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俺はリーゼがやってくるまで部屋で大人しく待つことにした。
やはりリーゼの去り際の言葉が心に残っていた。
あれは、彼女の注意喚起だったのではないかと思った。
何もすることがないので、改めて室内を見回した。
壁には雄々しい動物の絵画や風光明媚な風景画が飾ってある。
反対側の壁の前には横長の木製棚があり、金や銀、その他高級そうな鉱物を贅沢にあしらった工芸品が陳列してあった。
窓外に目を移すと森はすっかり暗闇に包まれていた。
耳を澄ますとびゅうびゅうと風の音がした。
俺は改めてリーゼのことを考えた。
彼女は何者なのか。
悪人ではない――気がする。
俺は前世では十数年しか生きていないが、人を見る目には自信があった。
リンはまあその――あいつはほら、魔物だったし。
暇なので室内を物色することにした。
トイレやバスルームを見たあと、もう一度室内の装飾を見て回った。
そうしていると、つと、絵画の1つが斜めに傾いていることに気付いた。
俺は眉を寄せて近付いた。
額縁の辺りを注視して見ると、裏側に何か挟まっているのが見えた。
手を突っ込んで無理矢理引っ張り出す。
引っ掛かっていたのは硝子の小瓶だった。
軽く振ってみると、ちゃぷんちゃぷんと音がした。
なんだこれ、と眺めていると、額縁の裏から1枚の紙片がはらりと落ちた。
拾って読んでみる。
すると、走り書きのような文字で、
【悪霊に使え】
と書かれてあった。
俺はごくりと喉を鳴らした。
悪霊?
それはリーゼのことか?
それとも、この屋敷にはやはり魔物がいるのか?
だとしたら、これをここに隠したのは誰なんだ――
考えを巡らせていると、コンコンとドアがノックされた。
俺は驚いて両肩をあげた。
だがすぐに平静を装い、はい、と返事をした。
「食事の御用意が出来ました」
すると、リーゼが顔を覗かせた。
「あ、ああ、分かった」
俺はリーゼにバレないようにポケットに瓶と紙片を突っ込んだ。
「……なにか?」
リーゼは少し訝しげに俺を見た。
俺は――
A 何でもないよ、と言って、愛想笑いを浮かべた。
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