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『忘却の都市』選ばれた場所

次の日——


「すごーい……なにこれ?」

夏希は目を丸くして、目の前にそびえる銀色の装置を見上げる。

JACの施設内、白く光る壁に囲まれた一角に、その“ポッド”は静かに佇んでいた。

まるで未来の乗り物のような、丸みを帯びたカプセル型の装置。

表面には細かい文字と光のラインが走っていて、近づくと微かに機械音が聞こえる。

今まで何度もJACを訪れていたはずなのに、夏希はこの装置の存在に気づいていなかった。

それもそのはず。

いつも城戸の背中を追いかけるように歩いていたから、周囲の景色なんてほとんど目に入っていなかったのだ。


「このポッドに入って、ポケットにある君の身分証を取り出すんだ。声が聞こえたら、それを機械の上に置いてみて。」

城戸の声は、いつもと同じように穏やかだった。

夏希はうなずき、ポッドの中に足を踏み入れる。

内部は思ったよりも広く、柔らかな光に包まれていた。

椅子に腰を下ろすと、目の前にホログラムが浮かび上がる。


「身分証を確認しました。適性検査を開始します。」

機械音声が響き、ポッドの中に淡い光が満ちていく。

夏希は少しだけ身をすくめたが、すぐに落ち着きを取り戻し、言われた通りに操作を進めた。

数秒後、ホログラムに文字とともに、音声が流れる。

——適正職業:警備業 ——派生する職技:該当なし

「けいび……ぎょう……?」

夏希はその言葉を呟き、そしてハッとしたようにポッドから飛び出した。


「城戸おじさんっ!」

彼女は駆け寄りながら、声を弾ませる。

「わたし、わたし……けいびぎょうって言ってた!」


警備業——すなわち、都市警備隊。


それは、城戸が身を置く場所。 彼女がずっと憧れていた、あの制服の世界。

城戸はふっと微笑んだ。

その表情は、どこか誇らしげで、どこか寂しげでもあった。


「おめでとう。 君なら……素質があると思っていたよ。」


その言葉に、夏希の胸はいっぱいになった。

嬉しさと安心と、少しの照れくささが混ざり合って、顔が熱くなる。

彼と離れ離れになるかもしれない—— そんな不安が、ずっと心の奥にあった。

でも、同じ場所で働けるかもしれない。 それだけで、世界が少しだけ明るく見えた。

さらに、もうひとつ嬉しい知らせがあった。

いくら平和な都市とはいえ、10代前半の少女に警備の仕事はまだ早い。

そのため、15歳になるまでは、これまで通りJACの隊長室で過ごしてもいいという特例が認められたのだ。

「やった……!」

夏希は思わず声を上げた。

これからも、城戸おじさんと一緒にいられる。 それだけで、胸の奥がじんわりと温かくなる。

それからの日々、夏希はほぼ毎日のように隊長室に顔を出した。 都市で見たこと、感じたこと、気づいたこと—— それらを、まるで日記のように城戸に報告するのが日課になった。

「今日はね、広場で小さな子が迷子になってて……」 「この前、カフェの人が新しい制服を着てたんだよ!」 「なんか、あのビルの前だけ空気がちょっと違う気がするの……」

城戸は、そんな話をいつも真剣に聞いてくれた。

時には笑い、時にはうなずき、時には「それは面白いな」と目を細めた。


夏希は、少しずつ“都市の目”になっていった。

そして、月日は静かに流れていく。


——彼女が“都市の守り手”になる、その日まで。


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