疑惑の新学期3
おかしい……。
絶対おかしい。千葉ちゃんもだけど、特に結城先生の態度はおかし過ぎる。何かを隠している。けど、隠してるのかなぁ?
結城先生なら、あたしなんて簡単に騙しきれるんじゃないのかなぁ?
だとすると、さっきの態度はわざと?本当はあたしに気付かせようとしてるんじゃ……。
保健室を出たあたしは、いつものくせで茶道教室へ向かっていた。今日は、集合をかけていない。教室に行った所で誰もいないんじゃないのかな。
ぐるぐると頭の中はフル回転。何度もつまずきながら、階段を上った。最後の段を上っても、もう一段上ろうとしてよろめく。足はまだ階段があると錯覚していた。上り損ねた、妙な違和感。
千葉ちゃん、結城先生。何故か出て来た、中野君。
上の空のまま、茶道教室に入った。
「あれ?誰か来てる。」
靴箱にスリッパ。女子部のものと、男子部のもの。誰だ?
中野君じゃなければいいな~なんて思いながら、部屋の中へ進む。
テーブルを囲むように、3人が座っていた。あたしも混ざろうと、テーブルに近づく。
「おはよー。って、何?なにやってるの!?」
テーブルの上には、合宿の時の写真。それと……。
「山崎君!一体何をやってるの!」
山崎君の目の前に、謎の紙。イッキとリーゼントが横から覗き込んでいた。
「……言えません。」
「言わなくても雰囲気でバレてます!」
「……やっぱり?」
山崎君を怒っている間、イッキとリーゼントは黙って下を向いていた。
「何で止めないの?二人とも、そういうの止めるタイプでしょ?コラ!山崎!手に持ってるものを置きなさい。……全員。正座!」
テーブルの上には、楽しい合宿の写真。そして……謎の魔方陣。正確には、それっぽいよくわからない文字で書かれた何か。その上に……リョウの写真。
「さぁて。何から話してもらおうか。」
あたしはマナがよくやるように、サスペンスドラマの真似事。まるで取調室か、崖の上かって感じ。
「あのね。木村さん。私、絵が描けるから自由登校の日も学校には来てたの。それで、誰かいるかなって教室を見にきたら……。二人がいたの。」
「で?何で、参加してるの?」
イッキがこんな下らない事に参加するなんて……そこがわからない。
「二人の言い分もわかるかなって。思っちゃって……。」
言い分?リョウが、山崎&後藤ペアに何かしたの?
「い、委員長!実は……佐伯君。ぺ、ペコさんと……怪しいんです!」
山崎君が悔しそうに話す。後藤君は、ペコの名前が出たあたりで顔を赤くしてうつむいてしまった。リョウとペコ。やっぱり……。わかってた事だよ……ね。
「あのさぁ。リョウとペコが怪しいって……。そんな事で……。こんな呪いだか、黒魔術だかわかんない事してどうなるの?」
あたしは、怒るのをやめてみんなの前に座った。
「委員長さん。俺……。ペコさんがいいならいいんです。けど……俺。見たんです。佐伯が……女の子と歩いているところ。う、腕とか組んで……。腕組んで歩くなんて……その……。」
真っ赤な顔で、リーゼントが話す。気のせいか今日の髪型、いつものリーゼントがなんだか弱弱しく見える。
「……深い関係だと思います。」
最後に消え入りそうな小さな声で、そう呟いた。
腕組んだくらいで深い関係って……。そう思ったけど、言えなかった。しょぼんとしたリーゼントほど、切ないものはない。なんちゃって。
でも、ショックだったんだろうな。二人ともペコに好意を持っていたし。そのペコが、イケメンのリョウと怪しかったら……。敵わないって、あきらめちゃうよね。きっとそうやって諦めたのに、他にも女がいるってわかったら……。そりゃ、怒るわ。
「だから、僕たち……。」
「とにかく、こんな暗い事しちゃダメ!」
あたしは、謎の紙を破った。勢い良く、半分に。
「ああああああ!」
「い、委員長!」
後藤くんがワケのわからない声を上げて、山崎君はあたしの手から紙を取り上げた。
「木村さん……。呪われちゃうわよ!」
「えっ……」
山崎君は、急いで紙をくっつけようとテーブルの上で格闘中。後藤君は、真っ青な顔。イッキは両手で口元を覆い、驚いたリアクション。
「あ、あたし……なんか、やっちゃった?」
3人の視線があたしに集中。みんなの顔がやばいって言ってる。
「委員長。気をつけて下さいね。この紙を破った人は……。」
コワっ!山崎君の顔が、まるで……犯罪者みたい。
「どうなるか……。」
どうなるの?
「知りませんよ。」
「はい?」
どうなるか知りませんよって、どうなのよ!
「知らないの?」
あたしが聞くと山崎君はあっさりと、
「知りませんよ。だって、こんなの呪いの真似事ですよ。僕がかってに漫画からコピってきたんですから。」
なんだよ!それ。
気が抜けたあたしは、テーブルの上にだらりと頭をのせた。写真。テーブルの上には写真が散らばっている。いつ撮ったんだろう。あたし全然知らなかった。
「ねぇ。これ誰が撮ったの?」
写真を指差していった。
「僕ですよ。」
山崎君かぁ…。一枚、一枚、写真を見る。あれ?これ?
「ねぇ。なんでみんなカメラ目線じゃないの?」
「それは全部、僕が勝手に撮ったものですから。」
山崎くんは眼鏡の位置を直しながら、あっさり言い切った。
「それって盗撮みたい。」
「違いますよ!僕は、シャッターを切る時の掛け声がわからないだけです。いまの時代の掛け声がわからなくて……。」
そんなの、何でもいいじゃん。何でも……。何でもって言われると、逆にわかんなっちゃったのかなぁ?
あたしは、しばらく写真を見ながら過ごした。盗撮なんて言っちゃったけど、山崎君の写真は良い写真だった。笑ったり、驚いたり。みんながイキイキ。
最終日まで居たかったなぁ。
リョウとペコ。怪しいふたり。
やっぱ、いなくて良かったかも。写真の中で、二人は一緒に餅つきをしていた。一つの杵を二人で持って。初めての共同作業。なんて、どっかの結婚式のケーキカットじゃあるまいし。
「ところで木村さん。今日は何か用があったの?集合かけないでくるなんて……。」
イッキの言葉にあたしは飛び起きた。
「そうよ!こんな所でくすぶってられないって!あたし、他に考えなきゃいけないことがあったじゃない!」
そうよ、そうよ、そうよ!
呪いどころじゃないって。あたしには、もう色々憑いてるんだから。




