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夕暮れの逃亡者2

気が付くと、駅前に戻って来ていた。


「はぁ、はぁ…。」


息が切れる。真剣に走ったせいで、喉が張り付いたようにカラカラだ。自動販売機でお茶を買い、一気に流し込む。


「冷たっ。」


いくら日差しが温かくても、やっぱり冬。飲み込んだお茶が、体を冷やしながら流れていく。


「まいったなぁ…。」


よく考えれば、逃げる必要なんてなかった。あれじゃまるで、あたしがあいつの事を、どうにか思っているみたいじゃないか…。幼なじみって、面倒くさい。並木道…。よく考えれば家への通り道だけど、それは柴田だって同じだ。あの道の向こうには、家と柴田の家がある。


「帰れないじゃん…。」


あそこで柴田とその彼女に会ったって言う事は、あたしが家に帰れば途中でまた会うかもしれない。


「もう。面倒臭い。」


駅前のベンチに座って、あたしは途方にくれた。する事がない。家には帰り難いし、買い物もしちゃったし…。


「う~ん。」


カサリと紙袋が音を立てた。そうだ!せっかく本を買ったんだから、どこかでコーヒーでも飲んで読もう。たまにはひとりで時間を潰すのも悪くない。騒いでばかりの高校生じゃいられないしね!


お茶のペットボトルをバックに仕舞い、勢いをつけて歩きだす。こういう時、駅前は便利だ。時間を潰せそうなコーヒーショップが、必ず何軒かあるから。あたしは目に付いた言葉。『キャラメルマキアート』に誘われるようにお店に入り、カウンターの端に座った。甘い香りと小説と、ひとりの時間。なんだかいいわぁ、なんてミーハーかしら??ふと、柴田の事が頭を過ぎったけど、考えるのはやめた。相手の女の子も見たことない子だったし…。



*******


たっぷりと時間をかけ、飲み干す。小説は短編集で、一気には読み進めない。時々、現実に戻れるからだ。


「ふー。」


もう、そろそろ帰ろうかな?さすがにもう会わないだろうし…。


「意外と文学少女なんですね。委員長さん。」

「!!」


この声は…。驚いて振り返ると、そこには…中野君が立っていた。


「な、なんで?ここに?い、いつからいたの??」

「最初からですよ。言っておきますけど、僕の方が先ですよ。ここに来たのは。」


…全然気付かなかった。私服の中野君はカジュアルだけど、ダークカラー。パーカーだけが目を引く赤い色。でも、その赤いパーカーがどうにも中野君のかわいらしさを引き立てていた。ヤバイ。結構イイかも?


「中野君。こんな所でなにやってるの?」

「木村さんと同じような理由ですよ。」


中野君はそう言いながらあたしの横に座り、ククッと笑った。


「木村さん。初めての家出みたいな顔してましたよ。」

「な、何それ??ちょっと失礼じゃない?あたしだって、ひとりでコーヒー飲んで時間潰したりするわよ!」


失礼ね!って言おうとした瞬間、中野君の顔が間近にあった。まつげの長い…大きな目。


「やけに甘い香りがしますけど。」

「!!」


どっちが!って言いたくなるほど、中野君は甘い声で言った。なんなの。もしかして二重人格?冷たかったり、無表情だったり、甘かったり…。


「木村さん。暇でしょ?プチ家出ですか?」

「だから、違うって!あたしの家は厳しいんだから、家出なんかしたら捜索願出されちゃうわよ!」


門限だってあるんだから…。うちは、両親ともに固くて厳しい。朝は早くて、夜も早い。超A型で几帳面なんだから!


「そうですか。僕と同じ匂いがしたと思ったのに。」

「同じ匂い?」

「…家に帰りたくないって・」


家に帰りたくない??そういえば、中野君は感情がどうとか言っていたよね。家庭環境のせいで、感情をいつも抑えているって…。だから、帰りたくないのかなぁ?


「木村さん。駆け落ちしましょうか?このまま。」


無表情の中野君。


「大丈夫ですよ。暗くなる前に帰してあげます。それとも、僕はひとりで消えた方がいいですか?」


笑顔の中野君。そんな、ひとりで消えるなんて…言われたら…。


「門限までには帰るからね!それまでならいいよ。でも、駆け落ちなんかじゃないからね!えーっと…。」

「プチ家出。門限までに帰してあげますよ。木村さん。」


中野君は、あたしの荷物とあたしの腕をつかんで店を出た。中野君は、早足であたしはまるで…。誘拐されそうな気がした。『知らない人についていってはいけません。』子供の頃に言われた言葉を、なぜか思い出した。知らない人じゃないし…。なんて今のご時勢知っている人でも危険なのに…。


その時のあたしは、なんとなく流されて中野君について行った。


「嘘でしょ…。」


数分後、あたしは車の助手席にいた。


「俺、1年休学してるから。実は、みんなより年上なんだよね。」


中野君は眼鏡をかけ、ハンドルを握っている。


「知らなかった…。」

「僕は、童顔ですからね。高校の友達は誰も知りませんよ。」

「そ、そうなんだ…。」

「しかし。木村さん、無防備ですよ。簡単に車になんか乗って。」

「ええ??」


あたし、本当に大丈夫なの??まさか、車なんて思わなかったから…。これじゃ本当に…誘拐されてもおかしくない…とか!?

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