見えない道
ドワーフ達の魔力の源である『井戸』へ向かって俺達は進む。
既に仲間が進んでいた道には、幾人ものドワーフとエルフの死体が転がっている。
死体が目印とは悪趣味な事この上ないが、それだけ厳重な警備がされている方が怪しいという訳だ。
まぁ、そう思わせておいて実は反対方向に井戸が隠されているという可能性も無きにしも非ずだが。
しかしだ、通路を全力で駆け抜けているというのに、このエルフの身体は今だ何だ疲れを見せる様子は無かった。
ドワーフならば今頃青息吐息だろうに、文字通り無尽蔵の体力でだ。
「敵が居ないな」
仲間のエルフが呟く。
「仲間が倒しているんだろう」
事実その通りなので今更だ。
「いや、敵の増援が無いのがおかしい」
増援か、確かにエルフを倒すのなら地の利があるドワーフ達がエルフを挟み撃ちにするなど用意であろう。
だと言うのに、このやられっぷりは確かにおかしい。
疑問に思った俺は、脚をとめて近くに倒れている鎧に近づいた。
「何をしている、急げ!」
エルフが俺を急かす。違和感を感じてはいても、急がない訳にはいかないからだ。
しかしその時間を割いてでも確認をしたかった。
実はコイツ等は死んだフリをしているのでは無いか? 鎧越しだから死んでいるか確認できず、止めを刺す時間を惜しんで進んだエルフ達を挟み撃ちするつもりなのか?
そうなれば疲労の局地に達したエルフ達はなす術もないだろう。
もしそうなら迂闊に近づきすぎると反撃を受ける。
俺はエルフ族使う強化魔法で槍の鋭さを強化し、倒れている鎧に突き刺した。
多少抵抗はあったものの、槍は難なく突き刺さる。
鎧の防御魔法が切れている事を差し置いても見事な切れ味だ。さすがエルフの魔法。
「っ!?」
そこで俺は確かな違和感を感じた。
槍を引き抜き、鎧を解体していく。
「お、おい何をしている!?」
突然死体を切り刻み始めた俺の奇行にエルフが困惑する。
「見ろ」
俺が解体した鎧を指差すと、エルフは嫌そうに鎧に目を向け、そして目を見開いた。
「何!?」
鎧の中には誰も居なかった。
「これは……どういう事だ!?」
エルフが困惑する。
「恐らく鎧を着ていたドワーフ達は死んだフリをしていたんだ。この鎧はドワーフ達が昔使っていた鎧だ!」
ドワーフの記憶にあるこの鎧の名前はハガネ。イカヅチの数世代前の古い鎧だ。
だがその外装の一部は新しくなっており、基本性能はほぼ変わらないが、新素材の装甲のお陰で防御力だけはイカヅチに迫るものとなっている。
「だが何故そんな真似を? 死んだフリなら先攻した味方が油断したスキを狙って後ろから攻撃すればいいだろう!?」
確かにその通りだ。だが、それではドワーフ達は安心できない。
「考えられる事は2つ。一つは侵入したエルフが現在確認できているエルフ達だけか調べる為。そしてもう一つは、ドワーフ達には他に守るべき場所があるからだ!」
「他に守るべき場所だと!?」
前者なら第三階層で暴れているオトリのエルフ達以外にも、俺達井戸攻撃班が既に侵入していたと死んだフリをしたドワーフ達が報告に向かっただろう。だがそんな事なら1人か2人で十分だ、残ったドワーフ達は鎧を着たまま追撃に向かえば良い。恐らくは鎧を俺達の為の目印として残しておき、自分達は無傷のイカヅチを纏ってから1つ所に集められたエルフを一網打尽にするつもりなのかもしれない。
そして後者ならば、ドワーフ達は本命の場所に集まって総戦力を以って防衛に当たるだろう。
となれば……
「恐らく仲間達が向かっている場所はダミーだ。そこに有るのは敵を一網打尽にする罠だけだろう」
「マズイな。すぐに連絡を……ダメだ! 魔法が遮断されている!!」
通信魔法が妨害されたのだろう。エルフが苦々しい声で叫ぶ。
森で使われた転移阻害の結界と似たような妨害魔法だろう。
ドワーフの方も通信関係のマジックアイテムが使えなくなるが、確か伝声管のようなモノがあった筈。ソイツを使って連絡を取っていると考えて良いだろう。こう言う時に引き出しが多いと有利だな。
となると、仲間を探して止めようにも間に合わない可能性の方が高いか。
「間に合わないかもしれない仲間を追いかけるか、俺達の役目を優先するか……」
どうするよ? とエルフを見る。
最も、コレは相当意地悪な問いかけではあるが。
「勿論『源泉』の破壊だ。我々が勝つにはそれしかない」
だよな。エルフは源泉を破壊されて魔力に限りが有る。この状況で仲間を助けても出来る事は逃げる事だけだろう。そうなればエルフ達は間違いなく無限の魔力に後押しされたドワーフに敗北し、種としての終焉を迎える。
「だがそうなると何処へ行く? 敵の守りで判断出来ないとあれば闇雲に探すしかないぞ!」
確かにそうだ。そして俺のドワーフの記憶でも源泉の位置は教えられていなかった。
ドワーフにとっても源泉はトップシークレット。その場所は地下深くに隠されていて、限られた者達にしか教えられていない様なのだ。このへんエルフと違うな。
「さっきドワーフ共を襲撃した際に気になる言葉を聞いた。俺についてきてくれ」
「分かっ……た」
エルフが俺の手を見て不思議そうな顔をする。
「お前、そんなモノを持ってきていたのか?」
彼が指差したのは、俺が格納庫から持ち出した品の1つだった。
「ああ、使えそうだったんでな」
「ドワーフ共の作ったモノを使おうだなんておかしなヤツだ」
エルフもドワーフも互いに嫌いあっている。そんな相手の道具なんて見るのも嫌だといいたいのだろう。
だが俺には関係ない。使えるモノなら使う。それだけだ。【憑依】スキルがあったって死ぬのは嫌だ。
なるべくならギリギリまで生きあがくさ。
「さぁ行くぞ!」
◆
「当たりだな」
俺が呟くと隣のエルフも頷く。
俺達の視線の先には、最新型の鎧、イカヅチを纏ったドワーフ達が何十人も待ち構えていたのだ。
『エルフ共を近づけさせるな!!』
指揮官と思しきドワーフが声を挙げる。
これだけでこの先に行かれたくないのが丸分かりだ。
俺は格納庫から持ってきたモノを前にかざしてエルフに叫ぶ。
「俺の後ろにつけ!」
聞き返す事すらせずにエルフは俺の後ろにつく。
『放てぇぇぇぇぇ!!!』
指揮官の声に従って部下達がさまざまなマジックアイテムを使って攻撃を放つ。
凄まじい数のマジックアイテムの攻撃が俺達を襲う。
俺はソレに龍魔法を発動させて防御力を増強させる。通常術者自身にしか使えない龍魔法もコレになら使える筈だ!!
「あれ?」
そして着弾。
ソレに当たった攻撃が弾き飛ばされる。
『何いぃぃぃぃぃ!?』
……成功だ。俺が持って来たモノ……宝石龍の鱗はドワーフ達のマジックアイテムの攻撃を物ともしなかった。
そう、俺は超巨大鎧スサノオの指に接着した鱗を指ごと持ってきたのだ。
おかしいと思ったのだ、ドラゴンの肉体は龍魔法によって超絶強化される。
逆に言えば龍魔法が無ければそこまで強くはならないと。
だと言うのにメリネアの鱗は加工される事無くスサノオに使われていた。
詰まりどういう事か?
恐らくメリネアの鱗は、単純に硬いのだ。
ドラゴンの中でも竜皇に次ぐであろう宝石龍の鱗は、龍魔法を使わずともシンプルに硬い鱗だったという事だ。
それも俺が下級の龍から貴龍に進化した事でも説明できる。
あの時、竜皇の血を受けた俺の肉体は確かにより高度な龍へと作りかえられた。
龍魔法は術者の力を増幅する魔法。つまりベースとなる肉体が強力なら更に強力になる魔法なのだろう。
うん、ドラゴンは感覚で魔法が使えるので詳しい事は分からんのだ。
しかしそう考えると、龍魔法を使わずともドワーフ達のマジックアイテムを無効化するメリネアの基本性能には驚くばかりである。
……うん、そうなんだ。実はさっき龍魔法を発動させようとしたんだが、何故か龍魔法は発動しなかった。
エルフである以上魔法の適性は他の種族とは比べ物にならない筈なのに、龍魔法だけは発動しなかったのだ。
超びびった。出来ると確信してやったのに実は出来なかった時の絶望感。
メリネアの鱗が優秀でなかったら今頃消し炭ですよー。
「はぁ!!」
などと肝を冷やしていたら、後ろに控えていたエルフがとびだしてドワーフ達を攻撃し始めた。
いけないいけない。こっちも攻撃しないと。
「エアハンマー!!」
圧縮した空気をドワーフの足に打ち出してバランスを崩し、強化魔法で切れ味を増した槍で胴体のある場所に槍を突き刺す。
突く、引く、突く、引くの単純な動作を連続して行う。
この動作に魔法での身体強化は行っていない。
単純に体術だけだ。魔法として使っているのは防御と切れ味の向上だけである。
ドンだけ身体能力が高いんだよエルフ。
ともあれ、宝石龍の鱗と言うデタラメな防御力で敵の攻撃を無効化する俺の前ではドワーフ達の攻撃は無意味。ゴリ押して接近してドワーフ達を撃破していった。
『ば、馬鹿な……何故貴様等がその鱗を……』
床に這いつくばったドワーフが信じられないといわんばかりの声音で俺に問いかける。
「いや、格納庫に落ちてたから使わせてもらった」
『盗人が……』
敵を始末し終えたエルフが槍を突き刺して止めを刺す。
「敵の道具を使って敵を倒すか。悪趣味だな」
使えるモノを使っただけなんだけどねー。
「だが我等にも余裕はない。見なかった事にする」
真面目だねー。
それだけ言った彼は俺に先攻して走り出す。
俺達は更に下層を目指して駆け出した。




