卒業式
3月2日、卒業式。
昨日の夜の騒動のせいで、あたしは寝不足だ。
冷水で顔を引き締め、キレイにアイロンのかかった制服を着た。
分厚い毛布みたいなブレザーに、丸襟のブラウス。
細いエンジ色のリボンを、いつもより丁寧に結んだ。
だっさい制服。
なのに、最後だと思うと少しだけもったいない。
鏡に全身を映してみた。
「あれぇ……」
気のせい?制服が、なんだか似合わない。
なんちゃって女子高生みたい。
あたしは知らないうちに、大人に近づいている。
昨日。
あの後、中野君はあたしを家まで送ってくれた。
『ずっと僕の事を想ってくれますか』
別れ際に、もう一度中野君はあたしに尋ねた。
『うん。ずっと傍にいるよ』
あたしは笑顔で答えた。
それを聞いて、中野君も笑顔を見せてくれた。
どこか、寂しげな笑顔だった。
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静かな体育館に、ソプラノの声が響く。
卒業式の歌。
今では、流行の歌を歌う学校が多い。
でも、あたし達の学校は『仰げば尊し』を歌う。
ただ……恐ろしく難しい……。
女子校の合唱は、キーが高い。
歌の下手なあたしは、卒業式なのに校歌も誤魔化しながら歌っている。
女子校の校歌。
入学した時は、その歌詞に驚いた。
清く、正しく、美しくとか……とにかく清らかな言葉が並んでいた。
校歌にありがちな学校名もなく、まるで合唱コンクールの歌みたいだった。
でも、それも来年からは歌われない。
男子には、絶対に歌えないキーだから。
あんなに文句ばかりつけていた女子校も、今思えば楽しい事ばかりだった。
ゆるい体育の授業。
やたらと本格的な調理実習。
いつも友達と笑ったり、お菓子を食べて過ごしていた。
平和な……毎日。
それも、今日で終わり。
あたし達は別々に、離れ離れになる。
式が終わり、体育館を出て行く。
この学校を出たら、もう高校生じゃいられない。
花束も、拍手も、卒業証書も。
たくさんの物を受け取り、学校を出て行く。
……あたしは今日、卒業した。最後の女子校生として。




