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【二部開始】所詮脇役の悪役令嬢は華麗に舞台から去るとしましょう  作者: 蓮宮 アラタ
1章 追放までのあれこれ。
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8,報告するだけなのに?

申し訳ありません

体調を崩して更新が途絶えておりましたがボチボチ歌姫と交互ですが再開します

 


 髪飾りを壊されてブチ切れ、全力のラリアットをかましていた私はセジュナの悲鳴で我に返った。



「アリーシャ!?王子が泡吹いてるから!!」



 セジュナの言葉に慌てて腕の力を緩める。

 その途端に王子が事切れたように倒れた。

 仰向けに転がった王子をのぞき込むと、なるほど確かに口から泡を吹いて気絶している。


 この程度で倒れるなんて情けないなぁ。こんなのお母様の特訓で受けるボディーブローに比べればリンゴを片手で握り潰すくらいの可愛いもんなのに。

 うん、イマイチ例えが分かりづらいな。まあいっか。もしかしたらお母様の特訓が特殊なだけかもしれないし。


 私は泡を吹いている王子から視線を横に移すと真っ二つに割れた髪飾りを拾い上げる。

 先程見た通り蝶型の羽の付け根あたりを境にして綺麗に割れている。


 再び怒りが湧いてきたが何とか飲み下した。

 まぁうん、これくらいなら直せるかな。ただこう綺麗に割れたとなると直すより復元・・した方が早い気がする。

 でも私復元が苦手なんだよね……お兄様がこういうの得意なんだけど今留学中だしなぁ……。


 小さく溜息をついて完全に伸び切っている王子に再び目を向ける。

 先程のセジュナの悲鳴を聞いたのか誰かがこちらに向かってくる気配がする。

 見つかったら面倒臭いことこの上ない状況になるのは目に見えていた。

 よし、ここはさっさと王子の記憶を消して退散するとしよう。


 王子にラリアットかましたなんてバレたら大変だもの。婚約破棄さっきの後だ、状況的にこちらのせいになり確実に私の首が飛ぶ。

 アルメニア国では主神メサイアの末裔たる王族はそれこそ現人神のように敬われている。

 そんな王族を害したとあっては無事ではいられなまい。

 髪飾りを壊されたことに加え思わず積年の恨みがブーストされた結果、力の加減を忘れてラリアットかましたのはこちらの落ち度だけど、私は追放は大歓迎ウェルカムでも処刑は結構ノーサンキューだ!

 記憶消してさっさと逃げよう。


 膝をついて王子の頭に手をかざし、体内のミューズを消費して王子の脳内に記憶されている私のラリアット映像を消去する。


 代わりにセジュナの目の前で階段から派手に転ぶ映像を埋め込んでおいた。


 記憶改ざんは結構高度なテクニックだが、要は人様の脳内の神経に働きかけて消したい部分の記憶を引き出して消去し、代わりに偽りの記憶を埋め込めばよい。

 記憶の前後の矛盾さえ気をつければ改ざんは容易くできる。

 これもお母様からの特訓で叩き込まれた魔法のひとつではあるが今考えるとなんでこんなものを公爵令嬢が会得する必要があるのだろうか。


 まぁ今役に立ってるからいいか。深く突っ込むといけない気がするのでここまでにしておこう。

 ちなみに何故階段からすっ転ぶ記憶にしたかというと、ただの嫌がらせだ。


 作業をおわらせると目を白黒させたままのセジュナに素早く声をかける。



「セジュナ。もうすぐ人が来るから私は転移で公爵家に帰るね。ごめんだけど王子のことは頼んだ。記憶弄って階段から転んだことにしたから後はよろしく!またね!」

「えっ?あっ、うん、分かった。じゃあまたね!」



 セジュナはぱちくりとスカイブルーの瞳を瞬かせながらも、任せろとばかりに右手で拳を握り、その親指をたてた。



「任せた!」



 同じ仕草を返しながら頼もしい親友に声をかけて、私は転移しアルセニア学園を後にした。






 *






 アルセニア学園から一気にオーウェン公爵家の自分の部屋まで転移した私は、見慣れた部屋の調度品を見回して一息ついた。


 貴族令嬢らしからぬ白と黒でシックに統一されたシンプルな部屋。必要最低限の物だけが置かれ、唯一見栄えがするのは出窓を利用した棚部分に飾られた小ぶりな黄色の花くらいか。


 ベッドもよくある天蓋付きではなく、大きさはあるものの華奢な蔦の模様の黒い縁に覆われたシンプルなベッドだ。

 最も、このベッドの縁は高名な職人が手作りで一つ一つ色を塗り、組み合わせたというかなり手の込んだ逸品なのだが。


 そのベッドに行儀悪くぼふんとダイブして身を埋めながら私は瞼を閉じた。


 思い返すのは先程のこと。

 しっかしあれは素晴らしいラリアットだったよなぁ。

 足の入り方から腕を上げた角度、王子の喉を素早く捉えたスピード、そのまま締め上げるまでの実に見事に洗練された動き。


 お母様に見せたらさぞかし「綺麗に入ったわね!」と手放しで褒めてくれるだろう。


 アリーシャの母、アレクサンドラ・ヴェルザンディ・オーウェンは南国譲りの褐色の肌にとても映える銀糸の髪、紅玉のようなルビー色の瞳をした活発的な美女だ。

 私と兄の2児の母とは思えないほど若々しくダイナマイトボディを誇る社交界の花。


 しかしその美しい外見とは裏腹に結婚する前は元近衛騎士で現王妃の警護を担当していた。

 そこら辺の男共より遥かに強く決闘を挑まれては返り討ちにしていたという。

 その壮絶な強さと見事な白い髪と美貌から『白百合の氷姫』とか呼ばれてファンクラブもあったそうだが、お父様に一目惚れをして猛アタックの末結婚を勝ち取った猛者だ。


 そして私はそんなお母様に鍛えられていた。



「いい、アリーシャちゃん。いついかなる時も信用できるのは自分よ。だからどんな状況にも対応できるように特訓しましょうね?」

「はい母様!」



 大好きな麗しい母が言った言葉に当時5歳だった私は素直に頷いた。

 まさかその後ボディーブローをかまされることになるとは思いもしなかったが。

 お母様たらマジモードになっちゃって力の加減を忘れて私が何回半殺し状態になったことやら。

 ふふ、いい思い出だなぁー。もうゴメンだけど。


 半ば遠目になりながらそこまで回想したところでハッとする。

 そうだ、こんなことを考えている場合ではない。


 帰ってきたのだから事の次第を両親に報告しなければ。

 それに転移でいきなり帰ってきてしまったし、王子のエスコートがないことで侍女や家付きの者達も心配させてしまった。

 とりあえず顔を見せないと。ミーナはどこかしら。


 侍女を探そうと部屋の扉を開けたところで廊下を歩いていた透き通ったエメラルドの瞳とばっちり目が合う。

 お仕着せのメイド服に身を包み、桜色の髪を綺麗に結い上げた可愛らしい顔立ちの女性。

 件の侍女ミーナは私を見てアーモンド型の目を丸くさせる。



「お嬢様?もうお帰りでしたの!?私、お迎えにもあがらず……!!」



 手を持っていた水差しを取り落として呆然とする侍女に私は慌てて駆け寄ると落ちる寸前で水差しをキャッチする。

 危なかった、セーフ。

 オロオロするミーナに私は落ち着くようにと両肩に手を置いた。



「転移で帰ってきたの。だからお迎えは必要ないよミーナ。もうパーティに出る必要はないから」

「そ、それはどういう……?」

「王子と婚約破棄したの。あのままあそこにいても仕方ないから帰ってきたのよ。馬車を呼ぶのも億劫だったし。驚かせてごめんなさいね」

「こ、婚約破棄!?」

「ええ、だからお父様とお母様に婚約破棄したことを報告しようと思って」



 私の言葉にミーナは酸欠の魚のように口をパクパクさせる。

 驚きすぎて言葉が出ないようだ。

 どうフォローしようが迷っていると、何とか回復したらしいミーナがキリッとしたいつもの表情に戻ると突如両手を合わせて5回叩いた。

 その拍手は不思議と廊下中によく響いた。


 何事かと見ていると廊下のあちこちから家のお付のメイドやら執事やらが顔を出す。

 何故か皆一様に緊迫した表情をしていた。

 たちまち謎の緊張感が廊下中を包み込む。

 雰囲気に呑まれて私も思わず背筋を正した。

 な、何事?



 訳が分からず困惑しているとミーナが緊張感を滲ませた声を張り上げる。



「皆さん!すぐに仕事を中断して警戒態勢を!ランクB……いえ、ランクAからSの警戒態勢を!手が空いている者は執事長のウィージア様とメイド長のアリステラ様にこのことをお伝えして!理由は『コード092』よ!これは訓練じゃないわ。オーウェン公爵邸をお守りするのよ、さあ早く!」



 コード092、と聞いた瞬間皆の顔つきがさらに緊迫したものに変わる。

 え、だから何。警戒態勢?ランク?コード092ってなんぞや。


 理解できない私を置いてけぼりにしてミーナの「早く!」という声に家のお付の者達が一斉に行動を開始する。


 皆「伝令コード092!警戒態勢ランクAからS!オーウェン公爵邸をお守りするぞ!」と連呼しながら走り回っている。

 伝言ゲームよろしくこれを聞いた者達はやはり緊迫した表情になり一斉に走り出す。


 何事。いや本当にまじで。誰か私に状況を教えて?

 何この無駄のない統率された動き。ウチ軍隊じゃないよね、コードとか訓練とか聞いたけど軍隊じゃないよね。


 状況についていけず首を傾げる私に「お嬢様」とミーナが声をかけてくる。



「ねえミーナみんなどうしたの。なんでこんな緊張感溢れる殺伐とした空気醸し出してるの。戦場にでもなるの?」



 冗談で言ったつもりだったがミーナはしたり顔で頷いた。え、嘘。



「ある意味戦場になるかもしれません。お嬢様、申し訳ありませんが奥様と旦那様への報告は今一度お待ちいただけませんか。今、家の者が全力で警戒態勢を整えておりますからそれが整い次第でお願いします。ああ……ここにレイモンド様がおられないのが唯一の救いですわ。精鋭を揃えていてもこの家を守れるかどうか、賭けですもの……」

「えーと、ミーナ。私状況についていけてないのだけど……」

「お嬢様」



 ミーナはそこで私の手を握ると真剣な表情を向けてくる。

 あまりに真剣なので思わず唾を飲み込んで次の言葉を待った。



「お嬢様。こうなってしまった以上、私達は命を賭してでもこのお屋敷とお嬢様をお守りします。ですからどうかお嬢様は奥様と旦那様の暴走を何とかお止めください。オーウェン公爵家の存亡はお嬢様にかかっています」

「……」



 え、私お父様とお母様に婚約破棄の件を告げるだけよね?別に家を滅亡させる訳じゃないよね?

 なんで親に婚約破棄を報告するだけなのに公爵家の存亡が関わるのだろう。


 いや待て。確かに王子との婚約破棄は公爵家にとって汚点になる。

 名門貴族ともなれば立派なゴシップだ。

 ある意味存亡に関わるかもしれない。


 それにミーナや家の者達のこの警戒の入りよう。

 何かあるのだろう。

 コード092は相変わらずなんなのか分からないけど只事じゃない雰囲気だけは伝わった。


 婚約破棄しても問題ないと考えていたが不味いことをしてしまったのかもしれない。

 だったらこれは明らかに私のミスだ。

 私のミスで家を滅亡させるなんてことがあってはならない。私のミスでミーナ達を巻き込む訳にはいかない。


 私は決意するとミーナの真剣な表情にこくりと強く首を縦にふる。

 何が何だかよく分からないけど絶対に家は守る。



「分かったわ。お父様とお母様は私が何とかするわ」

「はい、どうかお二人をお願いします。お嬢様」






 そしてその会話から数分後。

 私はお父様とお母様の寝室の扉の前にいた。


 私はミーナと顔を合わせると、侍女は頷いて答えた。



「大丈夫です。お願いします」



 ミーナの合図と共に、私は部屋の扉をノックした。












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