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ハーレム委員長2

神社の掃除。


昼過ぎに始めた掃除は夕方には、終わってしまった。

この辺りはお年寄りが多く、普段から集まって掃除をしているらしい。


小さくても手入れの行き届いた神社。


地元のおじさんやおばさん。みんな親切で、あたし達を歓迎してくれていた。


「ここは名ばかりの市でね。毎年、人口が減ってるのよ。田舎だからね。どうしても、みんな出て行って帰ってこないのよ…。」


元ヤンのおばさんが、雑巾で神社の柱を拭きながら教えてくれた。


「いい所なのよ、本当に。不便ってそんなにいけない事かしらね…。ほら、そこ。もっとこうやって拭かないと。」


おばさんは器用だ。手も口も同時に動く。


「そんなに不便なんですか?」


家事が得意なマナは、おばさんと同じように手を動かしながら話をしている。

あたしとイッキは、そうもいかない。

ちゃんとやらないと、すぐおばさんに言われてしまう。


「車がないとね…。バスも電車も少ないからね。リョウちゃんだって、夕方には帰るでしょ?どうやってデートしてるんだろうね?で、りょうちゃんの彼女ってこの中にいないの?」


おばさんは、あたし達を指差しながら尋ねる。


「い、いません!」

「なんだ~。いないの。りょうちゃん良い子よ?ちっちゃい頃から、抜群にかわいかったのよ。大きくなると、急に生意気になっちゃって…。タバコ吸ってた時なんて、本気でシメてやったのよ。」


「ははっ…。」


笑えない。だっておばさん元ヤンだし…。


**********


「ここもキレイになったし、夕飯まで自由でいいわよ。」


神社の拭き掃除を終え、公民館に戻ると男子が帰ってきていた。

昼食後、男子は力仕事に借り出され別行動だった。


「あ、コラ!山崎君。ちょっと!」

「ゆい。どうしたの?」

「ん?ちょっと山崎君に用が…。」


あたしはそう言うと、山崎君を外に連れ出した。


「何ですか?委員長。外、寒いですよ。」


嫌がる山崎君をひっぱり、公民館外のベンチに座らせる。


「ハーレムゴール。」

「はい?」

「ハーレムゴールってどういう事?」


山崎君は腕を組んだ。顔を少しかしげ、考えている。


「知らないんですか?」

「…普通、知らないでしょ?ハーレムなんて言葉、使わないし。」

「ハーレムっていうのは…。」

「ちがーう!意味じゃなーい!何で、あたしがハーレムなの?」


怒るあたしに、きょとんとした山崎君。


「いや~。委員長。ハーレム状態でしょ~。」

「どこが!」

「…佐伯君、柴田君。それと中野君。」


中野君って…。


「…嘘でしょ?」

「えっ?後藤君は違いますよ。それに僕は、委員長を影ながら応援してますけど…。やっぱタイプが違うというか…。もっとこう、ほんわかした…。」


やばい。山崎君が2次元の世界へ…。


「いや、それ聞いてないから。そうじゃなくってなんで中野君?」


みんなはあたしと中野君の事…知らないでしょ??


「そうでしょう?そうなんですよ。僕だけが、気付いてると思うんです。こう見えても、僕は恋愛経験が豊富ですから…。ゲームの中で、ですけど。」


思いっきり反論したいところだけど…。中野君って普通に見てると、無表情で誰にも興味がないように見えるのに。


「もうね、ほんのちょっとした事なんですよ。ちょっとした態度にね、そういうのってでちゃいますから。」

「だから、具体的には?」

「…さっきもですね。委員長が佐伯君の自転車に乗ったでしょ?あの後、柴田君は不機嫌でしたよ~。絶対後ろから睨まれてますよ!」

「柴田はいいから!」

「あぁ。中野君は…。自転車に乗った委員長を見て、こう…瞳が揺れたんですよ。自転車に乗って、恥らう委員長を見て。まぁ、あの恥らう顔はちょっと萌えましたけど…。」


山崎君は『ちょっと』の部分をジェスチャー込みで表現している。ていうか、それ本当にちょこっとじゃない!


「やーまーざーきーくーんー!!」

「うわぁ!」

「聞かれた事のみ、答えなさい!」

「は、はい。中野君は、普段全く無表情なんです。なのに…。恥らう委員長を見た時は、ほんの少し顔を背けるというか…。そんな感じになったんです。僕、中野君とはクラスが一緒なんですけど、そんな顔見た事ありません。」


あたしに怒られたのが、よっぽど怖かったのか。

山崎君は急にてきぱき答え始めた。


「そっかぁ。まぁいいや。とにかく、もうハーレムなんて言わないでよ!あたしは、そういうの望んでないんだから。」

「はい…。」

「じゃあ。もどろっか。寒いのにつき合わせちゃってごめんね。」


そう言ってベンチから立ち上がる。


「委員長!」


大きな声で呼び止められた。


「なぁに?」

「ぼ、僕にできることがあったら何でも言って下さい!」

「…急に真剣な顔しちゃって、どうしたの?」


山崎君は、気をつけの姿勢で立っている。


「ありがとうございます。ぼ、僕。今、すごく楽しいんです。委員長が…僕なんかでも仲間にいれてくれたから…。こんな2人きりで座って話すなんて…。女の子と仲良く…青春できるなんて…。夢みたいです。」

「…山崎君。」

「男子校に来て、こんなに楽しい思いができるなんて…。」

「わかったって!そんなかしこまらないで。あたしだって同じだよ。あたしなんて、中学の時は友達いなかったんだから…。こちらこそ、仲良くしてね。」

「委員長…。」

「さぁ。もう寒いし、戻ろう。みんなの所に。」

「はい!ぼく、委員長にずっとついていきます。」


なぜか、右手をまっすぐあげたまま山崎君はついてきた。

学校じゃないんだから挙手しなくていいんだけどなぁ…。


「山崎君。ずっとはついてこないで。」

「ええ!」

「あたしトイレ行きたいの。外、寒いんだもん。冷えちゃった。」

「わかりました!いってらっしゃいませ!」


いや、だから大げさだって…。


「委員長!」

「何?」

「恋愛でわからないことがあったら、僕に聞いてください!」

「やだ。」

「なんでぇ?」

「恋愛はゲームと違うのよ。ちゃんと現実に恋愛しなさい。…あ、あたしは山崎君タイプじゃないんでごめんなさ~い。」


手を振りながら、トイレに向かう。


「わっかりましたー!委員長以外で探します!!」


なんか、それもムカつく。

山崎君に仕返ししたつもりが…なんだかこっちがダメージくらっちゃったよ…。


あたし。どこまでいっても山崎君の恋愛対象にはならないのね…。

喜んでいいのか…。

いや、やっぱりムカつく…。

ハーレムゴールって言葉。

実は、どこかで1回聞いただけです。

意味が違ったらごめんなさい。

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