15
俺は瓶を取り出して悪霊に投げつけた。
瓶は見事に相手に当たり、パリンと割れ、中の液体がその身体に降りかかった。
ウギャアアアアァアァァァ……
と、いかにも魔物らしい悍ましい断末魔が室内に響き渡る――
ことは、無かった。
悪霊は瓶の残骸を振り払うと、何事も無かったようにこちらに突っ込んで来た。
「う、嘘だろ!」
俺は持ってきていた銅剣を机の下から取り出して構えた。
悪霊がすぐ目の前に迫ってくるタイミングで、奴の胸辺りを目がけてそれを振り下ろした。
ガキン、という音がした。
手応えがあった。
しかし、次の瞬間、俺の身体は後方に吹き飛ばされた。
上半身に凄まじい衝撃があり、ぐは、と血反吐を吐いた。
何が起こったのか理解出来ないまま、恐怖と痛みだけが肉体を支配していた。
「グワウッ――」
悪霊は無防備な俺の方にゆっくりと向かってくる。
逃げないと。
逃げないと殺される。
そのように考えるが身体が全く動かない。
やがて悪霊は俺の目の前までやってくると、骨張った巨大な掌をこちらに向けてきて――俺の頭をむんずと掴んだ。
「あ……あがががが」
ギリギリと頭が締め付けられた。
凄まじい力だった。
まるで万力で頭蓋骨を締め付けらるように、ゆっくりと、しかし確実に、圧縮されていく。
「やめて! お父様!」
リーゼの声が聞こえる。
その後も彼女は何か大声を出していた。
しかし、その声は、徐々に薄れていき、聞こえなくなっていった。
ぎりぎりぎりぎり……
力はさらに強くなっていく。
余りの苦痛に叫び声をあげるが、それも小さく細くなっていく。
最早限界を超えて俺の頭蓋は圧搾されていた。
ぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎりぎり……
そしてやがて――
パキャッ。
そのような音がして、俺の意識は完全に途絶えた。
you dead




