NOリーゼント、NO……
「おっはよ~」
いつもどおり、明るい声であいさつ。
昨日のメンバーと会議の続きをしようと、あたしは今日も学校にやってきた。
柴田がついてきたのは計算外だったけど……。
教室を見渡すと、昨日と同じメンバー。
イッキに山崎君に……リーゼントは?
「えぇ!!」
「えぇ!!」
思わず、あたしと柴田は同時に叫んでいた。
「誰だ?」
「えっ。山崎君、お友達?」
イッキも山崎君も、微妙な顔をしたまま座っている。
「柴田、知らない?男子部でしょ?」
「ま、待て。ゆい……。あいつ……。」
あたしと柴田はお互い目を大きく見開いて、一点を見つめている。
「あの。俺……後藤っス。」
後藤?
あたしと柴田は、お互い顔を見合わせた。
でもまだ納得いかなくて、もう一度後藤と名乗る人物を見た。
「嘘でしょー!」
「本当に後藤かぁ?」
よく伸びた背筋に正座。目は一重。赤面気味の顔は細長く、パーツで見れば後藤君だ。
でも……。
アレがナイ。
「ご、後藤君。か、髪の毛……。いや、ヘアスタイル。かなり変えちゃった??」
リーゼントをやめた後藤君に、リーゼントと言うのはなんだか気が引けて……。
あたしはしどろもどろだ。
だって、リーゼントの髪がリーゼントじゃないんだもん。
普通に長さに切って、前髪も下ろしている。
剃り込みとかも……見えない。
「はい。髪を切って、すっきりしたかったんっス」
「そんな、失恋した女じゃあるまいし……」
「コラ!」
柴田のやつ……なんて失礼な事を。ん?
なんか、教室の空気重くない?
イッキが、すっごく微妙な顔をして後藤君の方を指差している。
「あっ。」
後藤君が、ガックリと首を折ってうつむいている。
山崎君も、なんだか元気がない。
「どうしたの?」
「聞いてくださいよぉ~。いいんちょう~!!」
山崎君がものすごい勢いで話しはじめた。
「昨日は、委員長に言われて呪うのをやめたって言うのに……。あの佐伯のやつ……またペコさんとデートしてて……。ペコさんもペコさんですよ!佐伯とデートだからって、すっごくかわいい格好していて……。ペコさん、カワイイんですよ!佐伯に向かってもぉんのすごくカワイイ顔して話しちゃって!それ見て、僕たちは……。どう見たってお似合いなんですよ!僕たちなんて顔も心も整形しないと、絶対かなわないって!」
話し終えた山崎君は、肩で息をしながらガックリと首を折った。
「そ、そっかぁ。でも、リョウと比べてもしょうがないよ。あたしだって、ペコには敵わないって思うし……」
「……まぁそうですけど。委員長は彼氏がいるから……」
「いやぁ……そんな事も……」
違うけど、後ろに柴田がいるから……言えない。
「いねーよ。俺、ゆいにふられてるから。」
「なんですと?」
急に山崎君が顔を上げた。
みんなも、柴田の方を向いていた。
「ゆいはまだつきあうほど、余裕が無いんだって。今はこのクラスで、みんなと遊びたいんだって。そうだろ、ゆい?」
「え……っと。うん。そうなの。みんなと、遊んでいたいなぁって」
なんか、ちょっと違う気もするけど。
愛想笑いでごまかそう。
「だから、後藤も山崎も元気だせ!それに、後藤はリーゼントやめてよかったんじゃないか?」
柴田の一言に、あたしは凍りついた。
リーゼントに、リーゼントやめてよかったなんて……普通、言えないじゃん。
良いと思ってるから、リーゼントなんでしょ?
「そうっスか。……実は、俺たち。山崎君と一緒に未練を捨てようって……これ髪の毛っス」
「僕も。これを一緒に焼却炉で燃やそうと……」
後藤君は白い紙袋を取り出した。きっと、中身は元リーゼントだった髪の毛。
今となっては、ただの髪の毛にしか見えないけど。
山崎君が取り出したのは、ネコミミ。ペコによく似合っていたネコミミ。
「みんなも一緒に行ってくれませんか?」
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儀式とは神聖なものである。
神聖なものはみんなでやろう。
なんちゃって。
そんな理由で、次の日みんなで焼却炉に集まった。
後藤&山崎君の強い要望で、ペコとリョウは呼ばなかった。
ウララは後藤君を見て、やっぱり目を大きく広げて驚いた。
でも、そこからは大人で新しい髪形を誉めていた。
誰に見せるのか、ちゃっかり携帯で記念撮影までやっていた。
マナは正直な人間で、どっきりにでもあったかのように驚いた。
大きな声で叫ぶわ、頭をさわってまわるわ……。
さすがの後藤君も困った顔をしていた。
「では、これより儀式をはじめます。」
あたしは芝居がかった声で、進行をつとめた。
儀式を始める前に、みんなで約束したんだ。
『笑ったら、負け』
大真面目にやって、笑った人が負け。
負けた人は、帰りにジュースをおごる約束だ。
「一同、礼」
校舎の隅。人気のない、焼却炉の前。
あたし達は、横一列に並んでいる。
「後藤君。前へ」
呼ばれた後藤君は、あの白い元リーゼント入りの袋を持って立っている。
焼却炉に一礼すると、紙袋を焼却炉の中に捨てた。
ここで、火が燃えていたら良かったんだけど。
作業員のいない時間だから、火なんてつけたら大変な事になる。
「山崎君。前へ」
山崎君が、神妙な顔をして焼却炉へ進む。
みんな静かに見守っていて……可笑し過ぎる。
焼却炉のふたに手をかける……。
「ごぉらぁ!何やってんだー!!」
どこからか、野太い声が聞こえる。
「う、うわぁ。」
驚いた山崎君が、ネコミミを持ったままこけた。
「ああ!!」
マナが指を指して叫んだ。
「ペコぉ!!」
焼却炉を向いて立っていたあたし達の後ろから、なんとペコがあらわれた。
「ど、どうしてですかぁ」
見られたくなかったのか山崎君は、座ったまま頭を抱えて隠れている。
「こんな楽しい行事をペコ抜きにするなんて!ゆるせない!」
「だ、だって。ペコさんは……」
ペコは山崎君からネコミミを奪って、頭につけた。
悔しいけれど、やっぱり似合う。
「ペコは、歯医者さんと結婚するの。リョウくんとつきあってる暇はないわ。」
い、言い切ったー!
ていうことは、つきあってないって事?
「ごめんなさい。余計な事だと思ったけど……」
イッキが後藤君と山崎君に謝っている。
「私がペコに教えたの。やっぱり仲間はずれにするのは、よくないわ。」
「ねぇ。じゃあ、リョウは?」
あいつだけ、こなかったの?
「バーカ。俺もきてるって!お前、ノリノリでやってたな。田舎に来て、神主にでもなれ。」
さっきペコがきた方角から、リョウがやってきた。
なんだ、全員いたんじゃん。
「なによ!最初からいるんなら、参加しなさいよ!」
「ははっ。お前、超おもしろかったぞ!俺、ずっと笑ってたんだから。」
「リョウ君!笑ってたの?」
ウララが急に話しに入ってきた。
「笑ってたけど?」
「やったー!今日はリョウ君のおごりよ!」
喜ぶみんなに、ぽかんとしたままのリョウ。
あたしは、リョウの傍に行き『笑ったら、負け』の話をした。
「な、なんだよ!俺、聞いてないぞー!」
結局、この日の帰り。
いつものファストフード店でジュースをおごらされたのは……リョウ。
「次は絶対負けないからな!」
なんて、店で宣言していた。




