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卒業式

3月2日、卒業式。


昨日の夜の騒動のせいで、あたしは寝不足だ。

冷水で顔を引き締め、キレイにアイロンのかかった制服を着た。

分厚い毛布みたいなブレザーに、丸襟のブラウス。

細いエンジ色のリボンを、いつもより丁寧に結んだ。


だっさい制服。


なのに、最後だと思うと少しだけもったいない。


鏡に全身を映してみた。


「あれぇ……」


気のせい?制服が、なんだか似合わない。

なんちゃって女子高生みたい。

あたしは知らないうちに、大人に近づいている。


昨日。

あの後、中野君はあたしを家まで送ってくれた。


『ずっと僕の事を想ってくれますか』


別れ際に、もう一度中野君はあたしに尋ねた。


『うん。ずっと傍にいるよ』


あたしは笑顔で答えた。

それを聞いて、中野君も笑顔を見せてくれた。

どこか、寂しげな笑顔だった。


************************


静かな体育館に、ソプラノの声が響く。


卒業式の歌。


今では、流行の歌を歌う学校が多い。

でも、あたし達の学校は『仰げば尊し』を歌う。

ただ……恐ろしく難しい……。

女子校の合唱は、キーが高い。

歌の下手なあたしは、卒業式なのに校歌も誤魔化しながら歌っている。


女子校の校歌。


入学した時は、その歌詞に驚いた。

清く、正しく、美しくとか……とにかく清らかな言葉が並んでいた。

校歌にありがちな学校名もなく、まるで合唱コンクールの歌みたいだった。


でも、それも来年からは歌われない。


男子には、絶対に歌えないキーだから。


あんなに文句ばかりつけていた女子校も、今思えば楽しい事ばかりだった。


ゆるい体育の授業。

やたらと本格的な調理実習。

いつも友達と笑ったり、お菓子を食べて過ごしていた。

平和な……毎日。


それも、今日で終わり。

あたし達は別々に、離れ離れになる。


式が終わり、体育館を出て行く。


この学校を出たら、もう高校生じゃいられない。


花束も、拍手も、卒業証書も。


たくさんの物を受け取り、学校を出て行く。


……あたしは今日、卒業した。最後の女子校生として。



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