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第13話 魔王登場

「魔王である我が輩…ディゼル・サタン・ゲシュタインが命ずる…!忌々しい…聖国を滅ぼすのだ!!」


我が輩は右手を水平に上げ、配下である魔物達に命ずる。


『グォオオォオオオオ!!』


『ガアアアアァァ!!』


様々な種類の可愛い配下たちは、おぞましくも、猛々しい声を上げて目の前の白亜の国に攻め込んだ。

だが、流石聖国と言ったところか。

魔王対策は万全のようで、我が輩の転移魔法でも国の中に入ることはできなかったのだ。

わざわざ大量の配下を連れて、仰々しく攻め込んだのも門を切り開くために仕方なく連れてきただけにすぎない…。

本来であればわずかな精鋭たちだけで、この国を滅ぼしたかったのだが、我が側近であり、参謀であるヴィンセントが許してはくれなかった。

ヴィンセントは狡猾な魔人族だ。

魔人族と言うのは…魔王である我が輩と同じ一族のものだ。ほとんど人間と大差ない姿かたちをしているが、頭に生えている赤黒い角と、その強靭な体と膨大な魔力はたかが人間如きでは歯が立たぬほどの一族だ。

奴は我が輩にこう言った。


『絶対に少数精鋭で挑むなどしてはなりませぬ。陛下。軍勢を引き連れ、正面から正々堂々と勇者を打ち滅ぼす…今代の勇者は戦闘能力ゼロ…物を作る能力に特化しているとか。そんな腑抜けた勇者を暗殺者の真似事をして打ち滅ぼしたところで名声も何も得られませぬぞ。』


その言葉を聞いて、我が輩は考えを改めたのだ。

長きにわたる因縁を、我が代で終わらせ、世界に我が輩の名を知らしめるために。


我が輩は物心がついた時から強かった。そんな我が輩は、魔族のほかにいる、魔物達の各部族を説得、時には我自らが力を奮って…すべての部族を我が輩のもとに統一しようと動いていた。

そして、数百年の時を経て、魔界を総べた我が輩は魔王となった。


邪竜族、化猫族、悪鬼族…無数にある部族の居場所を全てさらけ出し、人間界を滅ぼすという目的のもとに、我が輩たちは動き出した。


その第一歩が、勇者の討伐である。

我が輩は考えた。

どうすれば、一番楽に世界を統一できるだろうか、と。

ヴィンセントがだした答えはこうだった。


『先に勇者を討滅すれば、あとの英雄たちも有象無象に変わるでしょう。奴ら人間たちは勇者という光のもとに集まり、魔を滅し、英雄と呼ばれるのです。その光を先に潰す。さすれば英雄たちが瓦解するのも時間の問題…陛下、この魔界随一の頭脳を持つヴィンセントめが提案いたします。魔王の一族となったあなた様の仇敵である、勇者。これを先にたたいてしまえば、わが軍の勝利は揺るぎのないものとなるでしょう。』


そう、この世で絶対的な存在…それは、勇者と魔王だ。

勇者を光とするならば、闇が魔王。

互いに相容れぬ存在。

だが、片方が瓦解すれば、それぞれの世界はもう片方に侵略されるのがこの世の理だ。

先代魔王は殺されたが、勇者にではなかった。

故に、人からの侵略は受けていない。

勇者が魔王を殺さなければ、魔界への扉は開かないからだ。

しかし、魔界から人間界へは行き来できる。

この差はよくわからないが、今まで魔王が勇者を殺したり、勇者が魔王を殺したりしたことは、歴史上ないのだ。


だから我が輩はここにいる。

魔王の敵、勇者を殺すために。

永きに渡るこの宿命を断ち切るために…魔族や魔物達の世界を広げるために…!


「ゆけっ!!一騎当千の猛者たちよっ!!勇者を滅したものには我が輩から、望みの褒美を与えよう!!」


そして、人と魔の戦争が始まったのだ。


―――――――


報告が入った。

ヴィンセントが持ち寄った情報が間違いであることに。

たしかに物づくりの得意な勇者は存在した。

だが、聖国の国王がそれを許さず、もう一度勇者召喚を発動。

先に召喚された勇者はなぜか資格をはく奪された。

次に召喚された勇者は、とてつもない力を持った勇者だった…ということだ。


聖国と戦っているうちに、国に忍ばせておいた従者から【コール】でその情報が手に入ったのだ。


我が輩は血が騒ぐのを感じた。

戦闘民族である魔人族は、強烈な戦いの気配を感じると、血が騒ぐのだ。


だが、その血の騒ぎも、奴…蒼色の光を放つ正体不明の化け物を見た瞬間、【逃げろ】という本能的な恐怖に変わってしまった。


そして奴は放つ。

我が輩の力を遥かに凌駕するその力を。


一瞬にして、わが軍の4分の1が消し飛んだ。

その事実を飲み込むのに、我が輩は数秒の時を有したのだ。


途端に軍が瓦解しかける。

傍らにいたヴィンセントが叫んでいる。


「お前たち!陛下の御前だぞ!!勇ましく戦え!!奴が勇者だっ!!殺すのだっ!!…奴の魔力は今の一撃で底をついたはずだっ…!全軍、一気に畳み掛けろっ!!」


額に汗を浮かばせながら戦場全体の配下たちに激を飛ばしている。


『ヴモォオオォオオオ!!』


その言葉に、真っ先に動いたのは牛人族…牛の姿をし、二足歩行をする、武器を持った魔物たちだ。

牛人族たちは勇ましく、蒼く輝きを放つ黒髪の青年に襲い掛かる!

数は2000はいるだろうか、青年の体は普通の人間より背が高いが、体格はヒョロヒョロだ。おそらく、魔道士か何かだろう。この物量差では押しつぶされるのが関の山。これで奴は終わりだ、と我が輩が思った次の瞬間。


「邪魔なんだよォオオオオオ!!死ねやぁああああああ!!」


ビリビリと大気を震わせるほどの声が我が輩の元へ届く。

かなり距離があるはずなのだが、伝わってくる恐怖は、喉元に刃を突き立てられているようなそんな感覚。


青年が剣を振るったその瞬間、牛人族の一角…一部族が一瞬で跡形もなく吹き飛んだ。

信じられないその光景に、ヴィンセントは言わずもがな、我が輩もが絶句してしまう

我に返るのに数瞬はかかった。


「なっ!?アレは一体なんだというのだっ!?」


「…報告が入りました…奴が……奴が…」


ヴィンセントが汗をだらだらと流し、尋常ではないほど震えている。

我が輩は言葉を濁すヴィンセントに、先をうながす。


「…先ほどの報告にあった、あの力の強い勇者を、殺し、成り変わった新たな勇者…【不死族】、アレン…」


「ふ、ふ、【不死族】だとっ!?3千年前に先代魔王を殺した…あの一族かっ!?だが、その一族はすでに魔神によって、討滅されたはずだ!冗談を言うのも大概にせよっ!ヴィンセント!」


「【解析】の能力を持つものが、調べた結果です…間違いないかと…」


「な…」


そう、不死族…我らにとっては仇敵である一族だ。

最悪の組み合わせだった。

勇者で、しかも不死族。

弱点は皆無。毒も呪いもすべてが効かず、命を数千万持っていて、その力はまさに一万の軍勢と同じくらいの力を持つと言われている。

だが、その力が強力すぎるがゆえに、天から見放され、天によって征伐されたと記録には残っている。

その不死族が、今、再び目の前に現れ。猛威を振るっていた。


到底、信じられるものではないが、現実にいるのだ。

伝承よりも遥かに凌駕する力の持ち主が。

もはや化け物と呼ぶしかないほどの…絶対的な【強者】が、そこに居た。


奴が一閃するごとに、我が輩の配下たちはあっけなく崩れていく。

ゴーレム、悪鬼、オーク、邪竜…苦心して集めた軍勢が、部族が、瓦解していくそのさまは…我が輩を怒りで満たすには十分だった。


「ヴィンセント!!ついて参れ!奴は我が輩を探している!!奴を倒し、もう一度軍勢を立て直す!」


「陛下っ!?なりませぬ!王が前線に出るなど!?」


ヴィンセントの声は、我にはすでに届かぬ。

たった一人の男。

奴がいるだけでこの世はすべて破滅してしまうほどの力を、確かに奴は持っていた。

ここで奴を止めなければ、わが軍は全滅してしまうだろう。


「奴を止められるのは、我が輩だけよ。ヴィンセント、今一度、我が輩の剣となり、盾となれ。」


「陛下…」


ヴィンセントが片膝をつき、我に頭を垂れる。


「わが命、陛下のために捧げましょう…すべては、人間界を滅ぼすために!!……先代の魔王様よりも強い力を持つあなた様ならば…成し遂げることができるでしょう…」


瞬時にヴィンセントの体が魔力に変換され、我が輩の体にまとわりつき、鎧となる。

我が輩の右手には漆黒の剣。左手には漆黒の盾。

優れた魔族にしか発生せぬ、固有能力だ。

ヴィンセントは、【武器・鎧化】の力を持っていたのだ。


「忌々しい人間め…今度こそ我が輩が貴様らを殺し、下し、奴隷とし…世界を我のものとするのだっ!!」


我が輩は空中に浮きあがり、異質な力を持つ青年へ叫ぶ。


『勇者アレンよっ!!我が輩が、魔王…ディゼル・サタン・ゲシュタインであるぞ!!尋常に我が輩と一騎打ちで決着をつけよっ!!』


魔力で声を拡声、あらんかぎりの敵意と殺意をもって放つその声は、聖国とわが軍すべてに伝わった。


そして、奴からの返答が来る。



『その勝負、受けて立つ!!』



我が輩より大きなその声は、魔力で拡声などしていない。地の声だ。


…一体、どんな化け物だというのだ…奴は…。


そんなことを思っていると…。



「お前が、魔王か…」


蒼き光の勇者は、我の前に現れたのだ。




「なんで経済が得意とか…巨乳の美女じゃないんだ!?期待してたのにっ!!」





意味不明な言葉を吐きながら。


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