフィールドさ、狭い上に岩とかのオブジェクトが多くね?ロッ君とか群狼とかのボス戦のフィールドってもっと広いよな?」
「む……?言われてみれば……そうだな?私はあんまり動かんから分からなかったぞ」
「………………確かに、そうだな。オブジェクトの多さは気になってはいたが、言われてみれば狭い気がするな」
「だろだろ!?俺だっていつまでも脳みそ空っぽ脳筋ファイターじゃねぇんだ!」
「うるさいぞ脳足りん」
「脳足りん!?お前が足りてんのINTだけだろ!」
幼馴染ーズの醜い争いが背後で展開される中、トーカは《アラーム・スライム》に気を配りつつ、改めて周囲を見渡す。
「確かに狭いな。ほか2体のボスのフィールドのだいたい半分くらいか?それに、やけにオブジェクトが多いのもやはり気になる……」
結果、確かに他のボスのフィールドより狭い事が分かった。
比較対象は記憶の中のフィールドだが、群狼はともかくロッ君とは数えるのも億劫になるほど殺戮っている。もはやロッ君のフィールドは完全に脳に焼き付いている。
「となると……あのデカいスライムはダミーで本体はオブジェクトの中に隠れてる……とかか?」
「なるほろ!だったら片っ端からオブジェクトぶっ壊せば分かる!」
「おい!まだそうと決まった訳じゃ……!」
トーカの立てた仮説に真っ先に反応したのはリクルスである。
とりあえず壊っとくか!くらいの気軽さで近くにあった岩のオブジェクトを破壊しにかかる。
それに真っ先に反応したのは、保護者であるトーカ……ではなく、これまで沈黙を保っていた《アラーム・スライム》だった。
『ピュギィァアィァアィアィィィイィッ!!!』
ドライアイスに金属製のスプーンを押し付けた様な、黒板を爪で引っ掻いた様な、朝の目覚ましのような、耳を劈く聞くに絶えない不協和音をあげ、《アラーム・スライム》は岩を破壊しようとしたリクルスに向かって体から触手を生やし叩き付ける。
『ピュギァッ!ピュキィァァ!ピャキャァィァァッ!』
そして、その咆哮を皮切りにこれまで大人しかった《アラーム・スライム》が暴れ始める。
身体中から何本もの触手を生やし、しっちゃかめっちゃかに振り回す。本体もこれまたデタラメに飛び跳ね飛び掛りとこれまでの大人しさが嘘のように騒々しく暴れ回る。
まさに時間が来た目覚ましのように縦横無尽に嵐のごとく暴れ回る《アラーム・スライム》を無視してオブジェクトの破壊に勤しむことはさすがに出来ない。
慌ててヒャッハー達は回避に専念する。
「うひぇあ!なんだこれ!なんだこれ!?」
「めちゃくちゃではないか!魔道士にこんな激しい運動をさせるものでは無いぞ!」
「うるせぇ軽戦士!お前また自分のジョブ忘れたのか!?」
「んなっ!さすがにもう忘れんぞ!なんならしっかり育ててるぞ!魔法の片手間だがな!」
「えぇい!2人ともくだらねぇ言い争いしてるんじゃねぇ!とりあえず黙れテメェら!んで、俺の話を聞け!」
まさに急転直下とでも言うべき状況の悪化に、さすがのヒャッハー達にも焦りが見える。
ギャーギャーと騒ぎ始めた幼馴染ーズを、思わず語気を荒くしたトーカが黙らせる。
長年の調教のおかげか、ギャーギャーとうるさく騒ぎ立てていた幼馴染ーズがピタリと黙り、トーカの言葉に耳を傾ける。本能で危険を察知したのかもしれない。
「名前の通り時間で暴れだした可能性もあるが!状況的にオブジェクトを意図的に破壊しようとしたから暴れだしたんだろう!これまでの戦闘でもアイツが動くのはこっちが攻撃を仕掛けた時だけだ!意図していないとはいえオブジェクトへ攻撃が逸れないように動いてたって可能性がある!」
名は体を表すを実現して危険なアラームと化した《アラーム・スライム》の騒音に対抗するように、トーカの言葉も一言一言が怒鳴るように強くなる。
それがかえって2人に緊張感を与えているのだろう。一言一句聞き逃さないとばかりに集中して耳を済ましている。
「つまりは!さっきの仮説が正解の可能性が高い!」
普段なら、ここでリクルスが「やっぱそうじゃねぇか!俺は正しかった!」と茶々を入れるのだろうが、別に怒っている訳では無いと言え怒鳴っている保護者に対して茶々を入れる様な勇気は無い。
実に素直に話を聞いている。
「だが!さすがにこの中でオブジェクト破壊に専念するのは無理だ!さっきリクルスに攻撃してきた様に!オブジェクトを破壊しようとしたら襲われる可能性が高い!しかも!相手は不定形で1度に攻撃出来る対象におそらく制限がない!」
「なら私の魔法で一気に全て破壊するか!?」
「いや!それも難しい!全てのオブジェクトの場所を把握出来てる訳じゃないし!連発可能なレベルの攻撃じゃ防がれる可能性が高い!」
暴走状態と称しても何ら違和感のないほどに暴れ回る《アラーム・スライム》から逃げ回りつつ、大声で作戦会議をするヒャッハー達。
「ならどうすんだ!?さすがにあのペースで暴れ回られたら避け続けんのは厳しいぞ!?」
「そこだ!いくら強いと言っても、こいつは討伐前提のボスだ!何かしら攻略法があるはずだ!んで!今1番可能性が高いのはあの暴れ回りが一定時間で終わって隙が出来るパターン!その間にオブジェクトを狙って本体を探せ!みたいな感じだな!」
「なら今は雌伏の時ということか……!?」
「至福の時……?何喜んでんだお前マゾか!?」
「えぇい!字が違う!黙ってろ脳足りん!」
「脳足りん!?」
「今回ばかりはカレットの方に俺は味方するぞ!」
「トーカにも見捨てられた!」
そんないつもと違うイレギュラーな会話の中でも、しっかりくだらないやり取りを挟む辺り実は余裕があるのかもしれない。
本気で勘違いした脳足りんかもしれない。
「まぁ普通に考えれば今は耐えのターンだ!だが……ここまで無敵の相手を虚しく攻撃させられてギミックに素直に乗るのは癪だろ!?」
「「そりゃぁもう!」」
「ってな訳で、3人で全力を合わせてこのギミックをぶち壊すぞ!」
「「ッ……!アイアイサーッ!」」
……え?君ら……嘘でしょ……?
《アラーム・スライム》逃げて!超逃げて!
ウォルカス久々の登場!(セリフだけ)
リベットの親友かつ槍作りに関してはメイに勝るとも劣らないというめちゃくちゃ美味い属性を持っておきながら画面外に専念していたウォルカスがようやく再登場!
もしかしたら環もこのタイミングで合流するかもしれないし、ほぼ新キャラ2人のバッティングは難しいから見送られるかもしれない
キャラがどう動くか次第
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あとアレですね、面白いなーと思ったら下の方にある『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にして頂けるとさらに狂喜乱舞します




