1-15 爆弾娘と熱血少年
「ミミリ、ちょっとくらい休んだら?」
「ありがとう、もう少し〜! 今、すっごくいいところなの!」
「気をつけなきゃダメよ! ましてや、爆弾なんてモノ作ってるんだから、爆発なんてしようもんなら命ないかもしれないわよ?」
「うん、ありがとう、うさみ」
あの日から一週間経った。
ミミリは、あの日からというもの、ゼラが届けてくれた錬金術の本『楽しい錬金術〜戦闘入門編〜』を読み耽り、また、もともと家にあった錬金術の本のうちの一冊である、『おいしい錬金術〜お料理入門編〜』を復習も兼ねて読み返した。
それから毎日、寝る間を惜しんで【弾けたがりの爆弾】を作っている。
幸いにも、錬成に使う錬金素材アイテム
・メシュメルの実の殻 ×3
・火薬草 ×5
・小麦粉 ×1
・【ミール液】 ×1
は潤沢にストックしているため、錬成するには事欠かなかった。
メシュメルの実の殻と火薬草を潰して、MP、いわゆる魔力を込めながら捏ねていくところが特に難しい。
汁気が少ないと小麦粉を入れた後纏まらず、汁気が多すぎるとべちゃべちゃになり失敗してしまう。
ちょうどいい塩梅でMPを込めないと水分バランスが崩れてひとまとまりにならない。
ミミリは何十回と繰り返して漸くひとまとまりにすることができ、そこから、中にMPを閉じ込めてミール液で爆弾の表面に膜を張って完成させるまでには、さらに何十回と繰り返してなんとかコツを掴むことができた。
失敗せずに完成できるようになったころには、【マジックバッグ】の中にそれはそれはたくさんのメシュメルの実の中身が収納されることとなり、これを材料とする【アップルパイ】を大量生産して、錬金術の反復練習をしよう、と次の計画を立てているミミリなのであった。
……ミミリは、アルヒの生命活動を維持できる時間に限りがあると知った時、その事実を到底受け入れることができずにたくさん泣いてしまって、アルヒやうさみ、ゼラにポチまで。みんなを困らせてしまった。
そして。
涙が涸れるまで泣いた後、限られた時間を大切にするしかないのだと思い直して錬金術に没頭することにした。
没頭するあまり、つい2日前くらいに釜に落ちかけたところをたまたまアルヒが助けてくれたので事なきを得た。
そんなミミリを、錬金術に没頭する錬金術士は釜に落ちがちであると、アルヒは笑ってくれた。
そして、集中するとご飯や睡眠を疎かにしがちになるところもご主人様に似ている、それに熱中するその瞳や横顔も…と切なそうに笑いながらも、気をつけてくださいね、と注意してくれた。
そういえば、錬金術の本の中で著者であるスズツリー=ソウタさんも、ミンティーの結晶を錬成する際、釜の中に落ちたとか落ちなかったとか、そんなことを記していたような。
錬金術の本の著者、スズツリー=ソウタさんはアルヒを作った錬金術士であると、アルヒが教えてくれた。
ご主人様がいなくなったのは、アルヒが不甲斐ないせいで守れなかったと言っていたが、ミミリもうさみもこれ以上追及する気にはなれなかった。
わざわざ、言いたくないことを言わせる必要もないし、話したいと思ったらアルヒから話してくれるはずだから。
ただ、少しだけわかったことがある。
ゼラがあの日、執拗にポチに狙われていた理由は錬金術の本『楽しい錬金術〜戦闘入門編〜』を持っていたからだった。
それと、ミミリのうちにもともとあった錬金術の本が数冊であった理由。
それは、心無い者に、錬成アイテムや錬金術の本が盗まれてしまったことが原因なのだそうだ。
だからポチは、ゼラが錬金術の本を持っていることに気が付き、泥棒として執拗に追っていたのだ。
さすが犬の嗅覚で、錬金術の本に残る本来の所有者、ご主人様のニオイを嗅ぎ取ったのだろう。
その話を聞いたゼラは、俺が泥棒なはずないだろ!冤罪だ‼︎と怒っていたが。
……そのゼラは一方で。
庭先で、アルヒ指導のもと、剣の素振りに勤しんでいた。
「意味もなく素振りしてどうするのです! 何も考えず、数を決めてただ剣を振るだけなど何の意味もありません! 最初からやり直しです! 残り一万! 初めッ‼︎」
「ハイ! お願いします‼︎」
ゼラはコシヌカシという不名誉なあだ名をうさみにつけられてしまったが、実際は根性があるヤツだな、とうさみは認識を改めていた。
手のマメが潰れて血だらけになってもなお、剣を握り続けることをやめないゼラに、何度、回復魔法をかけてやったことか。
「……それでも一度定着したあだ名はなかなか変えられないけどね。ね、ポチ?」
うさみは椅子に腰掛けて、コーヒー片手にバタークッキーを食べながら、ポチと一緒に熱血教師と熱血少年の熱い特訓風景をぼんやり眺めていた。
アルヒはゼラと共に剣を振る。
アルヒが剣を振るう様は、舞姫が舞うように美しい。
……いつもなら、自分の世界に浸って、しっぽをふるふると震わせているところだけれど。
そんな気分にはとてもなれなかった。
「アルヒが動かなくなっちゃうなんて、私、耐えられそうにない。……ミミリは壁を乗り越えた気がするのに、私は……」
ミミリの母からの手紙を機に蘇ったうさみの記憶。
ミミリの両親は、活動範囲に制限のあるアルヒの代わりに、錬金術士スズツリー=ソウタを探す旅に出た。若しくはアルヒを直すことができる、スズツリー=ソウタに匹敵する錬金術士を。
それが叶わない場合には最低限、盗まれてしまったアルヒが生命活動を維持するために必要な錬成アイテム、【アンティーク・オイル】を求めて。
……だからアルヒは、ミミリの両親が旅に出た理由の一つは自分のせいだと言ったのだ。
他の理由は、どうしても思い出すことができない。
おそらく、うさみの記憶にミミリの母が何らかの鍵をかけているんだろう。
……おそらくミミリを守るために。
ミミリの母は理由もなくミミリのためにならないことをするような人ではないことは、うさみはすでにわかっていた。
錬金術士、スズツリー=ソウタがいなくなった理由。
ミミリの両親がミミリを置いて旅に出ざるを得なかった他の理由。
これは旅を続けるうちに、次第にわかることだろう。
うさみは、ふーっとため息をつく。
……少なくとも今は、アルヒと過ごせる限られた時間を大切にしなくちゃね。
うさみは、切ない想いを胸にそっと抱いた。
「ねえ、アルヒに熱血少年(仮)、ミミリも呼んでティータイムにしない?」
「……何だよそのあだ名は」
「ふふふ。そうですね、ミミリのキリが良さそうなところで、休憩にしましょう」
「私ちょっと様子見てくるわねん」
うさみが椅子を飛び降りた瞬間。
……ドォォォン‼︎‼︎
と家から爆発音がした。
「ミミリィッ‼︎」
全員がミミリの安否確認をしようと家へ駆け出したその時、煤だらけになったミミリが、家から気まずそうに出てきた。
「エヘヘヘ、ちょっと失敗しちゃった。でもね、家も私も無事だよ? どこも割れたり壊れたりしてないし、ちょっとだけ、えぇと、やっぱりかなり? 音がすごかっただけだよ」
ミミリが照れ臭そうに鼻を擦ると、ますます顔が煤だらけになった。
ミミリの身体を、頭のてっぺんから爪先まで確認し終わって、本当に怪我がなかったことに安堵したうさみは、腕を組んで、
「で、何があったわけ?」
と冷静に問い詰める。
「あのね、【弾けたがりの爆弾】のカケラがちょこーっとだけ釜に残ってたみたい。そのことにね、気づかないでそのまま【アップルパイ】を作ったらね、【アップルパイ】が爆発したんだよ? ……あははは。はは、は……。ごめんね?」
「……こんの爆弾娘〜‼︎」
「ごめんなさーい‼︎」
ポチはキュウンとひと鳴きして、
「こういうところもご主人様に似てるよね?」と言わんばかりにアルヒを見たら、
アルヒも同じく「全くですね」と言わんばかりに、ポチに相槌を返すのであった。
爆弾娘、錬金術に明け暮れる。
家を壊さないといいですね…。笑
次話は明日の投稿を予定しています。
よろしくお願いいたします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー☆★☆ー
最後までお読みくださりありがとうございました。
続きを読みたいな、と思ってくださった方がいらっしゃいましたら、是非、ブックマークと☆☆☆☆☆にて評価をお願いいたします。
執筆活動の励みにさせていただきます。
どうぞよろしくお願いいたします。
うさみち




