星降る夜に4
外は相変わらず、キレイな星空。
だったと思う。
冷たくとがったお月様。
鋭利な半円。
帰り道は、柴田と一緒。夜道を二人きり。
頭の中がぼんやりしている。ぼんやりと。
気が付けば、柴田に手を引かれていた。昔とは違う手触り、大きな手。
あたしの頭は、柴田の肩までしか届かない。
昔は、同じ目線で話していたのに。
いつの間にか、開いた距離。
もしかして。
柴田があたしを心配するのは、この距離のせいかもしれない。
あたしから見る柴田は、どんどん大きくなっていくのに。
柴田から見たあたしは止まったまま、ちっとも大きくならない。
見上げる人と、見下ろす人。
切なくなるのは、どっち?
「リョウの言った事は、気にするな。悪気があったわけじゃない。知らなかっただけ、だから」
「うん…。」
あぁ。そうだった。
そんな些細な事で、あたしはリョウとケンカしたんだった。
「柴田、大きくなったよね。あたしなんて、小学校6年生からずっとこの大きさだよ。」
150センチ、ジャスト。
毎日のカルシウム、信じて飲んでた牛乳。全く、効果が無かった。
「ごめんな…。俺、ガキだったんだ。小学校卒業する頃から、俺…お前の事避けてただろ?」
「そうだっけ?」
「俺…あの頃、身長伸びなくてさぁ。ゆいも小さいだろ?一緒にいる時、バカにされたんだよ。いつも小さい女子と一緒にいるから、湊も小さいって。今考えると、ホントくっだらないよなぁ?」
笑うと目が細くなる。
小さい頃から変わらない、笑顔。
そういえば、柴田は細くて小柄な男の子だった。今の姿からは、想像もできないけど。
「なにそれ?超、ガキじゃん。」
「だろ?俺もかわいかったって事だよ。」
「それは、良く言い過ぎー!」
くだらない話と笑い声。
少しだけ、昔に戻ったような…懐かしさ。
自然と繋がれていた手は、その頃の名残なのかもしれない。
嫌な感じもしないし、動揺もしない。平常心のまま、繋いでいられた。
「リョウとペコちゃん、今頃どうしてるだろうね?」
「う~ん。一緒に格闘技観てるんじゃない?ていうか、それ以外ないじゃん。」
静かに立ち止まった。
柴田はこっちを見下ろしている。
「それ以上かも?リョウはペコちゃん気に入ってるし。あいつは…女に慣れているから。」
そ、それ以上って!
そんなやつの所に置き去りにしちゃったのー!?
「ちょっと!柴田!戻るよ。そんな危ない所に、ペコを置いておけないわよ!」
あたしは向きをかえ、来た道を戻ろうとした。
「冗談だって!リョウは女に困ってないから、無理やり何かするわけないだろ?ゆいはリョウの事、そんなに信用してないのかよ。」
「うっ…。」
信用…してないかも。リョウに限らず、男子全員。
「信用してるかどうかは、微妙。だって、男だもん。」
中野君だって急にキスしてきたもん…頬だけど…。
「だったら。俺も男だけど?」
「!?」
思わず、繋いでいた手を振りほどいた。
顔が…熱い。
赤くなったであろう顔を見られないように、両手で頬を覆った。
「どうしたの?」
悪い顔だ。
柴田は、少しだけ目を細めてこっちを見ている。
悪い…男の顔だ。
昔の柴田じゃできない…悪い男の顔。
「どうもしてません!」
両手を頬に当てたまま、歩き出す。
「ゆーいちゃーん。もう手は繋がないの?」
「…繋ぎません。最初から繋いでません。」
一歩一歩、力を込めて歩く。
あぁ。もう。何でこんなに恥ずかしいのよ!相手はただの柴田よ。ただの幼なじみ。
「良いこと、教えてやろうか?」
「何?」
「何で、俺がゆいと同じ高校にいるんだと思う?」
「えっ?」
「不思議だろ?知りたくないか?」
そういば、考えた事なかった。
あたし達の高校は、本来あたし達が受ける高校の学区ではない。
距離にすると、そう遠くはないが学区外だ。
私立だからそんな特別な事ではないが、おかしい。
学区外を受けるのは自由だか、わざわざ受けるほどの高校でもない。
普通のレベルの普通高校。
あたしは、知り合いのいない高校に行きたくてここにきた。
柴田は…?
「あそこに座って話さないか?大晦日は特別だろ?今年最後の夜空を見よう。」
その言葉が決め手だった。
あたし達は道を外れ、少し小高い丘のような場所に向かった。
平坦な土地の、少しだけ高い場所。
展望台じゃないのが、残念だけどまぁいいや。
ここには、高い建物はないんだから。
見上げた空には、幾多の星。
正座をもっと勉強しておけば良かった。
ここはプラネタリウムより、きっとよく見える。
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