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5-21(終話)兄弟の再会 後編


 目の前に御馳走が並べられた。

 焼き立てのアップルパイにピギーウルフのミートパイ、スープにパン。サラダに焼肉、それにメシュメルの実の甘煮まで。

 そしてゼラも、はちみつパンケーキをみんなに振る舞った。


「「「「わーい」」」」


 子どもたちは、大喜びだ。


「あの……いいんですか、ゼラ。こんなにいただいて」


 シスターの申し訳なさそうな問い。

 ゼラに代わって答えたのはミミリだった。


「大丈夫ですよ。まだまだたくさん、ありますから」

「すごいですわ。さすが女神フロレンス様の娘様」

「そんな……。あの……女神フロレンス様って、偉い神様なんですか?」


 子どもたちが食事に夢中になる中、年長者たちは話に花を咲かせた。


「ええ。主に『癒し』を司る女神様ですよ。ご存知のとおり、この世で魔法を使える者は少数。女神フロレンス様の加護を受けた者だけが魔法を使えるとされています。あれほどの加護をお受けになっている彼女の半身であるうさみさんが、攫われないか私は心配です」

「それは気をつけてるわ。常に探索魔法をかけているもの」

「さすがですね……。私のようなシスターは、ほんの少しだけ女神フロレンス様の加護に恵まれているのですが……少しでも光栄なことなのですけれど、私には簡単な癒しの力しかないのです。とても『魔法』と呼べるようなものではありませんわ」

「そうなのね……」


 うさみは、シスターの言葉がひっかかった。


 『魔法を使えるものは、攫われる……?』


 もしかして、だからミミリの両親は……?



「ともかく、魔法使いは希少価値が高いってことね」

「ええ。稀に剣や拳に属性を纏わせて闘う方がいらっしゃいますが……それと魔法はまた別の話です。纏わせる、と発現させる、では雲泥の差がありますわ」

「そうなんですね。ゼラくんも雷属性が使えるので、そのうちサンダーボールとか撃てるようになるのかと思ってました」

「まぁ、ゼラは雷属性を扱えるのですね。すごいわ」

「………………顔に似合わずスパルタな師匠の元で、生命(いのち)、懸けましたから…………」

「え?」

「ははは。とても感謝してるんですよ、アルヒさん(師匠)には」


 ◇


 美味しいご飯とミミリの会話で場が和んで来た頃を見計らって、ゼラはデュランとトレニアに再度話を持ちかけた。


「それで、デュラン、トレニア。2人は、アザレアに帰りたい気持ちはあるか? アザレアには、バルディさんも、お父さんも、お母さんもいる。……戻りたいと……思うか?」

「僕は……」

「…………」


 子どもたちも食事の手が止まり、デュランたちの様子を伺っている。

 それを受けて、デュランもトレニアもみんなの前で答えを出したがらなかった。


 それもそうだろう。今まで仲良く教会で二人三脚、一致団結して生きてきた。それを……ここを、出ていくということは……みんなを見捨ててしまうという気持ちが少なからず生じてしまうものだ。

 ゼラが旅立った日、そうだったように……。


「あのさ……」


 静かな空気を破り話題を変えたのは、バルディだった。


「実は、蛇頭のメデューサが討伐できたことによって、国交を広げてみようかという意見が出てるんだ」

「いいじゃない!」


 うさみとは違って、子どもたちはキョトンとしている。


「詳しく説明すると、俺の住むアザレアから、交通整備やモンスター対策を強化していって、アンスリウム山、川上の街……あ、えっと廃墟の街と言えばわかるかな。そこと、教会、川下の町を行き来しやすくするっていうことだ」

「それってすごい! モンスターに怯えなくていいってこと?」

「もちろん、モンスターは今までどおり出る。だけど、ミミリちゃんたちが蛇頭のメデューサの依頼達成報酬を放棄してくれたから、予防費や整備費、国交費に充てられる余裕ができたんだよ」


 バルディは手を広げて嬉しそうに話す。プレゼンする時の、いつものバルディだ。


「バルディ、もしかして……アザレアが経済的に傾いていたのって、蛇頭のメデューサが大きな要因だったの?」

「そのとおりだよ、さすが名探偵うさみちゃん」


 バルディは、デュランとトレニアに向かって、真っ直ぐ見て話しかける。


「これから、整備するのにも時間はかかる。けれど、今までずっと探していた2人がここにいるってわかったんだ。帰ってきて欲しいけれど、今すぐ答えは出さなくていい。でも、整備が整う間、アザレアとこちら側を何度も行き来するだろう。その度に……会いに来て……いいかな?」

「バルディさん……」


 あのさ、とデュランは言う。


「本当に、僕たちのこと、探していたの? いらないから、捨てたんじゃないの? 嫌いだから、モンスターにあげて、そのまま探さなかったんじゃないの?」

「――そんなこと、あるわけないじゃないか。俺の人生を懸けて、2人のことを探していたんだ。探しに行くために冒険者にもなったんだよ。今は昇級してC級さ」

「それって、すごいの?」


 ううーん、とバルディは周りを見ながら腕組みして言う。


「ミミリちゃんもうさみちゃんもゼラも、B級だからなぁ。俺よりもっともっと、すごいってことだ」

「「「ゼラお兄ちゃんすごーい」」」

「ほんとだよな。はははは」


 思わず顔を綻ばせるバルディ。

 今は愛しい弟妹と同じ時を過ごせるだけで充分、といった様子だ。


 バルディは簡単に言ったが、国交を広げること、整備すること、年単位で取り掛かる大事業だろう。

 しかし、それが完成した暁には、街も、市民も、暮らしも。全てが安定した住みやすい世の中になることは言うまでもない。

 いつの日か、ローデから提案された『アザレアの街を経営難から救うために』という一大プロジェクトよりも、もっと大きな革命の旋風が巻き上がる日も近い。


「バルディ! これは!」

「そうさ! うさみちゃん!」

「「革命の嵐が吹き荒れるッ」」


 同じタイミングで両手を広げるうさみとバルディの息はピッタリだ。これぞ、名コンビだと言わざるを得ない。


「「「「あはははは。おもしろーい」」」」


「じゃあ……」


 デュランは、間を開けて、バルディに告げる。

 それもちょっと照れ臭そうに。

 けれど、真剣な面持ちで。


「……じゃあ、会いに来てくれてもいいよ」

「――デュラン!」

「でも約束! 絶対嘘つかないで! 定期的に遊びに来て。約束。それから、いろいろ考える。


 ……トレニアも、それで、いい……?」



「…………………………い……………………い………………」


「「「「「トレニアッ」」」」」


 みんなが一斉に名前を呼ぶものだから、トレニアはビクンと驚いた。


「…………」


 それ以上喋ることはなかったが、長年失語症だったトレニアに、回復の光が差した。これは大きな一歩を踏み出したことになる。


「ありがとう……。デュラン、トレニア……本当にありがとう」


 大泣きのバルディのせいで、肩に乗っていたうさみはびしゃびしゃのぐしゃぐしゃになった。


「バーーーールーーーーディーーー! わーたーしー! びーしょーぬーれー!」


 この先を何度も経験済みのゼラは、手を合わせてバルディに祈りを捧げた。


「ご愁傷様です、バルディさん」


「――風神の障壁ッ」

「ギャアアアアアアア!」



 ――教会に、笑いと明かりが灯る。

 今後数年かけて行われる大事業に尽力することになったバルディ。


 足繁く教会に通うようになるバルディに心を開き、トレニアの失語症が完全に治るのは、まだほんの少し、先の話………………。




バルディ兄弟の溝もなんとか埋まって一安心です。

第5章はもう少し続きます。

引き続きお付き合いくださると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 子供たち、つらい思いをしたので、バルディさんを簡単に信じられませんよね。 でも失語症も回復の兆しが見えて、廃墟の街や教会も復興できそうでよかったです(๑˃̵ᴗ˂̵) やっぱり、心をほぐす…
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