ハーレム委員長2
神社の掃除。
昼過ぎに始めた掃除は夕方には、終わってしまった。
この辺りはお年寄りが多く、普段から集まって掃除をしているらしい。
小さくても手入れの行き届いた神社。
地元のおじさんやおばさん。みんな親切で、あたし達を歓迎してくれていた。
「ここは名ばかりの市でね。毎年、人口が減ってるのよ。田舎だからね。どうしても、みんな出て行って帰ってこないのよ…。」
元ヤンのおばさんが、雑巾で神社の柱を拭きながら教えてくれた。
「いい所なのよ、本当に。不便ってそんなにいけない事かしらね…。ほら、そこ。もっとこうやって拭かないと。」
おばさんは器用だ。手も口も同時に動く。
「そんなに不便なんですか?」
家事が得意なマナは、おばさんと同じように手を動かしながら話をしている。
あたしとイッキは、そうもいかない。
ちゃんとやらないと、すぐおばさんに言われてしまう。
「車がないとね…。バスも電車も少ないからね。リョウちゃんだって、夕方には帰るでしょ?どうやってデートしてるんだろうね?で、りょうちゃんの彼女ってこの中にいないの?」
おばさんは、あたし達を指差しながら尋ねる。
「い、いません!」
「なんだ~。いないの。りょうちゃん良い子よ?ちっちゃい頃から、抜群にかわいかったのよ。大きくなると、急に生意気になっちゃって…。タバコ吸ってた時なんて、本気でシメてやったのよ。」
「ははっ…。」
笑えない。だっておばさん元ヤンだし…。
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「ここもキレイになったし、夕飯まで自由でいいわよ。」
神社の拭き掃除を終え、公民館に戻ると男子が帰ってきていた。
昼食後、男子は力仕事に借り出され別行動だった。
「あ、コラ!山崎君。ちょっと!」
「ゆい。どうしたの?」
「ん?ちょっと山崎君に用が…。」
あたしはそう言うと、山崎君を外に連れ出した。
「何ですか?委員長。外、寒いですよ。」
嫌がる山崎君をひっぱり、公民館外のベンチに座らせる。
「ハーレムゴール。」
「はい?」
「ハーレムゴールってどういう事?」
山崎君は腕を組んだ。顔を少しかしげ、考えている。
「知らないんですか?」
「…普通、知らないでしょ?ハーレムなんて言葉、使わないし。」
「ハーレムっていうのは…。」
「ちがーう!意味じゃなーい!何で、あたしがハーレムなの?」
怒るあたしに、きょとんとした山崎君。
「いや~。委員長。ハーレム状態でしょ~。」
「どこが!」
「…佐伯君、柴田君。それと中野君。」
中野君って…。
「…嘘でしょ?」
「えっ?後藤君は違いますよ。それに僕は、委員長を影ながら応援してますけど…。やっぱタイプが違うというか…。もっとこう、ほんわかした…。」
やばい。山崎君が2次元の世界へ…。
「いや、それ聞いてないから。そうじゃなくってなんで中野君?」
みんなはあたしと中野君の事…知らないでしょ??
「そうでしょう?そうなんですよ。僕だけが、気付いてると思うんです。こう見えても、僕は恋愛経験が豊富ですから…。ゲームの中で、ですけど。」
思いっきり反論したいところだけど…。中野君って普通に見てると、無表情で誰にも興味がないように見えるのに。
「もうね、ほんのちょっとした事なんですよ。ちょっとした態度にね、そういうのってでちゃいますから。」
「だから、具体的には?」
「…さっきもですね。委員長が佐伯君の自転車に乗ったでしょ?あの後、柴田君は不機嫌でしたよ~。絶対後ろから睨まれてますよ!」
「柴田はいいから!」
「あぁ。中野君は…。自転車に乗った委員長を見て、こう…瞳が揺れたんですよ。自転車に乗って、恥らう委員長を見て。まぁ、あの恥らう顔はちょっと萌えましたけど…。」
山崎君は『ちょっと』の部分をジェスチャー込みで表現している。ていうか、それ本当にちょこっとじゃない!
「やーまーざーきーくーんー!!」
「うわぁ!」
「聞かれた事のみ、答えなさい!」
「は、はい。中野君は、普段全く無表情なんです。なのに…。恥らう委員長を見た時は、ほんの少し顔を背けるというか…。そんな感じになったんです。僕、中野君とはクラスが一緒なんですけど、そんな顔見た事ありません。」
あたしに怒られたのが、よっぽど怖かったのか。
山崎君は急にてきぱき答え始めた。
「そっかぁ。まぁいいや。とにかく、もうハーレムなんて言わないでよ!あたしは、そういうの望んでないんだから。」
「はい…。」
「じゃあ。もどろっか。寒いのにつき合わせちゃってごめんね。」
そう言ってベンチから立ち上がる。
「委員長!」
大きな声で呼び止められた。
「なぁに?」
「ぼ、僕にできることがあったら何でも言って下さい!」
「…急に真剣な顔しちゃって、どうしたの?」
山崎君は、気をつけの姿勢で立っている。
「ありがとうございます。ぼ、僕。今、すごく楽しいんです。委員長が…僕なんかでも仲間にいれてくれたから…。こんな2人きりで座って話すなんて…。女の子と仲良く…青春できるなんて…。夢みたいです。」
「…山崎君。」
「男子校に来て、こんなに楽しい思いができるなんて…。」
「わかったって!そんなかしこまらないで。あたしだって同じだよ。あたしなんて、中学の時は友達いなかったんだから…。こちらこそ、仲良くしてね。」
「委員長…。」
「さぁ。もう寒いし、戻ろう。みんなの所に。」
「はい!ぼく、委員長にずっとついていきます。」
なぜか、右手をまっすぐあげたまま山崎君はついてきた。
学校じゃないんだから挙手しなくていいんだけどなぁ…。
「山崎君。ずっとはついてこないで。」
「ええ!」
「あたしトイレ行きたいの。外、寒いんだもん。冷えちゃった。」
「わかりました!いってらっしゃいませ!」
いや、だから大げさだって…。
「委員長!」
「何?」
「恋愛でわからないことがあったら、僕に聞いてください!」
「やだ。」
「なんでぇ?」
「恋愛はゲームと違うのよ。ちゃんと現実に恋愛しなさい。…あ、あたしは山崎君タイプじゃないんでごめんなさ~い。」
手を振りながら、トイレに向かう。
「わっかりましたー!委員長以外で探します!!」
なんか、それもムカつく。
山崎君に仕返ししたつもりが…なんだかこっちがダメージくらっちゃったよ…。
あたし。どこまでいっても山崎君の恋愛対象にはならないのね…。
喜んでいいのか…。
いや、やっぱりムカつく…。
ハーレムゴールって言葉。
実は、どこかで1回聞いただけです。
意味が違ったらごめんなさい。




