星降る夜に3
「なに?これ?」
和風の門構え。大きな平屋。庭には、よくわからない大きな石と松の木。
「ペコ…。本当にここなの?」
「多分。だって表札も佐伯だったよ。」
あまりにも大きな家。大きすぎて逆に怖い。威圧感。
「ドラマのヤクザの家みたい。ねぇ。委員長。リョウ君の家って堅気なの?」
「そんなの…知らないけど。まさかヤクザはないでしょ?」
「そ、そうだよね…。だって、若い衆が見当たらないし…。」
門から中を覗く…。
敷地の中にもう一つ…謎の小屋。窓だろうか?灯りがもれている…。
「ぺ、ペコ。あの小屋なにかなぁ?まさか…。」
「若い衆の部屋とか?」
「いや、だからまだヤクザって決まってないじゃん。」
口ではそう言いながら、頭の中は妄想だらけ。
ヤクザなリョウ。
ヤクザの…。まさか、若。若頭ー!!
「おい!」
「きゃーーーー!!」
「ごめんなさーーーい!!」
あたし達…。不審だけど、不審者じゃないの!
「ゆい?」
怖くてつぶってしまった目を開く…。
「し、しばたぁ!」
「なーんだ。柴田君じゃん。」
*************
柴田に連れられ、リョウの家にはいった。
ご両親に挨拶しなきゃって思っていたのに、あたし達が連れて行かれたのは謎の小屋。
どうやらリョウは、このプレハブみたいな小屋を部屋として使っているらしい。
「思春期の男子は、難しいのねぇ」なんて、ペコと話しながら部屋に入る。
「あれ?」
リョウがいない。
部屋の中は、テレビがついたまま。食べかけのお菓子や飲み物が、テーブルに散乱していた。
キレイとまでは言えないけど、そこそこ片付いた部屋だった。
「リョウ君どうしたの?」
「コンビニ。こっちに来るって言うから、飲み物買いに行ったよ。」
「ふ~ん。」
柴田はベッドに腰掛けた。
ペコはテレビの傍に座って、格闘技にチャンネルを合わせている。
あたしは…迷ったけど、テーブルの傍に座った。
ベッドに腰掛けるのは抵抗あったし…ね。
「高橋…」
「ペコ!」
「じゃあ、ペコちゃん。えっ。でも、ペコちゃんだと…ペコちゃんと一緒だよ。」
確かに…。いつもはペコって呼んでるから、気にしてなかったけど。
柴田は、どうも恥ずかしいらしい。
「ペコちゃんだよ?ママの味だよ?いいの?そんなあだな。」
ていうか、柴田。気にし過ぎ。
「だったら、ペコって呼び捨てにしていいよ。柴田君、いちいち面倒。」
どうやら、格闘技が始まったらしい。
ペコはテレビの画面に釘付けだ。
「ダメだよ、柴田。ペコは、格闘技見たさにここまで来たんだよ。邪魔したら…。」
シメられるよ…。
なんて、実際に口に出して言ったらあたしがシメられそうだけど。
「ペコちゃん格闘技に興味あるんだ。リョウと一緒じゃん。けど、ゆいは毎年歌合戦みてたんじゃなかった?」
「毎年じゃないよ。家の親が見てるから、見てただけ。」
「ふーん。でもさぁ、ペコちゃんってカワイイのに格闘技って意外だよね。リョウのやつ驚いてたよ!あんなにカワイイ子が、格闘好きなんてって。ほら、リョウも格闘技好きじゃん。」
ペコは、テレビに釘付け。
会話に参加するどころか、シャドウボクシング。
「柴田は格闘技見ないの?」
「俺?実は、そんなに興味ねーの。ぶっちゃけ、歌合戦でもいいかも?ゆいは?格闘技で退屈しないのか?」
「あたしは…。」
どっちでも。どっちも退屈っていえば、退屈なんだよね。
「よおっしゃーー!!」
ガッツポーズ、ペコは完全に格闘技の世界に入り込んでいる。
きっと、元ヤンの血が騒いでいるはず…。
「公民館に帰るか?」
「え、何で?ペコを置いて?それはさすがにダメでしょ。リョウだって、せっかくコンビニまで行ってくれてるのに。」
なんで、帰るなんて…。
まだ、来たばかりなのに。
「リョウは怒らないよ。だって、リョウはペコちゃん派だから。」
えっ?何??
「せっかくだから、2人で話してみたいんじゃないかなぁ?」
そういう事…。
なんだ…そうなんだ…。
そうだよね。ペコはとってもカワイイもん。
リョウの横にいてもおかしくない。あたしだったら釣り合い取れなくて…おかしいよね。
そうよ!あたし、ちょっと前に柴田に告られたからって…。な~に調子のってるんだか。
リョウはすご~くモテる人で…。最初から世界が違うんじゃん。
忘れてたよ、あたし。ダメだなぁ…。
「そうなの?あたし、全然わかんなかった。やっぱ、鈍感だね!」
自然と、笑顔になった。
自分でもびっくりするくらい、明るい声。
女子校の教室で話す時みたいに、ちょっと大げさなリアクション。
「えっと…。じゃあ、どうする?あたし達、このまま公民館に帰った方がいいかな?やっぱ、歌合戦みたいし~って。」
「そんな感じでいいんじゃない?あっ。でも、ゆい。リョウに会っていかなくていい?いいか?どうせ、後で寺に行くんだし。」
「うん。別に会わなくていいよ…。」
だって…。リョウはペコ派なんでしょ?ペコと話したいのに、あたしいたら邪魔じゃん。あたし、間違って話しかけちゃったら悪いし。
「ペコ!あたし、ちょっと公民館に戻るね。歌合戦も気になるし…。ちょっと忘れ物しちゃったから。」
嘘だ。
「…ペコも行こうか?」
ペコはそう言いながらも、目線はテレビだ。
「ううん。いいよ。テレビ観てて。その代わり、柴田連れて行くね。ひとりだと怖いし。」
一瞬ペコがこっちを見た。
「柴田君?」
「うん。ペコはひとりになっちゃうけど、いい?」
「…いいよ。柴田君なんだ。」
そう言って、またテレビを観た。
「柴田君なんだ。」ペコはそう言った。あたしはなぜ、そんなに念を押すのかわからなかった。




