チャリンコ☆クリスマス3
ガタン、ゴトン。
今時…。貴重なんじゃないの??こんなに、ガタゴト揺れる電車なんて…。
「…ありえない。」
あたしは今、2両編成のオンボロ電車に乗っている。しかも、行き先はわからない。
「はぁ…。」
手にはイケメンの携帯。しっかりロックがかかっていて、電話どころかメールもできない。
「困ったなぁ。」
電車は夕方だというのにガラガラ。ラッシュという言葉は、ここにはないのだろう。窓の外は一面みどり色。この電車に乗って、2駅過ぎた辺りからずっとこうだ。今、あたしは車両の連結部分。1両目と2両目の境にいる。イケメンは1両目。早く声を掛けて、携帯を取り返したいところだけど…。
「まだ、話中かよ…。」
あたしはクリスマスパーティーの後、イケメンを追いかけて駅までやってきた。改札付近でイケメンを見つけて追いかけたけど、追いつけず…。ホームでキョロキョロしていたら、偶然この電車に乗り込むイケメンが見えた。
「やっと見つけたと思ったのに…。」
イケメンを見つけた瞬間、発車のベルが鳴った。あたしは、反射的に電車に乗り込んだ。ちょっと焦ったけど、携帯を交換したら次の駅で降りればいいやって思っていた。それなのに…。
「いい加減にしてくれないかなぁ…。」
電車に乗ったイケメンは、ずっと2人組みの女子と話し込んでいる。声を掛けようか迷っていたら、そのうちの1人が泣き出しちゃうし…。
「はぁ…。」
あたしは連結部分から、1両目を覗いてはため息をついている。
ガタン、ゴトン。
しょうがなく、窓の外を眺める。やっぱり、みどり色。イケメンは、一体どこに行くんだろう。クリスマスなのに、こんな田舎を走る電車に乗っていていいのかなぁ?デート、じゃないの??
クリスマスデート。
イケメンは、毎年そういう相手がいるのかなぁ…。羨ましいっていうか…。イケメンは本当に、顔だけはカッコイイから…。共学クラスがなかったら、きっと話をする機会なんてなかったんじゃないかなぁ??住む世界が違うって言うか…。
電車が次の駅に着いた。
「あぁ!!」
イケメンと話していた、女子2人組みが降りている!あたしは、急いで1両目を覗く…。
「!!」
そこには人影。しかも見覚えのある…。
「ヤバイ…。」
連結部分のドアが、ゆっくりと開けられる。
「お前は俺のストーカーか?」
イケメン登場。っていうか、いつから気付いていたの??
「さっきから、チョロチョロと俺の視界に入りやがって…。」
??ヤバイ。なんか、怒ってる??
「こんな所まで追いかけてきて、どうするつもりなんだよ!お前は!!」
「だ、だって…。」
「だってじゃない!話があるなら、電話もメールもあるだろ!」
いや…だから。その携帯を…。
あたしは黙って携帯を取り出し、イケメンに見せた。
「携帯。リョウのでしょ。これ、ロックかかってるから使えないんだもん。」
イケメンはあたしの手から携帯を奪い取り、自分のポケットからあたしの携帯を取り出した。どっちも同じ会社の同じ機種。色も同じホワイト、ストラップも無し。
「嘘だろ…。お前は女なんだから、少しは携帯に何かしろよー。デコるとかさぁ…。」
「いいじゃん。あたしはシンプルが好きなの。」
「シンプルって…。色気なさ過ぎ。」
電車は再び、みどり色の風景の中を走り出した。
「じゃあ、あたし次で降りて戻るから。」
携帯を取り返した今、ここにいる理由はない。
「次で、俺も降りる。」
何で?そう聞こうと思ったけど…やめた。人のデートの話なんて、聞いてもつまんないし!ふと、イケメンに目をやると…なんだか元気がない。さっきの2人組みの女子のせいかしら??
「お前。知らないのか?」
イケメンは椅子に座って、こっちを見ている。横に座るのは何か違う。あたしは向かいの椅子に座った。
「何を?」
「…。もう、戻れないぞ。」
真面目な顔のイケメン。なんてシリアスな台詞。
「何いってんの?冗談?」
明るくあたしが返すけど、イケメンはマジだ。
「もう、帰りの電車は無いぞ…。」
「はぁ?まだ6時過ぎだよ。そんなワケないじゃん。」
いくらこの辺りがみどり一色だからって、それは言い過ぎでしょ??
「はっきり言うぞ。俺が夕方までしか学校にいないのは、用事があるからじゃなくて電車がなくなるからだ!」
「…えっ?」
「俺の家はすっごく田舎なんだよ!少し前まで村だったんだから。」
む、むら?村??そ、そんなの…。
「昔話の世界じゃん!」
と、言う事は…。電車の話は…本当?
「えっ。えええ!!!あ、あたし…。」
どうやって帰ればいいの??ていうか、帰れないの??
「あ、あたしどうすればいいのー!!」
イケメンに、詰め寄り尋ねる。お願い。嘘だと言って…。
「俺の家に泊まるか?」
ニヤリと含んだ笑顔。あぁ。悪いイケメンだぁ…。そんなの冗談じゃない!お、親に殺される!今日はクリスマスなのよー!!泊まるだなんて…。
「エローい!!」
ヤダヤダ、嫌だ!不純!ありえない!誰かぁ、嘘だと言ってよー!!
ガラガラの電車の中。あたしは1人で大騒ぎ。
ガタン、ゴトン。
電車は相変わらず、マイペース。ゆっくりみどりの中を進んでいった。




