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第14話 アレンの一番長い2日間~中編Ⅱ~

「なん……だって?ドラゴンが人間になった!?」


アレンが呟く。その言葉はアジ・ダハーカの耳に届いていたらしい。


「ふざけるな。我を脆弱な人間共と一緒にするでない!!」


一喝するアジ・ダハーカ。その目は怒りに染まっていた。

だが、一息つくと、余裕たっぷりの笑みでこう、いった。


「初手は譲ってやる。簡単に死んでくれるなよ?」


(バカにしやがって!)


その言葉に怒りを覚えるアレン。その傲岸不遜な態度に、なにより人を遊び道具のように扱うアジ・ダハーカを許せなかった。


「うぉぉぉおおお!!」


不死族となり、常人とはかけ離れた能力値となったアレンは、双剣を持ったアジ・ダハーカに怒りのままに切りかかる。

無言でアレンの剣を、一本の剣で受け止めるアジ・ダハーカ。


「ふむ……力はそこそこあるな……だが、まだまだだな!」


目にも止まらぬ早さで剣を振るうアジ・ダハーカとアレン。

必死で応戦するアレン。

だが、短剣一本ではだんだんと速度を増していくアジ・ダハーカの剣技に対応できなくなっていく。


(くそっ!!まだ届かないのか!?俺の力では、こいつには勝てないのか!?)


強化されたはずのアレンの体は、アジ・ダハーカの剣を防ぐたびに軋む。

あまりのアジ・ダハーカの強さに、歯噛みするアレン。そしてついに、アジ・ダハーカの凶刃がアレンの肌を掠めた。


「なんだ…もう終わりなのか!?もっと我を楽しませてみせよっ!!」


ハッハッハと凶悪な笑みを浮かべながら剣を振るうアジ・ダハーカ。


(くそっ!せめて、ロングソードがあれば……)


「アレン君、これを使って!!」


「リリアさん!?だめだっ!!来るなっ!!」


なんと、リリアまでもがこの死地に来てしまっていた。だが、その手にはアレンの使いなれたロングソード。

それをみたアジ・ダハーカは


「ふん!たかが剣一本でどうにかなるとでも思ったかっ!!」


そんなものは障害にすらないとばかりに、一喝する。


すくみあがるリリア。だが、彼女は震える足を無理やり動かし、アレン達の方に徐々に近づいていく。

そして、ある程度の距離まで来ることのできたリリアは


「アレン君!これが……私にできる精いっぱい…っよっ!!」


リリアが空中にその剣を放る。そしてそれをアジ・ダハーカから距離を取るため、後ろに大きく跳躍したアレンが受けとる。

二刀流の愚をアレンはおかさない。二刀流はかなりの技量が必要なため、剣一本で戦ったほうがいいとアレンは瞬時に判断。腰に短剣を戻し、勢いをつけて再びアジ・ダハーカに切りかかる。


「お前らは安全な場所に逃げろ!ここは俺が食い止める!」


「そ、そんな!?アレン!?」


クローディアが涙を流しながら、抗議する。

しかし、リリアは冷静だった。


「クローディアちゃん!ここはアレン君にまかせて逃げましょう!このままじゃ皆死んでしまうわ!」


「アレンが死ぬなら、私も死ぬ!見てなさい!私だってたたかえ、」


るんだから、と言う前に言葉が途切れる。リリアがクローディアを気絶させたのだ。


「アレン君!必ず、生きて帰ってくるのよっ!!私も、クローディアちゃんも、まってるから!!」


ぼろぼろとリリアが涙を流しながらアレンに言葉をかける。

リリアは感じていた。目の前にいる二刀流の怪しい男。離れていても感じるほど、その男の魔力量は異常なほどに高く、恐ろしいものだ…そして、すべての人類……勇者や聖女までもが束になっても勝てないほどの力を持っているのだ。と。


「リリアさん・・・ありがとう!絶対に、生きて帰るから!【約束】だ!!」


応戦しながら、アレンは叫ぶ。必ずまた会えると信じて。


リリアは、あふれ出るアレンへの強い想いを隠して……好いた男のたった一つの願いを守るために。

クローディアを、死なせるな。という願いを、リリアは感じ取っていた。

彼女の思いは推し量ることはできないだろう。自分ではない女を逃がしてくれ、と頼まれたのだ。確かに、悔しい。悔しいが、今はその感情を抑え、逃げる場面だ。と賢い彼女は理解していた…。


そして、リリアはクローディアを担いで、遅い歩みだが、確かにその死地から遠ざかって行った。


それをみたアレンは、


(どうにかして・・・勝たないと!)


決意を新たにし、目の前の強敵を睨み付ける。

その後は一進一退の攻防が続く。だがある程度打ち合った時、局面は動く。

一瞬の、双剣を振り切ったアジ・ダハーカのその隙をねらい、アレンはスキルを発動させる。


「はぁぁああ!【瞬光】!!」


アレンの渾身の一撃が蒼い閃光となって、アジ・ダハーカに迫り、その脇腹の肉を切り裂く。

すると・・・


「ついに我に傷をつけたな……?不死族ごときが……この我に?……ハッハッハ!面白くなってきたではないか!!」


たまらず、狂ったように笑い始めるアジ・ダハーカ。すると、みるみるうちに傷口が塞がっていった。


「ウソだろ…再生、するのか…?」


アレンの目は絶望に染まる。渾身の一撃も効果がなかった。あとはどのようにすれば勝利への道筋は見えるのか…。アレンには想像もできなかったのだ。


瞬間、ドン!という音と共に、空間がアジ・ダハーカを中心として揺らぎ、続いて衝撃波が周囲を襲う。その強力な衝撃波で地面は抉れ、木々は根こそぎ吹き飛んだ。


アレンは衝撃を防ぎきれず、もろにソレを喰らってしまった。

内蔵は潰れ、アレンの体の半分が吹き飛んだ。

声にならない叫びをあげ、意識が途切れるその瞬間。


アレンの視界の端でログが更新された。


ー残存命数 9999999ー


すると、アレンの体が瞬時に元通りに復元され、意識が覚醒する。


(な、なんだ!?生きてる・・・のか!?)


アレンは困惑するが、そんな場合ではないのは明白だった。

まだ体に残るすさまじい痛みをこらえ、ゆっくりと迫り来るアジ・ダハーカに切りかかる。


「おりゃあああああああ!!」


「フハハハハハ!死ねぇ!シネシネシネシネシネシネェェェェェェェエエエエエ!!」


アレンの刃が届くかと思われたその瞬間、瞬時のうちにアジ・ダハーカの両手の剣が振るわれる。

黒い閃光が、アレンの体を切り刻む。

一撃一撃が必殺の一撃だった。アレンは受けきれず、もろにそれを受けてしまった。


「シネシネシネシネ!!」


アジ・ダハーカの剣戟が激しさを増していく。それはまさに黒い竜巻のような光景だった。

アレンは叫び声もあげられず、すさまじい痛みに耐える。肉は千切れ、骨は砕かれ、だがそれでも死ねない体になってしまったアレン。ログがすさまじい速さで更新されている。


ー残存命数 9999900ー


斬られ続けるアレン。抵抗もできなくなってしまったようだ。


ー残存命数 9999750-


「な、なんだコイツは!?すさまじい魔力量だぞ!?」


衛兵隊がやっと駆けつけるが、そこは死地。怪しい男の視界に一歩でも踏み入れれば肉を裂かれ、抉られ、絶命することは明白だった。手を出せずに、黒い竜巻を忌々しげに見る男たち。


またもや、先程と同等の魔力がアレンの体を覆ってくる。


「うぉおおおおおおああああああああああ!!」


この世の終わりかとも思えるほどの【痛み】がアレンの体を襲う。

その声に、恐慌状態に陥る衛兵たち。


「貴様の、命が終わるその瞬間までぇっ!!この我が、キサマを殺し続けてくれよう!!」


周囲が震え上がるほどの大音量で、言い放つアジ・ダハーカ。


すると、アレンとアジ・ダハーカが暗闇に包まれた。

深淵のような闇色をした一つの球体が、彼らを包み込むように形成される。

そして、アレンとアジ・ダハーカは暗闇に飲み込まれていった……。




辺りは先ほどまでのことが嘘のことのように静まり返る。


アレンとアジ・ダハーカが戦っていた場所には、黒い球体だけが、静かにそこにあるだけだった…。

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