マカロンの柿ピー1
雑談。
待ち時間と比例して、大きくなる話し声。
奇声のような笑い声、オーバーリアクション。
雑音の中、ドアの開く音が聞こえた。
何のために集められたのかわからないあたし達は、一斉にドアを見つめた。
現れた教師は……まさかの新米教師、千葉ちゃん。
しかも担当は体育!
まさか……。
こんな寒い日に、何をさせるつもり?
「はい。座って。」
この時期、まさかの体育教師の呼び出し。
部屋の中がざわつく…。
「やったぁ。千葉ちゃんだよ!」
小声で喜ぶ真奈。
新米体育教師の千葉裕一。
顔はお世辞にもかっこいいとは言えない。
すっごく普通。
学校の外で見たら、きっと気付かない。
いわゆる、女子校マジック。
彼は今、学校内で一番人気の王子様。女子校で最も貴重な男。
たまに見せる笑顔が、ミーハーな真奈のお気に入り。
あたしはといえば……
「え〜。千葉ちゃん無理。ホントは女子高生好きなのに、がんばってお前らなんて相手にしないってオーラ出してるもん」
まぁ。教師だからそうじゃなきゃダメなんだろうケド。
「木村さんってキビシイ。そんなに厳選してたら、男なんて残らないわよ。妥協も必要よ」
なんか今、さらっとスゴイ事言ってません??
当の浦沢さんは、ふふってやわらかな笑顔。
「ほら、静かにしろー。始めるぞー」
千葉ちゃんはパンフを手に掲げ、みんなに見せた。
「来年からこの学校も、共学になるのは知ってるな?今までは、男子部と女子部に別れていましたが……。」
来年から共学。
ホント、羨ましい。
あたし達なんて、男子部と交流なんて厳禁。
下校時間も一緒に登校しないよう、先生達に見張られていた。
おまけに制服までかわいくなっちゃうし……。
あたし達の制服は、今時ありえない。
分厚い毛布みたいな素材のブレザーと、同素材のボックスプリーツ。
風が吹いてもひらりとしないから、パンツが見えるなんて心配はいらない。
丸襟のブラウスには、細いエンジ色のリボンがついている。
昭和から変わらぬデザイン。恐るべし。
「……ということで、今日みんなに集まってもらったわけですが…。」
『……カリッ……カリッ……コリッ……。』
なに??
この音。硬いものが削られているような……。
違う!なんかかじられてる??
ああ!!
音のヌシは、左ななめ前。
ふんわりウェーブのかかった、茶髪のボブヘア。
白い肌に血色のいいほっぺ。チークかもしれない。
愛らしい女の子。
が……。
なんか食べてる!
少し前に乗り出して、膝に置かれた手元を覗く。
小袋にはいった……『柿ピー』
なんで?今?柿ピー?
絶対『マカロン』とか食べていそうな顔だよ!
「ん?」
ヤバイ。
彼女とバッチリ目が合ってしまった。
あたしと目が合った彼女は愛らしい笑顔をみせ、彼女の手元にあった柿ピーの小袋を見せる。
いやいや。いりませんよ。
あたしは、とっさに手を振る。
『イリマセン』の、リアクション。
それを見た愛らしい彼女は、柿ピーを膝の上に置き右手でポケットをさぐっている。
ポケットから出したのは……細長い小袋、オトボケ顔のイカのイラスト。
それは……『さきいか』かよ!
だから『イリマセン』って!!
あたしは、さっきよりも大きく手を振った。
「木村」
千葉ちゃんの声……。
やっばい怒られる!
「そうか、お前やってくれるか」
はぁ??なにを??先生、何言ってるの?
「じゃあ、木村が代表。あと希望者は手をあげて。」
だ、だいひょうー!!
急いで真奈の方を向いて、助けを求める。
「しょうがないな〜。せんせ〜い。私達もやりま〜す」
真奈と浦沢さんが手をあげてくれた。
なんだかわからないけど、ありがたい。
「木村さんって意外と積極的なのね」
浦沢さんが意味ありげに笑う。
ん?
教室を見渡すけど、二人の他に手を上げる人はいない。
これって……みんながやりたがらない事?
だったら犠牲者は多い方がいい!
右手で愛らしい彼女の右腕を掴み、左手で彼女の隣の人の左腕をつかんで持ち上げる。
「先生。彼女達もやってくれるそうです」
強引だけど、しょうがない。責任は彼女にもあるんだから。
愛らしい彼女は口の中が柿ピーだらけ。
ふくらんだほっぺは、お菓子を隠す事で精一杯。反論する事なんてできなかった。
かわいそうなのはお隣さん……。
彼女の隣にいるから、きっと彼女の連れだろう。
一緒に犠牲になってもらおう。
「木村さん。私に何か恨みでも?」
声の主は……本城いつきだった。
「じゃあ。それくらいでいいだろう。木村達は、また放課後呼ぶから。じゃあ、みんな解散。」
千葉ちゃんは、さっさと教室を出て行った。
同時に、ざわめく教室。
みんなが、あたしの顔をチラ見していく。
「真奈ちゃん。ところで、あたし何に選ばれたの?」
「ゆい?聞いてなかったの??」
「うん。」
真奈は、あたしが話を聞いていなかった事に驚いたようだった。
けど、あたしはその後の真奈の言葉にもっともっと驚いた。
「明日からあたし達、男子部と一緒に共学生活するんだよ!」
きょうがく。
きょうがく?
きょうがく!
「共学ー!!!!!!!」
ありえない。ありえない。いや、マジありえないって!!




