表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/77

チャリンコ☆クリスマス6

リョウが帰った後、あたしは柴田と2人っきり。なんだか、すごーく気まずくて…。会話どころか、柴田は目すら合わせてくれない。


真っ暗な道。その先には、そこだけぽっかりと灯りがついたバス停。蛍光灯の白い光が、余計に寂しい気持ちにさせる。


「しばた。」


返事はない。さっきから、あたしの荷物を持ったまま黙っている。手はあいかわらず、あたしの腕を掴んだままだ。


「ねぇ…。」


もしかして、怒ってる?だったら、こんな所まで来なきゃいいのに…。バスに乗って帰るくらいあたしにもできるっていうのに…。柴田はずっと黙っている。バス停に連れて行こうと、あたしの腕をひっぱったまま。


「着いた。」


坂の上に見えたバス停は、高速道路に繋がっていた。さっきまで真っ暗だったのに、急にここだけ明るい。バス専用道路の向こうは高速道路で、絶えず車が走っている。なんだか、ここだけ都会。そんな感じだ。バス停に着くと、柴田はあたしの腕を離した。急に明るい所に出たおかげで、冷静にでもなったのだろうか?


「何で、こんな所まで来たの?」


さっきから繰り返し思っていた。何で、柴田はあたしを迎えになんかきたんだろう?


「…お前だって。なんで、こんな所まで来たんだよ!携帯取り替えるくらい、すぐにできるだろ?リョウに電話すれば、簡単だったろ?電車だってもっと早くに降りていれば、帰りの電車はいくらでもあったんだ。こんな田舎までついていくなんて、おかしいだろ!」

「…だって…。」


あたしだって、好きできたわけじゃないのに…。なんで、こんなに…こいつに怒られなきゃいけないのよ!


「お前、からかわれてるだけだよ…。リョウの周りには、お前みたいな女がいないから。珍しいだけだよ。」


柴田はこっちを向いて、そう言った。困ったような、穏やかな、変な顔。


「…知ってるよ。今日はただ…。リョウの周りに女の子がいて、話しかけられなかっただけだもん。それに、こんな時間に帰りの電車がないなんて知らなかったんだから…。」


なんだか気まずくなって、柴田から目をそらす。うつむいて、靴の先ばかり見ている。


「あっ。」


視界に白いものが過ぎる。見上げると、雪が暗い空から落ちてきた。


「ホワイトクリスマスじゃん!」


ゆっくりと空から落ちてくる雪。少しだけうれしくなったけど、急に寒さを感じて身震いする。そうだ、イケメンは今頃どうしているんだろう?きっと寒いよね。あたし、ちゃんとお礼言ってない。暗闇の中、自転車をこぐイケメン。想像したら、うれしい気持ちが消えてしまった。風邪をひいてしまうんじゃないか、心配ばかりが心を過ぎる。


「ゆい…。」


「えっ?」


今、柴田。名前で呼んだ?あたしの事。


「昔は名前で呼んでいたのにな。俺達、いつから苗字で呼ぶようになったんだろうな…。」


そういえば、そうだ。(みなと)くん。あたしは柴田の事を湊くんって呼んでいた。柴田は、あたしの事をゆいって呼び捨てにしていた。懐かしい。けど、あたし達の思い出はそんなに楽しい事ばかりじゃない。今更、思い出して何になるっていうんだ。


向こうから、バスが来る。思い出話はもう終わりにしよう。


あたしは先にバスに乗り込み、空いている席に座った。柴田は後ろからついてきて、あたしの隣に座った。


「ちょっと。他にも席空いてるんだから!」

「どうせ、降りるところ一緒なんだからいいだろ。」


今日の柴田は、面倒だ。いちいちあたしにつっかかる。あたしは顔を窓の外に向けた。柴田とこれ以上、話したくない。


暗い窓の外。あたしはイケメンの事を考えていた。温かいバスの中。イケメンは寒くないだろうか?ひとりで自転車をこいで、どこまで帰るのだろうか?家にはもう着いたのだろうか?窓の外を見ても、イケメンは見えない。ただ、不安そうなあたしの顔が反射して映るだけ…。


「木村。リョウ、家に着いたみたいだぞ。」

「ホント?」

「お前、心配してたのか?」

「…別に。」


よかった。これでもう、イケメンは寒くない。


「お前…。まあいいや。帰ったらみんなにメールしとけよ。みんな、心配してたぞ。」

「え…。そうなの?わかった。ちゃんとする。」

「それから…。正月。初詣にでも行こうって言ってたぞ。」


初詣!そうだ。もう、そんな時期だった!クリスマスが済んだら、お正月がきて…。卒業しちゃうじゃない!!ヤバイ!!


「柴田!初詣行こうね!あたし達、結構ハードスケジュールよ!ぼーっとしてたら卒業しちゃう!!」


そうよ!あたし。委員長じゃない。ちゃんとしなきゃ。イケメンとか、柴田とか言ってる場合じゃない!


あたしは柴田の方を向いた。


「恋愛禁止なんだからね!」


「はぁ?お前。意味わかんねー。」


柴田はあきれていた。でも、その後は笑顔だった。普通の幼馴染。普通の柴田。あたし達は、ちゃんと友情で結ばれなきゃ。共学クラスの意味がないじゃない!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ