第104話 『トーカの新装備』
今回でこの章は終了です。
もしかしたら次章までに閑話を挟んだりするかもしれません
そして、今回は感想欄で随分前に頂いたアイディアを使用させていただきました。
釘バットと特攻服は通常装備にするには厳しいけどネタとして気に入ったのでチョイ役として出演することになった次第です。
ヤンキー装備を見たトーカの怒声に真っ先に反応したのはこの装備の製作者であるメイだった。
「ごめんねトーカ……リクルスが凄い推して来るからトーカもそういうの好きなのかと思ったんだけど、違ったみたいだね……」
メイは傍から見ても落ち込んでいるのが丸わかりな程にしゅん……とした雰囲気で申し訳なさそうにしているメイに、新しい装備を作ってくれた感謝を込めてトーカはにこやかな顔で笑いかける。
「いや、メイは悪く無いんだ。俺のために苦労して新しい装備を作ってくれた事は素直に嬉しい。ただ……」
そこで言葉を区切ると、優しげな顔はそのままに目から光を消してリクルスの方へ振り返ると、口元だけが弧を描き、瞳は全く笑っていない、俗に言うアルカイックスマイルでリクルスに詰め寄り、肩にポンと手を置いた。
「オマエハナニヲオモッテコノデザインニシタンダ?」
「いや……それは……」
ハイライトの消えた殺意100%の瞳に見据えられてリクルスは冷や汗をダラダラ流しながら1歩後退ろうとして……
「ニゲヨウトナンカシテドウシタンダ?」
「あはははは……逃げようとなんかしてないよ?うん。本当に」
逃げられなかった。肩に置かれた手にどんどんと力が込められていく。トーカは現在“重鋼鉄棍”を装備している状態なので、INTの数値がそのままSTRに加算されているのだ。
合計680もの数値を誇るSTRで握られたリクルスの肩は、その腕力に耐えかねるようにミシミシと音を立て始める。
ここは街の中であり、決闘などをしない限りHPは減らず、装備の耐久値も減らないはずではあるが、自らの肩が今にも砕けそうな程に握り潰されようとしていては無害と分かっていても恐怖を感じてしまうものだろう。
「いや、アレなんですよ。トーカさんも知っての通りお……私は最近床屋に置いてあるヤンキー系のマンガにハマってまして」
「シッテル。ソレデ?」
「高威力の棍棒を振り回している姿がそのマンガの釘バット振り回してるキャラと被りまして……いっそネタ方面に走ってみようかと思った次第であります」
ミシミシ……
肩に置いた手に込めた力を緩めることなく無言で光の無い瞳で見詰められているリクルスの姿はまるで判決を待つ被告人の様である。
「ま、待てトーカ!釘バットの発案はリクルスだがそれを聞いて特攻服も作ろうと言ったのは私だ!」
「そ、そうだよお兄さん!私もどうせその方面で作るなら全力で行こうって2人を焚き付けたりしたし!」
自分達で走ったネタ方面でリクルス1人だけが詰め寄られているのは共犯者として罪悪感が物凄かったのだろう。カレットとリーシャもそう言ってトーカに詰め寄る。
「ふぅん……………………」
そんな3人の姿をトーカは光の無い瞳で見渡し……
「………………ぶふっ」
「「「へっ?」」」
耐え切れないといった様子で吹き出した。
張り詰めた空気が一気に霧散した事で3人(特にリクルス)の緊張が一気に解けて間の抜けた声が漏れてしまう。
「キレたと思ったか?ネタに走ったとはいえみんなが俺のために素材を集めてきてくれて作ってくれた物にケチをつける訳ないだろ?」
「そ、そうか……よかった」
リクルスが割と本気でほっとしたようにボソリと呟く。
至近距離のアルカイックスマイルが相当応えたようだ。
「さてさて、聞くからに物凄い素材を使ったこの装備の効果は……」
見た目のインパクトと3人へのブチ切れドッキリで忘れかけていたが、いくらネタに走った外見をしていようとこれは最高クラスの素材をふんだんに使って最高クラスの生産職が全身全霊を込めて作成した装備である。その性能はきっと生半可な物ではないだろう。
トーカは性能への期待半分効果もネタに走ってないかという不安半分でまずは釘バットのアイテムウィンドウを開いた。
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『釘バット《贖罪》』
釘バット、それは戦いの象徴。
力を鍛え争いに飢えた者共が血で血を洗う抗争において全幅の信頼を置くと言われる得物。
それは常に血と赦しに飢えており、血を吸うほどに赦しを与えるほどにその力を強めていく。
何故か杖としての性能も持ち合わせる。
グリップの部分に血文字の様なもので
『神よ遍く罪科を赦したまえ』とある
STR+80『+0』
INT+80『+0』
【餓血与赦】
【染血】
製作者【メイ】
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「oh…………」
なんだこのぶっ飛んだ性能は……
そして性能以上に説明欄がもうぶっ飛んでやがる。
さらに言うなら特殊効果の名前も物騒だし……何だこの名前からして危険すぎる物体は……
「って特殊効果もあるのかコイツ。本当に性能だけならとんでもないバケモノだな……」
唯一の問題点は装備の見た目だけで性能は今使っている重鋼鉄棍を遥かに上回っている。そして、それをさらに補助する特殊効果がこれだ。
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【餓血与赦】
血を吸う度に、そして赦しを与える度に
自身を強化していく力
『餓血』
ダメージを与える度にSTRとINTに+0〜5
(与ダメージに応じて)
ダメージを受ける度にSTRとINTに+0〜5
(被ダメージに応じて)
『与赦』
敵を倒す度にSTRとINTに+0〜25
(敵の強さに応じて)
死ぬとSTRとINTの上昇値は0にもどる
上昇値は装備者のレベルと同値まで
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【染血】
敵を斃す事に血に染まっていく
血に染まった分だけ威圧を発する
任意でリセット可能
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「なるほどね……」
【染血】はともかく【餓血与赦】はこれまたぶっ飛んだ性能をしてるな……つまり最大でSTRとINTに元の+値も含めてそれぞれ+130ずつしてくれるって事だろ?何だこのバケモノ性能は。
「ここまで来ると特攻服の方を見るのが怖くなるな……」
まぁ見ない訳には行かないんだけどな。
1度大きく深呼吸して『釘バット《贖罪》』の衝撃を収めると、覚悟を決めて特攻服のウィンドウを開いた。
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『神官服《特攻》』
至る所に“撲殺上等”やら“罪を滅せよ”などと書かれた異形の神官服。
それは常に魂と罪滅に飢えており、魂を喰らうほどに、罪を滅するほどにその力を強めていく。
STR+30
VIT+50『+0』
MND+50『+0』
【喰魂罪滅】
【染血】
製作者【メイ】
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【喰魂罪滅】
魂を喰らう度に、そして罪を滅する度に
自身を強化していく力
『喰魂』
ダメージを与える度にVITとMND+0〜5
(与ダメージに応じて)
ダメージを受ける度にVITとMNDに +0〜5
(被ダメージに応じて)
『罪滅』
敵を倒す度にVITとMNDに+0〜25
(敵の強さに応じて)
死ぬとVITとMNDの上昇値は0にもどる
上昇値は装備者のレベルまで
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ふむふむ。釘バットと似たような特殊効果をこいつも持っている訳だ。なんともまぁぶっ飛んだ性能の装備をプレゼントしてくれたものだ……
上限があるとはいえ死なない限り攻撃を当てたり被弾したり、敵を倒したりする度にどんどん性能が強化されて行くとかいうとんでも効果を持っているのはやはり素材と製作者の腕故なのだろうか。
正直言って今使っている装備よりも数段性能は良いが……それでもこの見た目的に普段使いするのは躊躇われる。
どうしたものか……
「トーカ、ウィンドウ見て唸ってるのもいいけど1回装備してみろよ。装備してみたらまた別の視点で見れるんじゃないか?」
「おぉ!お前もたまにはいい事言うな」
「たまには余計じゃい!」
リクルスの案に従って1度『釘バット《贖罪》』と『神官服《特攻》』を装備してみる。
「………………なるほど」
どうしたものか。『神官服《特攻》』は今まで装備していた『戦神官の服』よりも着心地が良いし、『釘バット《贖罪》』もグリップが重鋼鉄棍以上に手に馴染む。
本当に見た目さえまともなら文句無しの良装備なのだが……
「ぶふっ……に、似合ってるぜ……トーカ……!」
「そ、そうだな……ふふっ、凄く、マッチしている……!」
「おに、いさん……っく、似合いすぎ……!」
俺が実際の着心地を確かめていると、着用している本人である俺とはまた別の観点……つまりはこの装備を身に付けている俺を客観的に見ているリクルス、カレット、リーシャの3人が笑い声を噛み殺しながらそう言ってくる。
メイは後ろを向いていて表情は見えないが、肩が小刻みに震えているので恐らくメイも笑いを必死に抑えているものと思われる。
「ふぅん……そんなに似合ってるのか、コレ」
「あ、あぁ……くくっ、金髪にしてヤンキー座りしたらもう完全にフィクションの中のヤンキーになれるってレベルで似合ってるぞ」
ほぉ……そこまで言われるとなんか笑い者にされてるみたいでちょっとイラッと来るな。もちろん本気でキレてる訳じゃ無いが……イラッとするものはイラッとする。
ちょっと仕返しさせてもらうか。
「なぁリクルス。この装備の性能も試してみたいからちょっと俺とPvPしてくれないか?」
「お、いいぞ。そういやトーカと戦うのは初めてだな」
そう言ってトーカがリクルスに対して決闘を申し込むと、リクルスはワクワクした様子ですぐにその決闘を承諾する。
そして2人の姿が決闘フィールドに送られる直前に、トーカはカレットとリーシャの2人に向けて声をかける。
「リクルスが終わったら2人にも付き合ってもらうからよろしくな」
「おぉ、それは楽しみだ!」
「おっ、いいね。やろうやろう!」
2人の前向きな返事を聞くと、トーカは満足そうに頷いて決闘フィールドに転送されて行った。
◇◇◇◇◇◇
後日、トーカの「性能は申し分ないんだが見た目が見た目なだけに苦笑するしかないんだよな……」という意見によって、メイの持つ『改造』という装備や道具といったアイテムに名前の通り改造を施すスキルによってトーカの装備はまともな外見に生まれ変わる事となり、それによって性能も僅かに変更される事になった。
この改造にとある3人の「薄笑いを浮かべて釘バットで殴りかかって来る姿は下手なホラーより怖かった」という涙目の訴えが関係あるのかは定かではない。
普段は行き当たりばったりの執筆なので展開が思い付かず投稿期間が空いてしまう事があったので、次章は少し展開を固めてから執筆、投稿しようと思っています。
なのでちょっと次回投稿が遅くなると思われます
1週間は超えないように努力しますがそれより空いてしまうかもしれないのでご了承ください
それと、要望のあった登場人物紹介を明日投稿します
今後その場のノリで色々なスキル(複合スキル含む)や称号、武器防具アイテムを増やしていくと思うので何かアイディアがあればお願いします!
おかしい所や誤字脱字、誤用などがあったら是非ご指摘お願いします
ブクマしてくれた方や読んでくれてる方本当にありがとうございます!
今後も当作品をよろしくお願いします!




