表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/77

優しい散歩道2

もうすぐ公民館に着く、そんな時。


「おい。ちょっと待て、あれ!」


急にイケメンが立ち止まった。


「なぁに?」

「ちょっと、隠れろ。あいつ何か様子、変じゃね?」


隠れろって言われても…。田舎は障害物が少ない。とりあえず、木の陰に隠れてしゃがむ。


「何?あれ、後藤君じゃん。えーでも何してるんだろう?」


荷物を持ったまま、行ったり来たり。時々、上を見上げたりうつむいたり。


「全然、わっかんねー。」


木陰で隠れたまま、2人で顔を見合わせる…。

顔の距離が…近い。


「…甘いな。」

「えっ?」


急にイケメンは黙り込んだ。


「あー。これか。」


そう言うと、いきなり表情がほぐれた。


「甘い匂いがするな~って思ってたけど、お前じゃなくてホットケーキかよ!いや、お菓子みたいな匂いのする女って今までいなかったからさ~。なんだろ~って。」

「ちょっと!何でもあたしのせいにしないでよ。それに、今までって…。」


どれだけ、女がいたのよ…。


「シーッ!気付かれるって。」


口元に指を当てたまま、また顔が近づく。


「わかった!わかったって!」


わかったから、これ以上近づかないで。そっちはいいかもしれないけど、こっちは至近距離で顔を見られたくないの!…また他の女と比べられそうだもん。


「ねぇ。リョウ。」

「うん?」

「何であたし達、隠れなきゃいけないの?」

「…。」

「直接聞こうよ。じゃないと、こっちが不審者だよ。」

「…だよな。」


ゆっくり木陰から出る。隠れていた事がバレないように2人で、今来ました!って感じを装う。


「あ、あれぇ?後藤君。終わったのぉ?」

「お、おう。」


う~ん。不自然だったかなぁ?

あたしとリョウは、ぎこちない芝居をしながら後藤君に近づく。


「うわぁ!い、い委員長。」


驚いて、荷物を手から落とした。なんだか…怪しい。わかりやすいくらい動揺している。

リョウは荷物を拾い、後藤君に手渡した。


「…帰るのか?」


後藤君は軽く頭を下げ、荷物を受け取った。


「いや…そのぉ…。」


はっきりしない。


「どうしたの?用事ができたとか?強制じゃないんだから…はっきり言っていいよ。」


後藤君は、うつむいたままだ。


「あ、あのさぁ。リョウがいると話しづらいとか?」

「い、いや。そんな事ないっす。」

「じゃあ…。」


公民館の近くで、うろうろしていた後藤君。荷物を持ったまま…。もしかして、帰るかどうか迷ってる??


「ねぇ。後藤君。これ、ホットケーキ。さっきもらったんだけど、どこかで一緒に食べない?ここにいても…みんな帰ってきちゃうよ?」


提案と脅迫。


「えっ…。どこに行くんですか?」

「リョウ。どこかない?」


リョウはくるりと自転車の向きを変え、


「こっち。」


と言って歩き出した。

あたしはお皿を抱えたまま、後藤君は荷物を持ったまま後に続いた。


リョウは自転車を押しながら、右手で忙しそうに携帯をいじっている。

全く…。モテる男は忙しいんだから。


「おい。荷物、チャリにのせてやるから。そいつのお皿、代わりに持ってくれないか?」

「あ、うん。」


後藤君は荷物をリョウに渡し、あたしの山盛りホットケーキのお皿を持ってくれた。


「ちょっと、段差があるから。木村。気をつけろよ!お前コケるなよ。」

「はいはい。大丈夫だよ。」


リョウが連れて行ってくれた場所は、小さな土手だった。そのすぐ下には、水のキレイな寒そうな川が流れていた。


「俺、飲み物買ってくるから。木村。話聞いとけよ。みんなにはメールしといたから、散歩してくるって。」

「わ、わかった。」


あたしが、後藤君の話を聞けって事だよね。


「じゃあな。委員長。」


自転車が遠ざかる。自転車に乗っているリョウは、なんだか学校にいる時と雰囲気が違う。さわやかっていうか…すごく生き生きしていて…。好青年?みたいな。


「なんか…寒いのに…俺。迷惑っすよね。」


はっきりしない、後藤君。一体何をそんなに…。


「はい!おばあちゃんのホットケーキ。もう冷めちゃったけど。優しい味がするよ。」


1枚取り出して半分にちぎる。半分を後藤君にくわえさせて、もう半分をあたしが一口食べた。


「おいし。」


後藤君は口にくわえたまま、あっけにとられている。


「ああ!ゴメン。ちょっと下品だったかなぁ。手づかみで食べるなんて…。しかも…手洗ってないや…。」

「!」


一瞬、後藤君は驚いた顔をした。でもそのままホットケーキを食べた。半分のホットケーキはすぐになくなっていった。


「だ、大丈夫?」

「平気っス。おいしいです。委員長…優しいっス!」

「なんだぁ~それ。変なの。」


思わず笑ってしまった。後藤君は少し恥ずかしそうだった。


「ねぇ。迷ってるの?」


あたしは話を切り出した。


「…そうっすね。」

「何かあったの?」


うつむいた、後藤君。


「あのね。迷っているんだったら、話聞くよ。それに…。」


後藤君は知っているのだろうか?


「ここ、電車少ないから。はやく決めないと、電車なくなっちゃうなんて事も…。」

「ええっ!!」


後藤君は驚いたのか、大きな声。


「俺…。帰っても大丈夫ですか??」


あ、帰りたいんだ。あたし達に気を使って言い出せなかったんだ。


「大丈夫だよ。誰も無理に引き止めないよ。」

「俺の…。家から電話があって…。具合が悪いって。」

「家族が具合悪いの??大変じゃん。すぐ帰んなきゃ!」


どうしよう。リョウに言わなきゃ。

あたしは早くリョウに伝えたくて、辺りを探す。


「どこまで行ってんのよ。リョーウー!!」


「呼んだか。」


土手の裏にいた。


「そこに、いたの??まさか…。」


そこに隠れて聞いていたんじゃ…。


「まあ、いいや。後藤君、家族が具合悪いから早く帰してあげて?自転車、のせてあげて?」

「マジで?ていうか、男2人乗りは…。おい!後藤!」

「は、はい。」

「チャリ。貸してやるから早く行け。後で取りに行くから、駅に置いとけ。ここには盗むやつなんかいねーから。」

「ありがとう!」


後藤君はすぐに、自転車に荷物をのせた。


「ロッキーの具合がわかったら、連絡するから!」


「ロッキー??」


リョウと顔を合わせる。まさか…。


「俺の弟っス。でも、もう12歳のおじいちゃんで…。」


12歳のおじいちゃん…。


「犬?」

「はい!」

「…そうなんだぁ。」

「じゃあ。おふたりとも、ありがとうございました!」


自転車にのっても、良い姿勢の後藤君。

人騒がせな…って言いたいところだけど。大事な犬だったらそうだよね、家族同然だよね。

愛犬の為に自転車を走らせている、後藤君。

リーゼントなのに、ちょっとかわいい。優しい人。


「犬だったのかぁー。後藤も人騒がせだよな。それなら早く言えっての!すっげー悩んでますオーラなんか出しやがって…。」

「…ねぇ、飲み物。本当は買いに行ってないでしょ?」

「…。」


だって、買いに行った形跡が無い。もしかして、さっきみたいに隠れていたんじゃ…。


「何してたの?ここで。ずっとここに隠れていたんじゃないの?」

「…バレた?」

「バレてる。」

「買いに行こうと思ったけど…。ふたりっきりは、マズイかなぁって。後藤は、見かけがゴツイし。もし、万が一何かあったら…なんて。」

「あるわけないじゃん。バーカ。」


そんなのあるわけないのに、何考えてるんだか。


「何か疲れたな。あ、ホットケーキ。食べちゃおうぜ。」


山盛りのホットケーキ。


「そうしよっか。」


こうやって、外で食べるのは久しぶりだ。子供の頃の遠足みたい。

土手で、ふたりっきり。


「どっちがたくさん食べるか競争だからな!」

「ちょっと!少しはハンデちょうだいよ!」


本当に子供みたい。

田舎はいいなぁ。人の目が気にならない。

いつの間にか、ホットケーキを平らげお皿はからっぽだ。


「…しよっか。」


立ち上がりながらリョウが言った。


「なぁに?」


あたしも立ち上がる。


「これからデートしよっか。ゆいちゃん。」


いたずらな顔をしたリョウが、こっちを見ていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ