チャリンコ☆クリスマス6
リョウが帰った後、あたしは柴田と2人っきり。なんだか、すごーく気まずくて…。会話どころか、柴田は目すら合わせてくれない。
真っ暗な道。その先には、そこだけぽっかりと灯りがついたバス停。蛍光灯の白い光が、余計に寂しい気持ちにさせる。
「しばた。」
返事はない。さっきから、あたしの荷物を持ったまま黙っている。手はあいかわらず、あたしの腕を掴んだままだ。
「ねぇ…。」
もしかして、怒ってる?だったら、こんな所まで来なきゃいいのに…。バスに乗って帰るくらいあたしにもできるっていうのに…。柴田はずっと黙っている。バス停に連れて行こうと、あたしの腕をひっぱったまま。
「着いた。」
坂の上に見えたバス停は、高速道路に繋がっていた。さっきまで真っ暗だったのに、急にここだけ明るい。バス専用道路の向こうは高速道路で、絶えず車が走っている。なんだか、ここだけ都会。そんな感じだ。バス停に着くと、柴田はあたしの腕を離した。急に明るい所に出たおかげで、冷静にでもなったのだろうか?
「何で、こんな所まで来たの?」
さっきから繰り返し思っていた。何で、柴田はあたしを迎えになんかきたんだろう?
「…お前だって。なんで、こんな所まで来たんだよ!携帯取り替えるくらい、すぐにできるだろ?リョウに電話すれば、簡単だったろ?電車だってもっと早くに降りていれば、帰りの電車はいくらでもあったんだ。こんな田舎までついていくなんて、おかしいだろ!」
「…だって…。」
あたしだって、好きできたわけじゃないのに…。なんで、こんなに…こいつに怒られなきゃいけないのよ!
「お前、からかわれてるだけだよ…。リョウの周りには、お前みたいな女がいないから。珍しいだけだよ。」
柴田はこっちを向いて、そう言った。困ったような、穏やかな、変な顔。
「…知ってるよ。今日はただ…。リョウの周りに女の子がいて、話しかけられなかっただけだもん。それに、こんな時間に帰りの電車がないなんて知らなかったんだから…。」
なんだか気まずくなって、柴田から目をそらす。うつむいて、靴の先ばかり見ている。
「あっ。」
視界に白いものが過ぎる。見上げると、雪が暗い空から落ちてきた。
「ホワイトクリスマスじゃん!」
ゆっくりと空から落ちてくる雪。少しだけうれしくなったけど、急に寒さを感じて身震いする。そうだ、イケメンは今頃どうしているんだろう?きっと寒いよね。あたし、ちゃんとお礼言ってない。暗闇の中、自転車をこぐイケメン。想像したら、うれしい気持ちが消えてしまった。風邪をひいてしまうんじゃないか、心配ばかりが心を過ぎる。
「ゆい…。」
「えっ?」
今、柴田。名前で呼んだ?あたしの事。
「昔は名前で呼んでいたのにな。俺達、いつから苗字で呼ぶようになったんだろうな…。」
そういえば、そうだ。湊くん。あたしは柴田の事を湊くんって呼んでいた。柴田は、あたしの事をゆいって呼び捨てにしていた。懐かしい。けど、あたし達の思い出はそんなに楽しい事ばかりじゃない。今更、思い出して何になるっていうんだ。
向こうから、バスが来る。思い出話はもう終わりにしよう。
あたしは先にバスに乗り込み、空いている席に座った。柴田は後ろからついてきて、あたしの隣に座った。
「ちょっと。他にも席空いてるんだから!」
「どうせ、降りるところ一緒なんだからいいだろ。」
今日の柴田は、面倒だ。いちいちあたしにつっかかる。あたしは顔を窓の外に向けた。柴田とこれ以上、話したくない。
暗い窓の外。あたしはイケメンの事を考えていた。温かいバスの中。イケメンは寒くないだろうか?ひとりで自転車をこいで、どこまで帰るのだろうか?家にはもう着いたのだろうか?窓の外を見ても、イケメンは見えない。ただ、不安そうなあたしの顔が反射して映るだけ…。
「木村。リョウ、家に着いたみたいだぞ。」
「ホント?」
「お前、心配してたのか?」
「…別に。」
よかった。これでもう、イケメンは寒くない。
「お前…。まあいいや。帰ったらみんなにメールしとけよ。みんな、心配してたぞ。」
「え…。そうなの?わかった。ちゃんとする。」
「それから…。正月。初詣にでも行こうって言ってたぞ。」
初詣!そうだ。もう、そんな時期だった!クリスマスが済んだら、お正月がきて…。卒業しちゃうじゃない!!ヤバイ!!
「柴田!初詣行こうね!あたし達、結構ハードスケジュールよ!ぼーっとしてたら卒業しちゃう!!」
そうよ!あたし。委員長じゃない。ちゃんとしなきゃ。イケメンとか、柴田とか言ってる場合じゃない!
あたしは柴田の方を向いた。
「恋愛禁止なんだからね!」
「はぁ?お前。意味わかんねー。」
柴田はあきれていた。でも、その後は笑顔だった。普通の幼馴染。普通の柴田。あたし達は、ちゃんと友情で結ばれなきゃ。共学クラスの意味がないじゃない!




