これから
日曜日に投稿できるか、できないのかをツイートすると決めていたのにも関わらず、「投稿できるか不明」という曖昧な報告をしてしまい、申し訳ありません!
なんとか投稿できましたので、よろしくお願いします!
「••••誰が悪いとか、そんな話ではなかったんですね」
「!?」
話を聞いてマイが放った言葉は、社長をひどく動揺させた。
彼が話したのは、|シング&ライド《この会社》がなぜここまで変わってしまったのか、それの事の顛末だった。
「違う!違うんだ!全部私が無知なせいで••••!」
ひたすらに自身への否定を紡ぎ続ける社長だったが、そんな彼に被せるようにマイが言った。
「だって何も悪くないじゃないですか。役員の重鎮の人も、社長も。知らなかっただけじゃないですか」
「しかし、無知は罪で••••」
なおも食い下がろうとする社長にずいと顔を寄せ、さらにマイは続ける。
「そんなのは些事です」
「些事••••」
「そうです。それに、貴方は最後には私達のことを知ろうとしてくれましたよね」
確かに。彼は最初こそ無知だったけど、今ではちゃんとVtuberやそれらの文化について調べていて、本当に後悔している。
そう思うと、私はお腹の奥から何かが込み上げてきて、そのままそれは喉奥へ、口へと伸びていく。
けれど結局、私は喉奥で止まったその台詞を発することはなかった。
◆◇◆◇◆
やっぱり、口が動かなかった。
怖いという訳ではない。
むしろ、社長と向き合った時の怖さは綺麗さっぱりに失せていた。
社長の話を聞いたら、彼も私達と同じだってことが知れて、妙に安心できたからだ。
口が動かなかったのは、私のせいだ。
マイが力を貸してくれているのに。
ゆーちゃんが助けてくれているのに。
千隼くんと美納葉ちゃんが動いてくれたのに。
社長も私達のことを知ろうとしてくれていたのに。
ここまでお膳立てされておいて、口が動かなかった。体が強張り、喉の奥がこくりと鳴るばかりで。
私は思ってしまったのだ。
どうせ私の言葉など誰一人として聞いてはくれないと。
どうせ私とお喋りなんて誰一人としてしたくないと。
未だ私の脳裏には過去の記憶がこびりついている。
それは自分の思っていた以上に根深く、今も鮮明にフラッシュバックが連続される。
▲▽▲▽▲▽▲
『お前とお喋りなんてどうでもいいんだよ』
▲▽▲▽▲▽▲
『『『お喋りしたいとか、馬鹿みたい』』』
▲▽▲▽▲▽▲
過去の蜃気楼がゆらゆらと舞う。
それを振り解くように、私は頭を左右に振った。
もう嫌だ。過去に囚われるのは。
もう嫌だ。話ができないのは。
覚悟は決めたはずなんだ。
ここなんだ。勇気を出すのは。
勇気を出さなきゃ行けないのは。
ここで立ち止まって一生ほぞを噛む羽目になってもいいのか。
私は自問自答しながら下唇を噛む。
喋るんだ。
•••••喋ろう。
•••••••••喋れ!
過去という呪縛と、たった今目の前にある転機の狭間、私は葛藤の渦に飲まれている。
動こう、動こうと自身に発破をかけるたびに、過去は私の足首を掴んでくる。
ゾンビみたいに、ずっと私を追ってくるそれを振り払おうとしていた、その時。
膝の上にある右手と左手を、温かいものがぎゅっと包んだ。
「ゆーちゃん••••マイ•••••••」
左右を見ると、ゆーちゃんが頷き、マイが微笑んでいた。
二人は私にしか聞こえない小声で声を掛けてきた。
「大丈夫だよ」
「あんたがどんな経験したのかは知らないけれど、ちゃんとわかってくれるよ。話を聞いてくれるよ。••••だからさ」
そこまで言うと、二人は息を揃えて。
「「全部ぶちまけなよ。お喋りさん」」
「••••うんっ!」
◆◇◆◇◆
「違う••••違うんだ••••••」
社長は未だうわ言のように呟いている。
私は息を吸い込み、社長に語りかけた。
さっき、言いたくて、けど飲み込んだ言葉を投げかけた。
「社長はもう無知じゃないんですから、それは罪じゃないんです!」
そんな彼に、私は静かに告げた。
「私は、『無知が罪』なんじゃなくて、『無知であり続けて、見て見ぬふりすること』が罪だと思うんです」
「見て見ぬふりをすること•••••」
社長は歪んだ顔でこちらを見ていた。
ひどく苦しげで、瞳にはその曲線に沿ってうっすらと涙が作った膨らみが見えたが、それが溢れるのを罪悪感で押さえつけている様子だった。
私はそこそこ、人の汚い部分を見てきた。
だから何がわかる、と言われるかも知れないが、見てきたからこそ、そこそこに人の感情を読むことが出来るようになった。
私に向き合ってくれない人••••いや、自分の欲しか見ていない人。そんな人と比べて、彼には微塵もその人達にあった様子が見られなかった。
だから、彼が本当に酷い人とは思っていない。例えさっき彼が語った出来事が嘘だったとしても、この態度は本当だ。
私は社長と目をはっきり合わせた。
「ええ。けれど、今貴方は私達に向き合っている。だから大丈夫です。ここから変えられます」
私の言葉は伝えた。
が、
「••••けれど俺は人を縛った。不自由にした••••それは事実で••••だから••••」
••••まだ、後ろ向きだ。
どうやら、彼も相当の根深いものを抱えているらしい。
どうしよう。そう思った時———、
「私は昔———、」
マイが口火を切った。
◆◇◆◇◆
私は私の友達が前を向いたのを、確かに見届けた。
彼女の言葉が彼に届くことを祈ったけれど、それはうじうじとした社長の呟きは思ったより強かった。
私は嫌な気分になった。
社長が私にダブって見えたから。
好きなダンスが嫌いだったあの頃の私に。
機械的に言うことを聞いていたあの頃の私に。
セクハラ野郎に碌に反発もしなかった私に。
そして未だにそれを引きずって、トイレで吐き、あまつさえ、友達によそよそしい態度をとってしまう私に。
嫌な気分というのは訂正しよう。
私は腹がたったんだ。
無性に無茶苦茶にしてやりたくなった。
だから、全部ぶちまけてやることにした。
私は机に手を乗せて、社長の方へ大きく乗り出した。
そして口を開く。
「私は昔、ダンスの講師にセクハラをされました」
「••••え」
社長はその時、確かに目を剥いた。
「男の講師で、私にしきりに『可愛いらしいダンス』『女性らしいダンス』を強要されました。無駄に可愛らしい顔してたからですって。勿論、そんなダンスをしたい訳じゃありません。私がしたいのはかっこいいダンスですから」
私は矢継ぎ早に捲し立てる。
「挙げ句の果てに、私は隠れてやっていた別ジャンルのダンスを捨てられて、言いなりになってしまいました。あんたがさっき言ってた不自由ってやつです」
「そんなある日、私にセクハラしてた講師が他の生徒へのセクハラで塀の中に行ったんです。あの時は嬉しかったですよ。やっと自由になったってね」
私の独白を聞いていた社長だが、何が何だかわからないと言った様子だ。
当たり前だ。側から見ればいきなり自分語りを始めるやべー女だもの。
あー••••••こういう時、ラリアーみたいにお喋りだったら楽なんだろうなぁ。
思ったことをはっきり言語化できるんだから。
けれど、私は止まらない。
「つまりなにが言いたいかというと••••••」
こいつに一泡吹かせるって決めたんだから。
ここで私も変わるって決めたんだから。
私は吐き捨てる。
「過去に不自由になってないで、さっさと前を向いて私達の今の不自由をなんとかしてくれませんかね?ラリアーが言うには社長は今、無知じゃないんですよね?」
「••••••••••っ!」
社長は目を見開いた。
私はあの頃の自分に一番言いたかった言葉を投げつけた。
「さっさと前向いて、変革!もがけば不自由も自由に変わるんですから!」
熱くなりすぎたのか、少し声が響いて、そして静寂が少し響く。
それを破ったのは。
ぽちゃり。
机に落ちる一雫だった。
それの主は社長で、彼は酷く濁点塗れの酷い声で絞り出すように言った。
「••••••••分かった」
その顔は、親に叱られた子供のようだった。
最後まで読んでいただき、感謝です!
今回はラリアーさんと、群雀蘭さんの成長回でした。
過去を振り切った二人、次回は環太くん目線でこれを見てみましょう!




