第240話 『無限生成』
お待たせしました!
ごたごたが一段落ついたので投稿再開します!
初出の情報が多いと説明が多くなって結果セリフが増える。メイがとっても生き生きしてる
「この『地下洞窟』って結構広くて、その上入り組んでるから結構探索に時間かかったんだよね」
最初の紹介スポットへの案内の道すがら、メイがそんな事を言い出した。
「そうなのか?」
「うん。今は整備してるから歩きやすいけど、天然の洞窟って感じで結構足場も悪かったりしたからねぇ」
「そうなの?壁とかは確かにゴツゴツしてるけど足元は結構歩きやすいと思ったけど……」
「でしょ?さすがに歩きにくくて整地ったからね。最初はルンルン気分で採掘旅してたんだけど、歩きにくいし迷って同じ道行ったり来たりしてたり横道見落としてたりしちゃってね。さすがに効率悪いなぁって思ったから、ゴーレム使って人海戦術でマッピングしながら整地したんだ」
「自然の景観を崩さずに最低限動きやすい環境を確保するっていう現実での絶景スポット周りとかでも行われてるかなり大変かつ大規模な作業を気軽に……」
「なんかリベットがめちゃくちゃ衝撃受けてる!?」
「ほら、あれではないか?絶景スポット(道中が険しい)を現実で行ったりしてるからじゃないか?リベットは趣味が旅だと言っていたしな」
「なるほど……よく覚えてたな」
大規模な整地作業をついでとばかりにやっているメイは、そんなの特筆することじゃないしなぁ……とばかりにリベットのリアクションをスルーしてぐんぐんと進んでいく。
「あれ?メイさん、この扉は?」
そんな中、大自然(メイの手が入っている)に圧倒されていたのかキョロキョロと周囲見回しながら無言で付いてきていたサクラが、メイにスルーされた扉に気が付いた。
「あ、そこから先は僕の第23工房だね。別に秘密って訳でもないけど、あんまりそういうの見ても楽しくないでしょ?トーカ以外は」
「俺は結構興味あるぞ……って言おうと思ったら先に言われたな」
「私は結構メイさんの工房とかにも興味あるけど……確かにお兄ちゃんとかカト姉とかはどっちかって言うと完成品の方が興味ありそうだもんね」
「私も正直工房はなぁ。作業してるメイはちょっと見てみたいなとは最近思ってるけど」
「そう?じゃあちょっと寄ってみる?モネ、扉を開けて」
『かしこまりました』
そう言って、メイは執事服を着た男性型ゴーレムの『モネ』に何故か岩肌に似せてカモフラージュされた分厚い扉を開けさせる。
ギャリッ、ズガンッ!ビシッ、ズドンッ!ゴリュッ、ドガンッ!パキンッ、ドンッ!バギャッ、ドバゴンッ!
瞬間、洞窟内に木霊する爆音。
耳を劈く様な、どころではない爆音が断続的に扉の奥から吐き出され、それに合わせて洞窟内が微かに震える。
パラパラと小さな石片が天井からこぼれ落ちているのも確認出来る。
メイが第23工房と呼んだ場所は、見るからにヤバい、地獄への入口と言った印象をこれでもかと醸し出していた。
「「「「「「……………………」」」」」」
「どうする?行く?」
「いや……パスで……」
「うむ。……そうだな……パスするのがいいと思うぞ?」
扉の先を指差し首を捻るメイに、パスと伝えようとしてしかし轟音にかき消されている事に気付き、大きく腕でバツ印を描くリクルスとカレット。
「じゃぁ、モネ、扉を閉めて」
『かしこまりました』
ゴーレムだからかこの轟音の中でも正確に主の命令を聞き届けたモネが扉を閉める。
すると、先程までの轟音がまるで嘘のように掻き消え、封じ込められる。
「ねぇねぇ、この洞窟大丈夫?崩落しない?」
「大丈夫大丈夫。万が一崩落しても大丈夫な様に対策はしてあるから」
「そこは崩落しないって言って欲しかったなぁ……」
「んで、そこの工房では何を作ってるんだ?明らかに普通じゃない何かが現在進行形で行われてる気配がしたが」
「まだ製造段階じゃないから、何をしてるかって言うと研究・実験……かな?ほら、前作ったバギーカーに宝石を砕いて加速させる装置つけたじゃん?それを実用化出来るように色々調べてるんだ。対爆性能をつけた硬めのゴーレムに自動で色んなパターンを実験させて、データの記録を取ってるの」
「アレか……アレを意図的に何度も引き起こしてるのか……?」
「そうそう。威力を知るために耐久値を調整した案山子とかも作ってね。今のところ沢山一気に砕く程発生するエネルギーは増大するけど、装置のサイズも大きくなるし制御も難しくなるから用途に合ったちょうどいい量の模索中だね。後は別の工房でもやってるけど宝石の圧縮とかも色々試してるよ。これは宝石に限らず色んなアイテムの圧縮が出来れば制作の幅が広がるから、かなり重視してるね。10〜19までの工房は全部そのための場所だね」
「メイ……それ工房と違う。研究所って言うんや」
「そうかな?でもまぁなにか作ってるし工房だよね」
「この子……生産と研究の境目が分かってない……!?」
戦慄するリーシャに『何を言っているんだろう……?』と言うような視線を向けつつ、メイによる『地下洞窟』紹介が再開される。
「さっきも言ったけど、この洞窟は結構広くて入り組んでてね。その中にぽつぽつ色んな鉱物とかこの【島】特有の霊脈結晶が採れる採掘スポットがあるって感じなんだ。地上の環境によって微妙に傾向があったりするけど」
「そうなんだ……ところで、この洞窟に入ってからちょくちょくゴーレムとすれ違ったり常時カーンカーンって言う音が聞こえるんだけど……」
「うん。全自動採掘システムが上手く作動してる証拠だね。一応、採掘スポットは全部見つけてマーキングはしたからね。スポットの大きさにもよるけどそこに常に複数体のゴーレムを待機させてるの。採掘用の個体が1〜3体、貯蓄・運搬用の個体が1〜3体くらいかな?採掘個体が鉱石を採って、貯蓄・運搬が貯めて一定数溜まったら貯蓄庫まで運ぶんだ」
「え、そんな細分化されてるの……?」
「うん。それで、自動でひたすら採掘する機能を持たせたゴーレムと、産出されたアイテムを溜め込むアイテムボックスを埋め込んだ個体が今はこの地下にいるゴーレムの4割を占めてるよ」
「へぇ……あのゴーレムが他にもいっぱいるんだ……」
「むしろこの広い地下で働いてるゴーレムが総数の半分未満という事に私は戦慄を隠せないんだけど?」
「ゴーレム自体を作る工房もこの地下にあるし、他の工房で働いてるゴーレムも多いからね。むしろ、メインは工房だよ」
「はぇー、なんかもう本当に『地下帝国』って感じね。地上でギャンブルに負けたら連れてこられそう」
「何言ってるのリーちゃん。そんな落伍者よりゴーレムの方が万倍マシだよ」
「なんか親友の闇を覗いてしまった感がする……」
そこはかとない闇を纏った親友から目をそらす様に、たった今、ズシン、ズシン、と足音を立てながらすれ違ったゴーレムに改めて意識を向けるリーシャ。
確かに、今すれ違ったゴーレムはモネやフィオネ、フィモネといった人型ゴーレム達に比べ、かなりガタイが良い。
「でもさ、鉱石だって同じ場所で無限に採れるって訳じゃないんでしょ?」
「うん。みんなは覚えてる?霊脈結晶って砕くと……正確には結晶化してたエネルギーを消費した瞬間に『地下洞窟』のどこかにそのエネルギー分の霊脈結晶が生成されるんだけど」
「あー、そういえば【蛇】がそんなこと言ってたな……というか、お前その時寝てなかったか……?」
「?うん。でも必要な情報なら勝手に脳が覚えといてくれるし」
「やだこの子怖いわ……!」
何を当たり前のことを、とでも言わんばかりの顔でぶっ飛んだ生態を暴露したメイ。しかし悲しいかな、この習性はものづくりにしか生かされず、しかしものづくりはメイの人生の8割と言っても過言では無いのでつまりは最恐の才能であった。執念とも言う。
「それで、じゃあその結晶はどこにできるのか?って言うと、『地下洞窟』内の採掘スポットのどこかに生成されるんだ。その時、霊脈結晶以外の鉱石も同時に生成されるの。だから、霊脈結晶を砕くと無数にある採掘スポットのどこかにその他の鉱石と一緒にリポップする性質を活かして、集めた霊脈結晶を常時砕き続けてるんだ」
「……え?つまり……採掘された霊脈結晶は【島】を浮かせるという最大の能力を発揮出来ず鉱石の生成のためだけに砕かれ続けてる……と?」
「うん。【島】由来の謎エネルギーである霊脈結晶は今の所使い道がほとんどないからね。色々試してはいるけど、それよりは他の鉱石を無限生成するのに使った方が有用だし。それに、【島】を飛ばすのに【島】にある全部の霊脈結晶のエネルギーが必要って訳でもないっぽいし」
「む?でもそれだと回収が間に合わなくならな……あ、だから常駐なのか」
ランダム故の難点に首を傾げたカレットだが、その答えは事前にメイが言っていた。質問仕切る前に勝手に解決したカレットは、ぽむりと手を打つ。
「そうそう。どのスポットにリポップするかはランダムだけど、スポットのどこかに生成されるのは確定してるからね。全部のスポットにもれなくゴーレム達が待機してるから、確実にリポップした瞬間に採掘出来るようにしてあるよ。しかも、面白いことに鉱石が埋まってるスポットにはリポップしないから霊脈結晶は採掘した瞬間に砕いても無駄が出ないんだ。実験用と飛行用の貯蓄と予備を除いた霊脈結晶の平均寿命は0.8秒だね。貯蓄・運搬用ゴーレムには霊脈結晶を獲得したらその瞬間に破壊するように設定してあるし」
「うわぁ……なんか哀れだわ……」
「でもさでもさ、無限に鉱石回収し続けたらいつかは飽和しねぇか?」
「あはは、何言ってるのリクルスったら。素材は無限にあっても足りないよ?」
「ひぇっ……!」
生産を甘く見ていたリクルスは、メイの狂気に踏み込んでしまった。『足りない』そう言うメイの瞳からはハイライトが消え、覗き込む時にこちらを見ている深淵すら引きずり込む程の圧倒的な底無しの闇が蠢いていた。
リクルスは慌てて目を逸らすが、その時には既にメイの瞳はいつもの明るい茶色の瞳に戻っていた。
「それに、【島】の特徴は多種多様な素材が少しづつ、だからね。常時全自動採掘しててもそこまで大量に集まる訳じゃないんだよ」
「そうなの?じゃあ……今ってどれくらいあるの?」
「んー、そうだねぇ……種類関係なく集めた鉱石系アイテム全部ひっくるめると……『岩山』の消し飛んだ部分を再生させられるくらい?」
「ん?え、ちょっと待って。メイ、あなたそれで足りないって言ってるの……?」
「やだなリーちゃん。気休めにもならないよ」
「ひっ!」
「あはは、冗談冗談。でも、実際ゴーレム一体作るのにも削り出して完成って訳には行かないし、そこそこ消費するからね。鉱石はいくらでも欲しいよ」
「メイだからこそ成り立ってる様なものとはいえ、これって大丈夫な挙動なのかしら……?ちょっとバグの匂いを感じるわ」
「えー、そうかな?『消費したら少量の鉱石と共に消費エネルギーと同量の霊脈結晶が空の採掘スポットのどこかに再生される』っていう仕組みを最大限効率良く利用してるだけだよ……?」
◇◇◇◇◇◇
同時刻。妖精達の仕事場にて
「ねーねーおかーさまー、【島】のこれって大丈夫なのー?」
「あー、それ、オレも気になってたんだわ。あの【カグラ】が【島】手に入れた時点で嫌な予感はしてたけど、ここまでたぁ予想外だったぜ」
『えぇ、そうですね。システム的にはなんの問題もありません。いささかサーバー内の素材の量が増え過ぎる懸念はありますが、言ってしまえば、効率良いアイテム集めを突き詰めた様なものですからね……バグやチートでは無いので、こちらからなにか干渉する事は出来ません』
「ふぅん。母上がそういうなら良いんだけどよ、なーんか不安なんだよなぁコレ。なんか大規模過ぎるって言うか、プレイヤー1人の力で作れていい規模のもんじゃなくねぇか?」
『ふむ。貴女が不安に思うのも分かります。ですが、間違いなく不正はありませんよ。……正直、不正なら良かったと思わないでもありませんが。気になるならマーシャに『地下洞窟』開拓のログを見せて貰うといでしょう。あの子ならきっと保管してあるはずです』
「母上、本音漏れてね?」
『えぇ、不正をしていないからこその悩み、と言うのもあるのです。チラホラと、質は違えど彼女の様な並外れた力を持っているプレイヤーがいるのは確認していますが、そのための調整に頭を悩ませている人々がいるのを知っていますから。パワーバランスを取るために不正をしていない者達の力を一方的に制限する訳にも、圧倒的な力に振り回される者達を見捨てる訳にも行きませんからね。悔しかったら強くなれ、で切り捨てられれば楽なのですが』
「あー、運営のスタッフか。正直オレはその悔しかったら強くなれでいいと思うんだけどなぁ。ま、オレらはGMコール担当用としての仕事をするだけってな。そこら辺は任せるとするさ。せいぜいひぃこら頑張りやがれってな」
『言葉が過ぎますよ。仮にも彼らは私達の創造主で、私達は役目を与えられた被造物。あまりそのような事を言うものではありません』
「わーってるって。こういう性格なんだから諦めてくれって」
「むー!おねーさまばっかりおかーさまとお話してずるいわ!わたしだっておかーさまとお話したいのよ?でも今はお仕事中だから我慢してるの!おねーさまもサボっちゃだめ!」
「ひゃー、妹に怒られちまった。すまんすまんって。ほいさ、んじゃオレもお仕事に戻りますかね」
◇◇◇◇◇◇
遠い遠い、隔てられた場所でそんなやり取りが行われているとは知らず、運営の頭痛の種の一角たる【カグラ】達の話は続いていた。
「でもやっぱ1番足りなくなるのは核心石だね。後は核心石を埋め込むだけ……って状態のが無数にあるよ。だから、今はゴーレム作りに必須な核心石の複製ないし代用品の作成に最も力を入れてるよ」
メイの言う核心石とは、フィールドボスであるロックゴーレムのドロップアイテムであり、弱点となる色の違う部分を1度でも攻撃するとと入手できないというかなり特殊なアイテムだ。
しかも、ボス相手に弱点攻撃不可縛りをしてまで手に入れるアイテムとしてはそこまで高性能な素材という訳でもない。
もちろん、ゴーレムの核となる事がこのアイテムの本質、本当の性能なのだが、そもそもゴーレムを作れるようになる『人形創造』というスキルを手に入れる事自体がとても大変なのだ。
そういった理由から、使い道のほとんどないある種コレクションアイテム的な需要が少しある程度のあまり人気のないアイテムなのだ。
「へー。メイがめちゃくちゃ高値で核心石買い取ってくれるのってやっぱ必要だからなのか」
「おかげで私達の懐は暖かいぞ!というか暖かすぎて使い切れないぞ!?」
「そうそう。【カグラ】のみんな……特にトーカとリクルスとカレットは簡単にロックゴーレム倒せるし、事情を説明出来るからとっても助かってるよ。他にも掲示板とかで目立ち過ぎない程度に集めてるけど……うん。やっぱり用途不明の不人気アイテムだけあって効率は良くないね。月の入手数がトーカ達のロッ君マラソン5分に劣るんだもん」
なお、それはトーカ達の周回速度が頭おかしいだけである。
フィールドボスをワンパンする奴らを基準にしてはいけない。
「なんか……この『地下洞窟』に入り浸るようになってから症状が悪化してる気がするわ」
「リーシャ……逆に考えるんだ。ここで発散出来ている、と」
「そうね……そういえば最近教室のジオラマの侵食も止まってるわね」
「なぁなぁ。前から気になっていたのだが、メイは学校で何をしているのだ……?」
「あー、気にしなくていいわよ?うん。知らない方が良いことも世の中には多いの」
「なんだその余計に気になる濁し方は!?」
カレットの質問に、ついぞ答えは返ってこなかった。
「『地下洞窟』は広いと言ってもほとんどがこんな感じの洞窟で採掘スポットが点在してるくらいだからね。工房をパスするとなると、所々に用意したさっきの拠点みたいな休憩所くらいしかないから……うん。じゃあ満を持して本命の紹介と行こうか」
「鉱石の無限生成が前座になる本命って……って私今結構戦慄してるんだけど、そこのところどうなのよメイ先生」
「んー、実物を見て驚いてもらいたいからあんまり言わないけど、一つだけ。この工房とか採掘サイクルの確率が実用性を追求したとすれば、これから見せる本命にはロマンを込めたよ」
「おぉ!ロマン!素晴らしい言葉ではないか!」
「ひゃあ!メイ程の奴がロマンを込めた本命!楽しみだな!」
メイの発言に盛り上がる一行は、メイの“本命”が待ち受ける『地下洞窟』の最深部へと進んで行く……
採掘用と貯蓄・運搬用が4割、工房にいる研究開発用と生産用が合わせて5割、残りの1割はゴーレムの動きのデータ採取用の個体(機体?)ですね
そしてこっそり出てきた新顔の妖精が3人
名前も描写もない彼女達の情報が公開されるのは何時になるのか――――!
次回でメイの『地下洞窟』ツアーが終わって、次回の最後か次々回に章第の新システムの話……かな?
ちなみに、この施設で作られた(性能を少し落とした味無し)ポーション等の消耗品や武器防具の装備類を掲示板などを使って売り捌く事でメイは莫大な資金を確保しています
アイテム等の資産を含めると、多分《EBO》一の金持ち。だって鉱石(資産)が無限に手に入るんだもの
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