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第17話 蒼天白夜、その力。

瞬時に周囲が、蒼と白の光で埋め尽くされる。

ゼウスは光に包まれ、身動きが取れなくなっているようだった。


そして、アレンの周囲の時間が止まる。


周りの景色はすべて灰色になり、自分だけが自由に動けている…という状況だ。

その時、アレンの目の前に、いつか見たようなウィンドウが表示される。


ー領域が再構築されます(自動メッセージ)ー


「領域の…再構築?」


アレンが目の前の文字に対して、一人呟くと


ーはい。正確には、あなたのイメージした世界の具現化です。ー


呟きに反応するかのように、メッセージが流れた。


「うぉわっ!?答えたっ!?」


ーそんなにびっくりしないでください。仮にも神であるものが…情けないですよ?『蒼天白夜』。色々あって混乱していると思いますが、最優先目標はゼウスの抹殺。それは分かっていますね?-


「俺はそのためにここへ来たんだっ…!この手で、平穏をつかむために!早くあいつにとどめを刺させてくれっ…!」


ーふふ…。あなたはとてもじゃないですが、神には不向きですね…。私に言えたことではありませんが。…そして、最高神へのとどめですが、まだ完全には抹殺できない状態です。-


流れるメッセージに驚くアレン。


ー最高神の領域はあなたの二つの領域…蒼と白の領域により消し去りましたが、まだ足りないのです。…新たな領域を生成し、ゼウスを取り込み、その中で奴を消し去らなければなりません。-


「どうすれば、その…領域を生成できるんだ…?」


ーイメージするだけです。ここはあなたの領域ですから、あとで変更も可能ですので、好きなようにイメージしてください。あなただけの、世界を。最高神を滅ぼすための舞台を…。そうすることで自動的にゼウスは取り込まれるでしょう…補足ですが、あとであなたが居た元の世界…ラズニエルに帰ることを考えているのであれば、心配には及びません。あなたは【世界ヲ繋グ】者。最高神を倒し、あなたが次の最高神になれば世界を渡り歩くなど簡単なことでしょう。-


「…そういうことか…ゼウスは倒すが、ラズエルはどうすればいい?」


ー彼女は殺さないでください。世界ラズニエルの守護天使である彼女が死ねば、あの世界で何が起こるか分かりませんので…ですが、彼女を含め、天使と名のつくものは最高神であるものに対して、入れ込むように作られていますので、あなたが最高神になれば、おのずと味方になるでしょう…彼女はそのことには気付いてないようですが。ー


そのメッセージを読んだ後、アレンは覚悟を決めた。


最高神になる、覚悟を。


全てを理解したわけでもない。だが、ほかに道がないのだ。


だから、覚悟を決める。


そして、イメージする。

最高神ゼウス…奴を滅ぼすための舞台を。


場所は、荒野。

どこまでも広い荒野だ。


空には光り輝く月が浮かび、星々の輝きがよく見える…。


そんな場所を、アレンはイメージした。


―――――



ハデスは龍へと変化したヴァイルの背中に乗り、周囲を見渡しながらアレンの姿を探していた。クローディアとリリアも周りを見回しながら、驚愕の声を上げている。


「い、いったい何が起こったんでしょうか…?」


「ここ…どこなの!?」


そのリリアとクローディアの疑問の声に、ハデスが答えた。


「領域干渉…だね。…で、結果がこれか…」


「りょういき、かんしょう??」


クローディアが聞きなれない言葉をゆっくりと復唱する。


「そう、領域干渉。簡単に言えば、神の持つそれぞれの領域をぶつけ合って、片方が片方を取り込むっていうことだね…。…例えば、僕は【闇ノ領域『神域ー闇ー』】っていうのを使える。このスキルは領域を作り出すスキル…とされているんだけれど、正直僕たちでもよくわからないスキルなんだ。…僕のこのスキルは冥界を維持するのに常時発動しているような形でね…。ゼウスの天界が、僕の冥界に干渉してきたこともあったんだけど、結果は引き分け。天界の浸食は失敗。冥界の方は被害なし。…というか、領域干渉については、これくらいしか事例がないからなぁ…それと、ここはどこなのか…っていう質問は…アレン君に丸投げだね。僕じゃ手におえない。」


「丸投げって…。」


「だってそうだろう?…最高神の天界ですら干渉して、領域ごと破壊するくらいの能力を持ったんだよ。…君たちの旦那様は…まったく、人間だった男が、最終的には神になっちゃうなんて、もうわけがわからない…。」


ハデスの言葉に二人は目を丸くさせる。


「アレンが…神様に、なった…?…ってどういうことよ!?説明しなさいっ」


クローディアがハデスに迫る。

ハデスはあわてることもなく、淡々と事実だけを説明する。


「彼は神になるべくして、なった。そういうしかないんだよ。人から神になるなんて、僕は聞いたことが無いけれど…。確かに言えることは一つだけ…。彼にはもう、誰もかなわないっていうことだけだ。」


あたりを見渡す三人と、龍化したヴァイルは見つける。


荒野にたたずむ蒼と白の光を纏ったアレンと、眩いばかりの黄金の光を放つゼウスの姿を。


「…っ…!!」


二人の姿を見つけ、存在を認識した瞬間、ヴァイルとその背に乗っていた全員は体中を圧迫するような、激しいプレッシャーに呼吸ができなくなった。

息が詰まるハデスとヴァイル。クローディアとリリアに至っては強烈な本能から来る震えが止まらなくなった。


「…っ…ぐっ…はぁ………ヴァ、ヴァイル!!できるだけ、あの二人からっ…離れるんだっ!!ここに居たら…巻き込まれるぞっ!!」


一番最初に復帰したハデスが、ヴァイルの背中で激を飛ばす。


『…ふぅ、はぁ…!!わ、分かった…!…だが…なんという力よ…。』


ヴァイルは空中で大きく旋回し、全速力で遠くにある小高い丘に向かって飛ぶ。

数分ほど飛び、そこの丘に降り立つと、ヴァイルは龍化を解き、がたがたと震えているクローディアとリリアを抱きしめる。


「大丈夫だ…!二人とも…主なら、きっと戻ってくるだろうからな…!」


静かに、そして力強く囁くヴァイルの声に、クローディアとリリアは激しく首を縦に振り、私なら大丈夫ですと言おうとするが、漏れ出す声は、言葉にならない声ばかり。


クローディアとリリアは不死族となったと言えども、その力はまだ弱い。そこで、ゼウスとアレンの放つプレッシャー…二柱の凶悪な力を持った神の気を受けてしまったのだ。


彼女たちは頭では分かっているのだ。片方の神は自分たちの夫だと。

だが、もう片方の神の力がぶつかり合い、まじりあい…増幅した気の力には、本能が逆らえなかった。


二人の頭の中には警鐘が鳴り響いている。


逃げろ。ここに居たら確実に死ぬぞ。と。



―――――



朕は剣を握る手を強める。そうしなければ、目の前の得体のしれない男によって、死をもたらされるかもしれないと思ったからだ。背中に嫌な汗が流れるのを感じる。

だが、朕も最高神と呼ばれる、絶対の存在。全知全能である朕をもってしても、目の前の神になっているであろう男の力は未知数…解析しきれない量の情報があふれているので、解析のしようがない。


(考えるのだ…この状況は、どうやって覆せばいいのかを…)


だが、考えても考えても答えは見つからない。

領域が、浸食されてしまったのだ。それがどういうことか、分からぬ朕ではない。


領域干渉による、浸食。


それは即ち、力の優劣。浸食される方が劣り、浸食するほうが優れている。ただそれだけのことだ。シンプルだ。とてつもなくシンプルだからこそ、結果が如実に見えてくる。


そう、今の朕は…目の前の神より、劣っている。


これはもう絶望的な状況だ。


戦う前から結果は見えている。


朕の世界を浸食したものに、朕が勝てるわけがない。


朕は激しく後悔している…。なぜ、早くこの男を殺さなかったのか、と。


さっさと殺しておけばよかったと思うが、もはや手遅れ。



考えているうちに、蒼と白の豪奢な衣装を身にまとった神が、さらに威圧を強くしてきた。


その力から読み取れるのは、朕に対する、激しい怒り…そして、覚悟。



だが、最高神たる朕の誇りは、崩れはしない。


覚悟を決めたのは、朕も同じ。


残された手段は、アレしかないだろう。


思いっきり息を吸い、『力』を解き放つ準備をする。



『ここを死地と定め、朕、『最高神ゼウス』の名によって命じる!!…人より神になりし異邦の輩よ…尋常に、勝負せよッッッ!!』



瞬間、朕の足元にクレーターができるのを感じた。


この宣言は、最高神である朕の最終手段だ。『死』を覚悟することで、力を無制限に、かつ最大限に活かせるようになる…だが、自分より強い相手にしか使えない。

使えるようになった当初は、こんなもの必要ないと思っていたが、ここにきて役に立つときが来たのだ。


身体の内側から、力が湧き上がってくるのを感じる。黄金色の光が、天より降り注ぎ、朕の体を包み込む。


ここから先は、まさに死地。


全身にありとあらゆる強化、細工を施し、最強の力を持って、目の前の男を打倒す。

剣を強化し、すべてのものを断ち切る稲妻の刃へ。

鎧を強化し、どんなものでも切れないように頑強に強化した。


全てを十全に整え、剣を構えたまま、目をつむっている目の前の男へ…。




瞬時に、斬りかかる。



稲妻の轟音と共に突進し、必殺の一撃を放つ。

魔力と神の力を何重にも重ねた至高の一撃。

仮に受け止められたとしても、仕込まれた稲妻が目標を完全に破壊する。





『ハアアアアアアアアアアアアァァァァッッ!!』





大地が割れんばかりの叫びをあげて、稲妻の剣を振り下ろす。


まだ目の前の男は目をつむっている。


くく…ははははは!!あまりの速さについてすらこれなくなったようだ。


光よりも早い速度で、決してとらえることのできない剣が、男に、直撃する。




その瞬間、勝利を確信した朕は、信じられないものを目の当たりにすることになった。








「遅い」






確かに、そうつぶやいた男は、何も動いていないように見えた…だが、朕は瞬間的におぞましい力を感じる。



(な、なんだ!?)










ーギイイイイイイィィィィィィィィィィィィィィィンンンンンンッッッッッ!!!








朕の渾身の一撃は、認識すらできない間にはじかれ、


(!!??)






ーズバンッッッッッッ!!!!!






男がかすかに動いたように見えた瞬間、朕の右腕は、固く握りしめていた稲妻の剣とともに、朕の目の前を飛んでいた。

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