打算があるから和平は成り立つ
高柳さんとの交渉を終えた俺達は、魔族の臨時王都に攻めてきた騎士団を捕縛した。
「く、放せ化け物共!!」
捕らえられた騎士達が、魔族の騎士達に連れられて牢屋へと運ばれていく。
先程の雷撃による奇襲で大半の騎士達は捕らえていたが、一部の騎士達は特殊な任務を遂行する為に別行動を行っていた。騎士と言うよりは工作員といった方が正しいかもな。
彼らの任務は魔族の技術、特に転移装置の技術の奪取だった。
人間の国の軍部は、魔族達がどうやってこれだけの人員を周辺国にも察知される事なく戦線に投入しているのかが分からずに困惑していたようだ。
魔族は世界中に現れたのに、その魔族が湧き出る源泉を見つけれなかったのだから不気味さもひとしおだった事だろう。
そして俺の手引きで彼らは転移ゲートの存在を知った。
そして欲した、自分達を散々恐怖に陥れたその技術を、大軍を容易に、密やかに運ぶ事の出来る術を。
戦争に勝つ為に。だがそれは魔族との戦争ではない。
その先の、他国との、他種族との戦争に勝つ為に。
それ故の特殊工作員である。
最悪彼等さえ帰ってくれば人間達の国の作戦は成功といってもよかっただろう。
だが失敗した。騎士団も工作員も失い、奪ったと思った転移ゲートも再び奪い返された。
しかもそのゲートは地中深くに隠されてしまった。
人間達にとっては大損だ。
今のままでは。
だから俺は勇者達に窓口となって貰い、メリケ国とカネダ国に交渉を求めた。
それは魔族が両国を攻撃しない代わりに、そちらも魔族を攻撃しないという契約だ。
中々自分勝手な話では有るが、それはそれで彼等にもメリットがある。
世界中の国家が魔族に襲われているのに、彼等だけが魔族に襲われないのだ。
それは軍事的な意味で非常に高いメリットがある。
魔族の真の目的は征服活動ではない。
そして魔族の襲撃で弱った国家は、目的のモノが無いと分かれば即座に撤退する。
残るのは魔族に襲われ弱った国家だけだ。
その国をメリケ国とカネダ国が襲って支配しても、魔族は獲物を横取りされたと怒ったりしないのだ。
寧ろ後ろから反撃されなくて済むので魔族としても大助かり。
これは今回の作戦失敗を補って余りあるメリットである。
そんなエサを無償で提供する様な真似ができたのは、俺の得た情報と、高柳さんの集めた情報があったからだ。
というのも、メリケ国は勇者召喚なんてするくらいだから魔族の真の目的を理解していないのは明白だった。実際俺自身が王位を簒奪して様々な国家機密を閲覧したが、リ・ガイアから魔力を根こそぎ奪い取るような計画なんて影も形も無かった。もちろんメリケ国の有力な魔術師達についても、俺が弾圧し彼等の魔術的財産を奪ったから彼らも関わっていないのは分かっていた。
カネダ国に関しては高柳さんの仲間の諜報系勇者が色々調べていたので、こちらも白なのが判明した。
と、いうかだ。カネダ国はメリケ国と隣接している為、勇者として死ぬまで戦う事を拒否した日本人達が逃げ込む駆け込み寺に近い場所となっていた。
カネダ国としても、コワレ性能なスキル持ちの勇者が自国の利益になってくれるのならと、勇者達を高待遇で迎えていたのだそうだ。
そんな訳でカネダ国には結構な数の勇者達が入り込んでいた。
更に情報に関しての警備がザルだった為、潜入系スキルを持った勇者達によってほぼ全ての情報が知られていたと言うのだから恐ろしい。
後で聞いた事だが、俺がイルミナだった頃に再会した勇者君達も、元々はカネダ国に迎え入れられた後に、メリケ国の情報を得る為のスパイとして送られたらしい。
正直逃げてきたばっかの勇者を送り返して大丈夫なのかと思ったのだが、そこら辺はアレだ。
似たような顔の外国人の顔を見ても区別がつかんのと同じで、衣装だけ現地の服にすれば早々バレないとの事だった。うーんザルですなぁ。
ちなみに、勇者君達の任務は、メリケ国の王に関しての調査だった。
短期間でメリケ国の王が何度も死んだ理由を調べるのが彼等の任務だったそうだ。
うん、俺が原因だよ!!
調査の結果、タカ派の騎士団長が王位を簒奪し、捨てられた貴族令嬢に刺し殺された。令嬢はカネダ国の町で保護されたがその後逃亡、現在行方不明。そしてカネダ国は適当な王族を王に据え、元通りに戻ったとの事。騎士団長が謀反を起こした理由は、勇者という自分の立場を脅かす相手に危機感を覚えたからでは無いか、その証拠として勇者召喚の術式が失われたのが根拠という事になっていた。
はははははっ、真相を知っている人間としては大笑いですな。意外と歴史の真相ってこんなモンなのかも知れない。
つー訳で、カネダ国もメリケ国も魔族の申し出を受け入れた。
特にメリケ国は勇者召喚の術式を失って戦力は激減だし、王を立て続けに失ったので新王としても領地を増やして王家の権威を取り戻したいところだ。
という訳で両国の首脳陣は諸手を挙げて魔族との秘密同盟を結ぶ事を受け入れた。
そして彼等は魔族に襲われる近隣国家を狙って力を蓄えるのだった。
◆
「この度の活躍、見事であったぞマーデルシャーン」
再び玉座に座ったルシャブナ王子が満足そうに俺を褒める。
横に佇むラウグル王子は、結局主導権を握る事が出来かった為に不満そうだ。
人間の襲撃を食い止め、勇者との同盟に成功した俺は、魔王代理であるルシャブナ王子から褒美を賜った。とはいえ、いくら魔王が病気で政務を行えないからといって、許可もなしに勝手に大きな褒美を与える訳には行かない。更に言えばここはガイアに作った臨時王都なので尚更出せるものなど無かった。
「今は戦時中の為、マーデルシャーンには現在持っている子爵位に加え暫定的に名誉伯爵の爵位を授ける。これは我等が故郷の魔力枯渇現象が解決し、全ての民が帰還した際には父上の許可を得て正式に伯爵の爵位を授ける事とする」
「ありがたき幸せにございます」
まぁ俺が原因なんだけどな。
「メリケ国とカネダ国に割いていた戦力は勇者タカヤナギの情報を信用し、エルフとドワーフの国家を攻める部隊に加える事としよう」
「それが宜しいかと」
なかなか大雑把な決断だが、どの道臨時王都には食料も住む場所も足りない為、戻ってきた兵士達は別の戦場に送るしかないのだ。
「殿下、エルフの国への侵攻作戦ですが、この私も参加させて頂きたく存じます」
「何!?」
俺の言葉にルシャブナ王子が訝しげな声をあげる。
無理もない。ルシャブナ王子は戦争を強行した立場、当然敵も多い。
だからこそマーデルシャーンが護衛を兼ねて傍に仕えていたのだ。
その護衛が前線に行きたいと言ってきたのだから王子も驚いた事だろう。
「此度の敵であるエルフとドワーフは魔法とマジックアイテムに長じた種族と聞きます。もしこのどちらかの種族が魔力枯渇現象の原因であったならば、敵はリ・ガイアの魔力全てを自在に操る恐るべき敵という事になります。その様な敵を相手にするのでしたら、魔法に長じた私が出るのは当然の事でしょう」
ルシャブナ王子は俺の説明に考え込む。
それは護衛が居なくなる不安からではなく、魔族最強戦力の一角である俺を軽々と最前線に出しても良いのかという問題からだった。
俺の存在はルシャブナ王子だけでなく、臨時王都に住む戦えない魔族達の身を守る事にも繋がっていたのだから。
「宜しいのでは無いでしょうか?」
それを言ったのはラウグル王子だった。
「ラウグル……」
「兄上の言いたい事は理解できます。ですが我々には時間がありません。それを考えれば四天王を最前線に出す事も考えるべきでしょう。兵達はなれぬ土地で戦い続けているのですから」
そういわれるとルシャブナ王子も却下しづらい。
元々侵略路線を打ち出したのはルシャブナ王子だ。
確実な勝利を求めて前線に出る事を望む部下を手元に置いては、我が身可愛さで戦力を出し渋ったといわれてもおかしくない。
っていうか絶対言われる。主に穏健派に。
「分かった。許可しよう」
文字通り苦汁の決断であった。
「ありがとうございます殿下。必ずや魔力枯渇現象の原因を解明し、解決してご覧に入れましょうぞ」
こうして俺自身によるエルフ国の調査が行われる事となった。




