疑惑の新学期4
「どうしたの?木村さん。」
イッキが驚くのも無理はない。あたしは、思ったことをそのまま口に出して叫んでいた。
「考えなきゃいけないことって、何?」
「うん……と、ね」
どうしよう。言っていいのか悪いのか。……迷う。
「委員長、悩み事ですか?恋愛なら、僕が……」
山崎君は恋愛相談に自信があるらしい。ゲームやアニメの知識らしいけど……。
「いや、いい。そっち系の悩みじゃないから。」
「そうですか……」
沈黙。
今、教室にいるのは元からおしゃべりではないメンバーばかりだ。偶然にも、地味で真面目なメンバーが集まっている。自由登校なのに、いつもと同じように学校にきてしまうくらい。あたしも込みで、目立たないメンツ。会話が途切れてしまうと、急にみんな静かになる。自分から新しい話題を振る勇気を、あまり持ち合わせてはいないんだ。
テーブルを4人で囲む。
「ねぇ」
一連の今日の出来事を話そうと思った。ひとりで考えても、わからないだろうし。探偵ゴッコ。結城先生は、言うなとは言わなかった。今までは口止めしていたけど、今回は違う。
「このクラス。存在自体が、おかしくない?」
ずっと感じてた疑問。それを裏付けるような、小原先生の言葉。千葉ちゃんと結城先生。
「小原先生は、空き教室の作業って言ったのよ。まるで、片付けでもやってるみたいに。」
3人は、静かに聞き入っている。
「それ、本当?実験的に共学生活を送る為に、私達集められたんじゃないの?」
不安そうに尋ねるけど、ここにその答えを知っている人はいない。
「あの……、俺たち。共学生活って事は、ここに来てから聞いたんですけど。」
「そうです!そういえば男子部の先生は、女子部でお手伝いしてこいって。共学とは一言も言われてません。」
4人で、顔を見合わせる。やっぱり、何かがおかしい……。
「じゃあ。男子部は、お手伝いで生徒を集めたって事?」
「いいえ。集めたと言うか、僕は先生から直接言われました。こういう雑用を頼まれる事はよくあるので……。」
山崎君の発言に、リーゼントも頷いている。
「ちょっと待って下さい。私、紙に書きますから。みんなで推理しましょう。」
イッキは、かばんからペンを取り出した。あたしは、例のノートを取り出して渡した。
「女子部は、共学生活って集められたでしょ?男子はお手伝い。小原先生も、あたし達はお手伝いだと思っている……か。実際お手伝いじゃないって事は……。」
嘘つきは、女子部にいる。イッキはノートにそう書いた。なるほど。
「ちょっと待って。男子部は先生から直接言われたのよね。他の男子メンバーは?雑用引き受けそうに無い人がいるじゃん。」
リョウと中野君。リョウは雑用なんか絶対サボるタイプだし、中野君は頼まれても平気で行かないような気がする。柴田だってギリだ。
「佐伯君はですね……先生に借りがありますから。噂ですけどね。」
「噂?」
「僕が聞いたのは、教師を殴ったとか……。」
「噂で、人の事を悪く言ってはダメっス。そういうは、良くない」
「……すみません。」
リーゼントの一言で、山崎君は申し訳なさそうに下を向いた。
噂がダメなら、推理できないんじゃ……。
「じゃあ、話を戻そうか。」
あたし達は、ノートを囲んで考えていた。誰かの言葉や、それから考えられる可能性を。一つ一つ、地味に検証していく。
きっとマナやウララがいたら、すぐに飽きちゃっただろうなぁ。
地味な作業をやるには、きっと今日のメンバーがベストだろうな。
なんて、考えながら窓の外を見ていた。
外には、冷たい風がふいているのかな。
カタカタと、窓ガラスが揺れていた。
あたし達は、ずっとノートとにらめっこ。
「やっぱり、結城先生が黒幕だよ。」
もう何度も行き着いた答え。でも、そこから進めない。
「でも、動機がないよ。」
イッキはノートに書かれた、結城先生の文字を何度も鉛筆でぐるぐる囲っている。
「動機、かぁ。」
山崎君は、もうずっと前から頭を抱えている。
動機。それは、きっと中野君に関係があるはず。じゃないと、先生が中野君の事をよろしくなんていうわけが無い。
どうしよう。
結局あたしは、保健室で見聞きした事を全部は話さなかった。中野君のところだけ、あえて言わなかった。みんなには、また明日考えようと言って今日は解散した。




