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第10話 圧倒

VIPルームにガイゼルとエルが通される。

そこには不敵な笑みを浮かべるゲイルが居た。


「ガッハッハ!…おお、ガイゼル殿…お主も運がないのう…余を狙う不届きものを匿っていたとは…」


「なにを言っている!!貴様が我々を謀ったのだろうが!シラを切るのもいい加減にしろ!エルまでさらおうとするとは…下種め!!」


吠えるガイゼル。

彼はもう頭が沸騰していた。

最愛の娘をさらわれそうになり、それを助けてくれたアレンをも巻き込んでこんな騒動を起こしたゲイルに対して、彼は並々ならぬ憎悪をゲイルに抱いていたのだ。


「…フン!証拠もないくせになにを言っておるか!」


「証拠ならある!アレン君がこの戦いに勝ち、真実を明らかにすれば貴様は終わりだ!!」


「そうですの!アレンさんは強いですの!絶対に勝ちますの!!」


その言葉を聞いて、ゲイルは笑みを深くする。


「ガッハッハ!貴様…アレを見てもそんなことが言えるのか?余にはどうやってもあの犯罪者共が勝てるとは思えんがなぁ!?」


闘技場の魔物入口を指さすゲイル。

それを追ってエルとガイゼルはそちらを見る。


「あ…あれは…裁きの竜!?なぜアレがこんな闘技場に居るんですの!?」


動揺するガイゼルとエル。

先ほど打ち合わせをしたとはいえ、想定していた魔物の強さが桁違いに違ったのだ。


「アレは余がペットに欲しいと言っておったものをようやく勇者が仕入れてきたのだ…!ちょうどあやつらの力も見たいところだったのでな…おい、騎士たちよ!こやつらを椅子に縛り付けておけ!」


ガイゼルとエルは抵抗の意志を示さなかった。

椅子に縛り付けられるガイゼルとエル。


「ガッハッハッハッハ!そこで仲間の死を見届けるがいい…!」


そして、『罪人の審判』が、始まった。



————————————


闘技場の中は石の柱や木の箱が置いてあり、身を隠したりもできるようになっていた。

観客席の前には高位魔術の結界が張ってあり、闘技場内での攻撃が観客席まで届かないようになっている。


そして、そこに立っているアレンは動揺していた。

会場の殺伐とした空気に触れて思う。


(こりゃあ…周りがみんな敵みたいな感じだな…)


そう、観客も、ドラゴンたちもどちらも同じ目つきをしているのだ。

紛うことなき、殺意の宿った目を、していたのだ。


「う、うああああああああ!!ちくしょう!なんでこんな裁きの竜なんてのがいるんだ!?助けてくれぇ!!」


男の5人のうち、一人が恐怖により錯乱し、闘技場から逃げ出そうとするが



ーガアアアアアアアアア!!



という音とともに、3体の裁きの竜から同時に炎のブレスが放たれる。

灼熱のその炎は射線上にある柱や、木箱などをすべて貫通し、焼きつくし、アレンの前に居た男たちを焼き払ってしまった。



—————————



VIPルームから観戦していたゲイルはため息を吐く。


「なんだ、もう終わってしまったのか…?フン、面白くない…。」


そんな中、コンコンとノックの音が聞こえた。


「ギルグか、女を連れてきたのか?」


「はい、上玉ですよ…」


その言葉を聞き、ゲイルは機嫌よくクローディアとリリアを招き入れる。


「おぉぉ…あの冒険者風情にはもったいない美貌よ…」


その言葉をガン無視する二人は窓の外を見て驚愕した。


「気持ち悪いです…ってアレンさんが!?」


闘技場は砂煙であまりよく見えなくなってしまっている。

ガイゼルが唖然とした表情で二人を見る。


「どう、なったんです!?ガイゼルさん!」


その言葉にゲイルは大笑いしながら答える。


「ガッハッハッハッハ!あ奴なら死んだ!!余のペットの攻撃を受けて無事ではすむまい…残念だったなぁ!?ガイゼル!」



会場の誰もがもうこの試合は、見世物は終わったのだと思った。


ただし、黒猫の少女を除いて、だが。


「アレンだったら、生きてるわよ?」


その瞬間、砂煙の中から、青い闘気を纏った『彼』が現れた。



「うおおおおおおおおおおお!!」



彼は大きな雄叫びを上げながら、普通の短剣を持ち、ドラゴンに向かっていったのだ。


ゲイルは目を見開き、叫ぶ


「なぜまだ生きている!?あやつはなんだ!?…まさか!?勇者だったとでも言うのか!?」


ガイゼルは内心ひやひやだったが、アレンが無事なことを確認し、安堵の息をつく。

エルは静かだ。


蒼い闘気を纏った彼は、ドラゴンの続いてのブレスを切り裂きながら突進する。


ドラゴンは相手が強敵だということを認めると、その体を生かし、尻尾でアレンをふきとばそうとする。


が、


「【瞬光剣】ッッ!!」


その瞬間、3体のドラゴンのうち、1体の体が真っ二つになる。


観客たちが静かになる。目の前の光景に誰もが目を奪われていた。

それは、蒼い閃光の如き剣筋によるものか、圧倒的な力そのものによるものか…


誰もが思う、あいつは何者だ、と。

勇者の中でも最強の位置にいる勇者王イシュタルがやっとの思いで捕まえたというドラゴンを、蹂躙されるはずの犯罪者の一人が勇者王をはるかに超える力でねじ伏せているのだ。




「ふんぬ!!」


アレンは【闘神の威圧】を発動させる。




その瞬間、ゲイルや騎士たち、アレンに嫌悪を抱いていた観客は、とてつもない化け物を敵に回してしまったと直感した。

観客の半数は結界越しにそれを受けて気絶していた。


「ひっ、ひいいいいいい!!」


ゲイルも観客と同じく、情けない叫び声をあげ、気絶してしまった。


「ねぇ…クローディアちゃん…アレン君、なんかヤバそうな気配を放ってるんだけど…」


冷や汗を流しながら、リリアは震える声でクローディアの方を見る。


「…そう?私には全然そんな感じには見えないわよ?」


クローディアだけが、アレンの威圧の影響を受けていなかった。




裁きの竜たちはアレンの威圧を受け、すぐさま翼を広げ逃げようとする。

だが、空に逃げようとしても、ドーム状に張られた結界はそう簡単には破れない。


「ギャアアアアアアア!!」



悲鳴を上げ、無様に逃げるドラゴンたちを見て、アレンは思う。


(あ…やりすぎた…?まぁ…殺そうとしてきたし、おあいこ、だよな?……ためしに、アレ、ちょっと力入れて使ってみるか…)


アレンは直立不動のまま、悠然と左手を突き出し、唱える。


(魔力は…このくらいでいいだろ…よし。これならちっさい爆発で牽制できそうだな。)


発動の直前、木の箱が人の形をとり、アレンに向かう。




「主っ!!ソレはダメだ!!すべてを消し炭にする気か!?主の精神力は常軌を逸している!その能力値でそんなものを撃つなっ!!」



黒髪の絶世の美女…ヴァイルの必死な声は、極限まで集中し、魔力を操作しているアレンの耳には届かなかった。




「【魔力爆散】っっ!!」




その瞬間、アレンの左手が蒼く光り輝き、轟音と共に、闘技場のドーム内を埋め尽くす。


結界はびりびりと振動し、ヒビが入る。


ドラゴン2体は爆発に巻き込まれ、塵と化す。


闘技場の床は大きくえぐれ、大きなクレーターがアレンを中心にして出来上がっていた。


なんとか爆発自体は結界が防いだものの、爆発の余波が脆くなった結界を完全に砕いてしまった。


奇跡的にも結界がぎりぎりまで爆発を防いでいたので観客たちに怪我はなかった。


だが、被害は尋常ではなかった。闘技場の壁はえぐれ、今にも崩れ落ちそうになっている。


観客は全員、失神してしまっていた。



そして、自分の仕業であるこの異様な光景を見て、アレンは呟く。





「やべ…やりすぎた…クローディアたちの方は俺が障壁張ってたから無事だけど…ヴァイル…あいつ無事か…?」





そう思っていると、どこからともなく黒髪の美女が現れた。


「このクズ主がっ!!我でなければ死んでいたぞ!?キサマ、幾つ力を使ったのだ!?今のは数百万の魔力爆発だったぞ!?」



それを聞き、気まずそうな顔をするアレン。


重い口を開く。









「えっと……100…?」










「は…?」





元、破滅を導くものは固まってしまった。


「き、キキキ、キサマ…、もう一度、言え!」


再起動したヴァイルは聞き返す。

聞き間違いであってほしいと願って。





「だから、100…たったの百だって…」




だがその願いは無残にも打ち砕かれた。


ヴァイルは目の前の存在の、あまりのでたらめさに、内心恐ろしい、と感じてしまった。



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