VOMKに向けてin影縫宅
影縫くんは有能なんだ!
「千隼くん、どうして裸足なの?••••って千隼くんすっごい憔悴してるぅ!?本当に何があったの!?」
「いや〜美納葉に市中引き回しの刑にさせられまして」
「どういう状況!?」
「どういう状況も何も••••手首を握り締められた状態で何時間か走られただけだけど?」
「あ、物理的に市中引き回しされたんだ!?••••本当に大丈夫?怪我してない?」
影縫くんが目をひん剥く。••••ねぇ、君いつも目をひん剥いてない?勘違いかなぁ?
因みにこれは余談だが、実際の市中引き回しは、華やかな姿をした死刑囚が罪状の告知文と共に、刑場まで歩くというものだ。この際、死刑囚が華やかな姿をしているのは、見世物にするためと、死刑囚がみすぼらしい姿をしていると市民から苦情が入るからである。江戸時代にも現代のような「○○なんて可哀想」クレーマーがいたのだ。人とは変化しないものだな。
「まぁ大丈夫。ずっと風圧を受けて呼吸があまり出来てないだけで」
「うん全然大丈夫じゃないね!?」
「こんくれぇなんてこたぁねぇ••••」
「それ死んじゃうよね!?もれなくキボウノハナーしちゃうよね!?」
「まぁ冗談はさておき」
俺はスッと立ち上がる。
その動きを見た影縫くんは、困惑を顔に浮かべた。
「あ、あれぇ••••?だ、大丈夫なの?」
「呼吸出来なかったのはさっきまでだからね。今はちゃーんと息ができますとも」
「なんだか釈然としないけど••••まぁいいや、とりあえずウチ入ってよ」
ここで話すのもなんだしね、と影縫くんに促され、俺達は部屋に通される。
古ぼけたアパートに似合わない程しっかりとした防音設備をしている部屋に入った。
勿論防音設備だけではない。
俺でも知っているものから、使い方も分からないものまで、様々な機材が配置してあった。
「うっわぁ••••!すご••••」
「でっしょ〜!」
感嘆符を上げると、影縫くんは胸を張ってドヤ顔をしてくる。
うん。仕草が子供っぽい。そーゆー所がショタと言われる所以なんだよなぁ••••。いやまぁ、リスナーはそんな仕草は知らないと思うけど。けど、発言やら行動やらの諸々が全体的に背伸びしてる子供なんだよ。そりゃあショタって呼ばれるわな。
「お、おーい!千隼くん!?千隼く〜ん!?なんで俺の頭を撫でてんの!?」
「おっと失礼手が滑った」
「ねぇ今絶対子供扱いしたよね!?そうだよね!?」
「シテマセンヨー」
「嘘だッ!?」
しまった。溢れ出る父性を抑えられない所だった。
俺は話を逸らすために、部屋にあった一際大きな機材を指で刺した。
それは人が数人はすっぽり入れそうな箱だった。
「と、ところでこれはなんですか?」
「千隼くん?もしかしてだけど話逸らそうとしてる?」
「と、ところでこれはなんですか?」
「あ、あれ?」
「と、ところでこれはなんですか?」
「NPCみたいになっちゃった••••!?」
「ト、トコロデコレハナンデスカ?」
「抑揚すら無くなっちゃった!?••••あーもう!仕方ない!」
影縫くんは自棄になったように説明をしてくれた。
「えーとね、これは防音室だね」
「防音室!?」
防音室というと、ウン十万仕事だろう。それを個人で持ってるなんて、闇堕ち前の影縫くんってどれだけ売れっ子だったんだ?
俺が思考を巡らせていると、影縫が何かを察した様な表情を浮かべた。
「あー••••なんか勘違いしてない?」
「ん?何を?」
「この防音室は買った訳じゃないからね?そもそも俺にはそんなお金はないし」
「え?じゃあどうしたの?これ」
「そりゃあ作っただけだけど?」
「作ったぁ!?」
目を剥く俺。少し前の影縫くんと立場が逆転してしまった。
というか防音室を自作って••••どこまで有能なんだこの人。
◆◇◆◇◆
「でー?結局なんの様なの?美納葉ちゃん?」
「えーとね••••VOMKについて聞きたいことがあって••••!」
ちゃぶ台の周りにそれぞれ座った俺達は、話を本題に移す。
「あー成程ね?歌ってみた、もしくはオリジナル曲を撮りたい、と」
「そう!オリジナル曲!」
「おいちょい待て!?」
本当に待ってくれ。オリジナル曲なんて聞いてないぞ!?
「今決めたからね!」
「この野郎」
そして普通に心を読むな。
歌ってみただけなら兎も角、オリジナル曲とまで行くと色々資金面が大変になってしまう。
初心者目で見ても、サムネイラスト、動画編集、編曲、作曲、作詞••••その他諸々の方面に造詣が深い人が必要だということぐらい分かる。
美納葉はこれを打開できるのか?••••うーん無理だろうなぁ••••。
と思っていると、美納葉が衝撃の一言を放った。
「確か影縫くんって、昔自分で曲作ってたよね?」
それを聞いた影縫くんは少し驚いたような、なんとも言えない表情をした。
「あー••••うん。そうだけど。••••なんで知ってるの?」
「影縫くんの昔の動画を有志の人が保存してたの!」
「え!そんな人居たんだ••••!あの時の動画は全部消したけど、残してくれるような人が居たんだ••••」
しみじみとした声音ではにかむ影縫くん。どうやら、闇堕ち前に投稿していた曲は自分で全部作ってたらしい。なんだこの人。最早人外の域だぞ。•••••美納葉とは違う方面だけど。
「で、まぁ。その過程で影縫くんが曲作れる人ってことを知って、教えてもらいにきたんだ!」
がばっ、と美納葉が影縫くんに詰め寄る。
確かに、そんな影縫くんに手伝ってもらえたらやり易くはなるだろう。
少しの間の後、影縫くんが静かに言った。
「協力は••••••ごめんだけど、できないかな?」
「えーなんで!?」
「いや〜••••俺としても、協力したいことは山々なんだけどさ?ちょっと今用事が立て込んでてね••••」
影縫くんは心底申し訳なさそうに頭を下げた。
用事って一体なんなのだろうか。彼が最近になって始めたことってなにかあったっけ?
「用事?」
美納葉が問い掛ける。
「うん。君たちと同じで、VOMKだよ」
「あー成程。影縫くんも参加するのか」
腑に落ちた。そして何もVOMKに参加するのが俺達だけでは無いということを忘れていた。
「うん。オリジナル曲を作っててね?••••えーと、ほら!千隼くん達がグアム行くちょっと前に会ったでしょ?」
「あー!あの時のレコーディング!?」
あの時から影縫くんは準備を進めてたのか。••••凄いな••••••••いや、これに関しては俺達が遅いだけか。
「そうそう!とりあえずあの時は歌ってみただけだったけどね?あの後どうせなら曲作っちゃおうかなってなってね?」
あー••••そりゃ、手伝えないわな。自分の活動で手一杯だもん。
というか、自分のことで手一杯な人にものを頼むって罪悪感が凄いな。
俺は影縫くんに頭を下げた。
「ごめんな。図々しいこと頼んじゃって」
「全然!こっちこそごめんね?手伝ってあげられなくて••••。俺が直接手伝えることは出来ないけど、曲の作り方を纏めたサイトとか、本とかを教えることくらいなら出来るから、もし困ったら言って?」
そう言って影縫くんは自分の本棚から何冊か取り出して俺達に手渡した。
「サイトについては後でURL送っておくね?」
なんなの?聖人なの?
よくこんな人が闇堕ちするまで叩けたもんだ。大引退ってのは恐ろしい。というか人って恐ろしい。
◆◇◆◇◆
影縫くんが「手伝えない」と言われてから美納葉は終始静かなままだった。
珍しく聞き分けがいい。••••流石の美納葉でも今回に関しては身を引くべきだと思ったのだろう。
そのまま時間が流れ、俺達はそろそろお暇することになった。
因みに裸足の俺だが、影縫くんがサンダルを貸してくれた。やっぱり聖人だ。
「じゃあね!今回は無理だったけど、また何か手伝えることがあったら聞いてね!」
「ありがとうね。••••でもそんなに人を助けてると、その内疲れちゃいますよ?••••影縫くん人が良すぎるからさ」
「大丈夫!今は仲間がいるからね!そう簡単に折れたりしないよ!」
「だったらいいんだけど••••」
「その顔は信じてないね!?」
「まぁ••••ねぇ••••?」
この人に関しては前科あるし••••。
「あーもう!心外だなぁ!••••まぁそれはそうと、気を付けて帰ってね?事故でもされちゃ寝覚めが悪いよ?」
「事故なら毎日してますよ。美納葉のせいでね」
「千隼酷くない!?」
「事実だろうが」
ひとしきり玄関先で話した後、俺達は影縫くんのアパートを後にした。
アパートの階段を降りるや否や、美納葉は物凄い勢いでどこかへ消えていった。
さて、俺も帰ろう。
踵を返した。
••••ところまでは良かった。
「結局ここは何処なんだよぉぉぉぉぉっ!?!?」
冷静に考えたら影縫くんのアパートまで引きずって連れてこられたんだった。
え、マジか?やばくない?これ。
スマホはそもそも家だし。場所も確認出来ない。
••••俺、帰れるのかなぁ?
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