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憑依無双 ~何度殺されても身体を乗り換えて復活する~  作者: 十一屋 翠
ギリギス国編

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35/132

パーティ

 料理人に憑依した俺は、バードナに付いて調べる事にした。

 料理人の記憶を読み取り王都での評判を思い出す。

 息子はアレだが、バードナ自身は人格者として評価されていた。

 曰く、孤児院に多くの寄付金を送ったり、スラムの住人に仕事を与えて浮浪者の数を減らしたりとだ。

 だがバードナの本性は間違いなく悪であり外道だ。

 孤児院への寄付は孤児達を使って悪事を行わせたり、奴隷商人に売り渡すか、美しく育った子供を貴族の妾にする為だ。

 スラムの住人は底辺の生活苦から善悪の認識が薄いのを良い事に、商売敵を潰す工作員として使っている。彼等も悪事と分かってはいるが臨時収入の良さに逆らおうとしない状況だ。

 だが困った。

 バードナの本音は悪だが、バードナの行っている行動は善なのである。

 孤児院に寄付する事で子供は食事にありつけ餓死する事が無い。

 孤児達は仕事か見受け先が見つかるので浮浪者や犯罪者にならずに済む。

 浮浪者達は仕事が貰えるから飢えないで済むし家族を養えるので子供を捨てる必要は無い。

 浮浪者なのに家族? と思うかもしれないが、街頭娼婦などは店でも働けない悲惨な職業だ。

 そんな安い賃金で稼いだお金は主に食費に費やされるので部屋を借りる事もできない。

 しかも妊娠したら確実に育てられないので捨て子になる。

 バードナの偽善は間違いなく王都の役に立っていた。

 役人達がバードナに味方する理由は金だけではなく、そういった環境面での功績も影響しているのかもしれない。

 だからこそバードナを殺すのは困難であった。

 バードナの明確な弱点といえば息子であるリルガムの存在だったが、俺の手によってリルガムは逮捕。

 更に公衆の面前ではっきりと謝罪し、侘びとしてエルダードラゴンの素材一式を相場の2倍の値段で買い取る契約までしたのだ。

 それによってバードナへと印象は息子の不始末に対して誠実に対応する大人と判断された。

 元々バードナ自体の評判は良かった為、今回の件は彼に対しては同情的な評価となっていた。 


 さて、それらを踏まえてどうやってバードナに復讐するか。

 それにバードナに渡したままのエルダードラゴンの骨もある。

 まだ金貨一万枚しか受け取っていないから何としても残りの金も受け取らないとな。

 その為の第一歩として俺は料理長に取り入る事にした。

 今の俺はバードナと共謀している宿の一料理人に過ぎない。

 バードナの近くにいる人間に殺されればソイツを憑依できるのだが、都合よく殺されるとは限らない。

 捕まって牢屋に入れられる可能性だってあるのだ。

 だが料理長に取り入れればその距離を埋める事ができる。

 料理長はバードナの敵を殺す為の毒料理を作ってはいるが、単純な料理の腕前も相当なものだ。

 伊達に高級宿の料理長はしていない。

 それほどの腕とバードナと共謀しているオーナーの伝手で料理長はバードナの開くパーティの料理を作る事も多い。

 つまりバードナが口にする料理を作れるという事だ。

 現状、それが最もバードナを陥れる近道と言えた。


 ◆


「オードブル出来たぞ!! 二品目はどうだ!」


 料理人達が厨房で声を上げて調理を進めていく。

 ウェイター達は大事な料理を落とさない様に細心の注意で料理をトレーにのせてフタをする。


「よし、一品目運べ! 二品目もうすぐ出せるか!?」


 副料理長が指示を出し、ウェイターが料理を運び始めた。


「三品目はどんなだ!?」


「もうすぐ出来ます!」


 厨房は戦場である。

 多くの料理人が舌の肥えた客を満足させようと全力で腕を振るう。


 ◆


「ふぅ、今日も何とか終わったな」


 料理人達が椅子に座ってグッタリとしている。

 正直俺もクタクタだ。

 だが料理長に取り入る為にはこういう所で頑張らないと。


「おう、今度獲物が来るから誰か毒を受け取って来い」


 料理長の言葉に全員が嫌そうな声を上げる。疲れ果てている時に宿から放れた下町の店になど行きたくないからだ。

 けど俺にとってはチャンスだ。


「なら俺が行きますよ。ちょっと家族の様子を見に行きたいですし」


「家族ぅ? 嫁さんの間違いだろ?」


「全く、何時のまにあんな美人を引っ掛けたんだよ!」


 同僚の料理人達が俺を冷やかす。

 勿論相手はメリネアの事だ。

 メリネアは素性を隠す為に人間の姿を成長させて大人の身体になった。

 俺はそんな成長したメリネアを家族だとご近所さんには紹介したが、何時のまにやら同僚達にも知られていた。


「コレがメモだ。受け取ったらすぐに帰って来いよ」


「盛るなよー」


「盛りませんよ!」


 同僚達に囃し立てられながら宿を出た。


 ◆


「お帰りなさい、貴方様」


 店に行く前に自分の家に帰ると、メリネアが出迎えてくれた。

 家の入り口で俺を出迎えるメリネアを道行く人達が横目で見ながら通り過ぎていく。


「留守中何かありましたか?」


「何度か人がやって来てお仕事を斡旋してくれるといってくださったけれど、言われた通り断ったわ。そしたら腕を掴まれたから、お仕置きとして地面に押し付けてあげたら泣いて謝ってくれたわ」


 きっとその男達は恐怖しただろうな。

 見た目チョロそうな美女が大の大人を片手で地面に押しつぶしたのだから。


「今日のお仕事は終わり?」


「いえ、料理長に取り入る為にお使いに行ってきますのでもう少し遅くなります。先に眠っていても良いですよ」


「なら待つわ。夫を待つのが良い妻ですもの」


「ありがとうございます」


 俺はメリネアにキスをしてから家を出た。


 ◆


 下町の路地裏に入り、狭い道を進んでいくと男達が道を塞ぐ。


「止まりな、この先は行き止まりだぜ」


「父親の薬を買いに来たんですよ」


 俺が薬屋へ入る為の暗号を口にすると男達が道を開ける。

 彼等はこの先の店を守るボディガードだ。

 毒を堂々と売っている店に普通の人間を入れる訳には行かないからだ。


「すみません。コックから調味料の買出しに来ました。コレ、目録です」


 流石に料理長に頼まれて毒を買いに来たなんていえないのでぼかした言い回しになる。


「おう」


 カウンターの店員が目録を受け取り商品を棚から出していく。

 その間に俺は店においてある様々な薬を首を動かしながら眺めていた。

 ビンに入った蛇や小型の魔物。明らかにあやしいケミカルな色の液体もあればニンジン見たいな野菜を干したものもある。なんかでっかい棒状の飴みたいなのも置いてあるがアレなんだ?


「毒に興味あるのか?」


「え、いやそう言う訳では」


 確かに欲しいが今は駄目だ。もう少し信頼を得ないと。


「毒が欲しけりゃ言え。金さえ払えば何でも売る。睡眠薬に痺れ薬、ホレ薬に毒薬と違法な薬なら何でもござれだ」


 なるほどな。


「欲しくなったらまた来ますよ」


「おう、コレが薬だ」


 俺は代金を支払って商品を受けとり店を出て行った。


 ◆


 そうした地道な努力が実を結び、俺は多くの仕事を料理長から任されるようになった。

 そうしてお使いの最中にこっそりと自分用の薬を手に入れて準備をしてゆく。

 そんなある日、遂にチャンスがめぐってきた。


「バードナさんの店で貴族や大商人を呼んだパーティを開く。お前等付いて来い」


 俺を始めとした数人の料理人がサポートとして呼ばれる。

 よし、コレで会場に入り込める!


 ◆


 ここはボタクール商店の主、大商人バードナの私邸。

 そこでは貴族と大商人が集い贅を凝らした食事を楽しむパーティが開かれていた。

 まぁ俺には関係の無い世界では在るが。

 何しろ厨房は地獄だ。


「会場の料理が減ってきたぞ! 急げ急げ!!」


「肉料理を3番テーブルに早く!」


「6番テーブルの酒が少ない! 切らすな!!」


 料理人も使用人もフル回転でパーティを盛り上げる為の料理を出していく。

 俺もその中に混じって料理を作っていく。

 そして厨房を動く際に袖に仕込んだ睡眠薬を料理に垂らしていく。

 厨房は地獄のような忙しさなのでいちいち監視なんてしていられない。


 そして事件は起こった。


「きゃあああああああああああ!!!」


 パーティ会場から悲鳴が上がる。


 厨房にまで聞こえてきた悲鳴で料理人達が騒然となる。


「な、何だ?」


 料理人達が動揺していると、誰かが厨房に入ってくる。


「料理人は動くな!!」


 それは、後に集団昏倒事件と呼ばれるこの事件、王都で起こったもっとも規模の大きい不祥事であり、同時に大商人バードナの破滅の始まりでもあった。

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