表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染Vtuber、暴走するってよ  作者: 日陰浴
激唱編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/161

転換と門出

 あのバーベキューの一件から数日が過ぎた。

 あの後も、毎日の特訓は変わらずあった。

 以前より手応えをより感じ、妙に張り切って取り組んだからか、俺はひどく疲れていて、布団で泥のように眠っていた。

 すると、

「起きろ〜!!!!!」

「うぐっ!?」

 凄まじい衝撃が腹部に走った。どうせ美納葉が飛び蹴りでもかましたのだろう。

「このやろ••••もっとマシな起こし方が出来ないのか••••!?」

「これしか知らない!けど眠気は飛んでったでしょ?」

「眠気どころか意識が飛ぶところだったわ」

「伝統芸能だからね仕方ないね!」

「んなもん伝統芸能にするな!?」

 近松門左衛門とか市川團十郎とかに謝れ。

「え〜幼馴染に飛びつかれて起きるシュチュエーションだよ?需要あるよ〜?」

「猪に突進されて意識を飛ばすシュチュエーションの間違えじゃないか?」

「何だと〜!?私美少女だし!猪じゃないし黒髪ロンg」

 美納葉が何やらごちゃごちゃ言っているが、野獣に貸す耳なぞ俺には無い。

 俺は(やっこ)さんをスルーすると、布団を畳むべくもそもそと立ち上がる。

 布団を畳むといっても、そこまでの労力は要らない。なにしろ、夏なので分厚いかけ布団ではなくてタオルケットなのだから。

 若干、皺の寄ったそれを軽く振ると、フローリングに広げ、畳みこむ。

 そうしているとゴキブリ••••いや、どっちかというとバイ○ハザードのリッ○ー染みた四足歩行で美納葉が接近して来た。非常に気色が悪い。

「私を無視するな〜!」

「うわこっちくんな!畳んでる途中でしょーが!」

「しらんな」

「こいつぅ••••!」

 俺は片手で美納葉を押さえ込みながら、もう片手で布団を畳む••••••••あっだめだこれ。奴を押さえ込んでいる右手がプルプルしてる。

 あえなく、撃沈———、となりそうだったその時、


「二人とも〜?起きたのか〜?」

 何とも芳しい香りを漂わせながら••••いやこの流れ、身に覚えがあるぞ。デジャヴにも程があるなぁおい。まぁ、今回は前とは違って美納葉の気配に気付くことが出来なかったけど。••••あいつ、また気配を消すのが上手くなったな。非常に厄介である。

 まぁ兎に角だ、部屋に入って来た赤上さんは、リビングの方向を指し示して口を開いた。

「起きてるならちゃっちゃとご飯食べちゃって。うたてはもう食べ始めてるし」

「「あ、はい」」

        ◆◇◆◇◆

 テーブルには、ぱちりと割れた部分からじゅわじゅわと肉汁を垂らすウィンナー、「太陽の光を余す所なく詰め込みました」と主張するが如く輝くミニトマト、綺麗な緑でしゃきりと背を立てているレタスが並んでいる。

 椅子に座るうたてさんは珍しくランニングをしていないのか、寝惚け眼を擦りながら、さくさくと食パンを頬張っている。

 急いでいるようで、うたてさんはパンを飲み込むと、すぐさま皿に乗っているサラダを詰め込んだ。


「ちょっ!?お前っ!?目を離してる隙に!?」

 赤上さんが目をひん剥いている。

「ただでさえ一口が小さいんだから一気に飲み込むなよ!喉詰まらせたら危ないんだから!」

「透は私の親?」

 うたてさんは口の中の野菜を飲み込むと、じとりとした視線を赤上さんに向けた。

 対して赤上さんは若干狼狽えた様子で返答する。

「親じゃないけどさぁ!?危なっかしくて見てられないぜ!?」

「危ないときは透が何とかしてくれるじゃん」

「その考え危険だぞ!?」

 口論を続ける二人だが、うたてさんの方が一枚も二枚も上手(うわて)なようで、赤上さんはずっと丸め込まれている。

「それに、基本的に焦ってる時しかこんな食べ方しないし」

「その焦った時が心配なんだけど••••?」

「私が常に暇なこと、透知ってるでしょ?」

「うぐ••••」

 いよいよ王手、といったところだろうか、赤上さんが言葉に詰まる。

 うたてさんはさらに畳み掛ける。

「透が何も言わずに消えること、ある?」

 少し間が空いて、赤上さんは絞り出すように言葉を落とした。

「••••••••ない、な」


 •••••••••••。


 さて、そんな夫婦漫才を他所に、俺と美納葉は朝食を取るべく、椅子の背を持ち、引いた。

「「いただきます(!)」」

 さっくりときつね色に輝いているトーストにマーガリンを乗せて、スプーンで塗る。

 途端にマーガリンの黄色い様な白い様な色が半透明になって、トーストにじんわりと広がっていく。

 うたてさんの家ではバターではなくマーガリンを使うらしい。何でも、バターより値段が安いからだと。意外と庶民派である。

 そういえば、買い出しに出かけた時に見たバターの値段が、マーガリンの二倍ぐらいあったっけ?特段大きな変化が無いのなら安い方を選んで、余ったのを音楽に使う。いかにもうたてさんらしいや。


 その後、食事を終えた俺達は、各々のすることをしたのち、いつもの様に特訓をはじめるべく、玄関へと向かうのであった。

        ◆◇◆◇◆

 時間が経つのは早く、もう夕方。

「うん。二人とも、数日ぶっ続けでも大丈夫」

 うたてさんが唐突に何かとんでもないことを口走った。

「え、何がです!?」

 主語がないってこんなに怖いの?せめて何を数日ぶっ続けでするかぐらいは教えて欲しいんだが。

「歌」

「これ以上なく端的!?」

 数日ぶっ続けってことは睡眠なしって事だろ?普通に化け物でしょ。••••いや待て?これってもしかして、実演させられるパターンじゃ?

 うたてさんの様子を伺うと、何やら「どうしようかな?させようかな?」と呟いていた。

 俺は危惧が現実に変わる様を脳裏に浮かべ、冷や汗をかいた。頼む神様。助けて。

 横をチラリと見ると、美納葉は「何それ楽しそう!」と言わんばかりに目を輝かせていた。この異常者め。

 このままでは多数決的に地獄ルート決定かもしれん。

 前門の音楽狂い(うたてさん)、後門の異常者(美納葉)

 ••••あーこれはまずいかもしれん。俺の中のセンサーがバッチバチに反応している。

 俺は諦め半分、懇願半分が入り混じる、何ともいえぬ表情を浮かべる。


 すると、


「まぁ今回はそんな余裕はないし、させないけれど」

 ありがとう神様。今までこれっぽっちも信じてなかったけど、これから信じることにするよ。

 今まさに俺の数日が、現世の方向へ舵を切ったのだった。

        ◆◇◆◇◆


 •••••••••••••••••。


        ◆◇◆◇◆

 またしても時は流れ、夕食後。

 俺達は、赤上さんとうたてさんに、リビングへと来るようにと呼び出されていた。


「一体全体何の話ですか?二人共?」

「そうそう!いつになく真剣そうだし!」

 俺達が問い掛けると、二人は声を合わせて口を開いた。



「「免許皆伝!」」



「「はい?」」

 俺達は唐突だったからか、その字面を飲み込めずにいた。

 それを置いてけぼりに、二人は話を進める。

「夕方、言ったでしょ?『数日ぶっ続けでも大丈夫』って」

「まぁ理由はその他もあるけどな。うたてに見せて貰ったけど、大分レポート良くなってたし」

「それ、一番大事」

 うたてさんは赤上さんを指差し、同意を示す。

「まぁ、なんだ。兎にも角にも、二人共めちゃくちゃ歌が出来るようになった訳だ」

「めちゃくちゃ?そこそこの間違いじゃ?」

「そこはお前の価値観がちょっとおかしい」

「透こそ友人の価値観、おかしい」

 赤上さんが話を軽くまとめた後すぐ、二人はわちゃわちゃと会話を始めた。緊張感が薄れる音がする。


 俺達はそれを見て、やっとこ事態を整理した。

 俺が口火を切る。

「えーと?つまり今日でうたてブートキャンプは終わりってことですか?」

 うたてさんは、特訓の時とは違う方向の真剣さが混じる表情で、こくりと小さく頷く。

 そして彼女はポケットに手を入れて、何かを取り出した。

「そう。••••そしてこれが、君達の曲」

 それは小さなUSBであった。


 俺と美納葉はそれを見つめると、同じことを呟いた。


「「俺(私)達の••••••曲」」


 ちっぽけなちっぽけなUSB。

 実感が湧かなかった。

 その中に俺達のオリジナル曲が入っているという実感、そして俺達が一つの曲に見合う成長をしたのかの実感、それが湧いてこなかった。


「こう言っちゃあ悪いんですけど••••案外、あっさりなものですね。••••あ、でも、戸惑いというか不安?もあるんですかね。自分がそんなに成長できたのかな、とか」

 曲を作った当人であるうたてさんは、てっきりむくれると思ったが、そんなことはなく、ただ頷いた。俺達の意図を理解してるかのように頷いた。


「そうだね。けどそれには二人の経験したこと(二人の成長)が確かに詰まっているよ」

 赤上さんはその言葉に深く頷いた。

「素人目だが、よく頑張ってたと思うぞ!もっと自分を信じてみな?」

「けど、私も特訓始めた頃は「まずいぞ」って思ってた••••」

「な!不安になる気持ちはわかる。••••けどその不安こそ成長だよな」

 二人は顔を合わせると、どちらともなく笑い出した。


 俺は美納葉を横目で見た。

 美納葉も俺と同じく、いまいちピンと来ていないようで、黙りこくっていた。


 この場の空気は兎に角、混沌としていた。

 俺達の内では不思議な空気が流れる一方、向こうの二人の間では朗らかな空気が流れている。

 それを察したのかは分からないけれど、唐突に赤上さんが俺達に向かって声をかけた。

 彼の指は例のUSBを指している。

「聴いてみるか?」

 俺達はぎこちなく頷く。

 赤上さんはテーブルに置いてあったノートパソコンにUSBを繋ぐと、音楽ファイルと、歌詞の入った文書ファイルを開いた。



 音色が流れた。


 俺の胸の中に、じんわりとした不確定な何かが湧き上がった。

 曲なんだから音色が流れて当たり前。

 そう。当たり前のこと、当たり前のことなのだが、それが妙に新鮮に感じた。


 明るく、朗らかで、あけすけなそのメロディーは空気を伝い、俺達に届く。

 それと共に、俺達は視線を歌詞に向けた。

 歌詞ファイル、そこに綴られていたのは、『転換』であった。

 どう感じ、どう動くか。

 そんな『転換』。



 

 ああ、正しく、()()()()なのだ。

 俺達の()()()()()()()なのだ。


        ◆◇◆◇◆









 所は変わり。とある時。

 誰かが誰かに声を漏らした。


「●●●」


 と。

 

今回で、激唱編が終了となります!

千隼と美納葉の成長編が終わり、新たなる章へ移って行きますので、よろしくお願いします。

なお、次回は箸休め回となります。

最後まで読んでいただき、感謝です!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ