11
「正体を現せ! この化け物め!」
俺はそのように叫ぶと、無防備に背を向けていたリーゼに襲いかかった。
腰に帯刀していた銅剣を抜き、大上段から斬りかかった。
ガキンッという金属がぶつかるような音がした。
手応えがあった。
しかし次の瞬間、俺は激しい反動を食らい思わず尻もちをついた。
思い切り振り下ろした俺の渾身の切っ先は、しかし、彼女の細い背中に届く前に、何物かに弾かれたのだ。
「あらあら。いけない人」
リーゼがゆっくりと振り返る。
彼女は――笑っていた。
「ひっ」
俺は膝行るように後ろに這った。
「く、来るな! 来るんじゃねえ!」
腰を抜かしたまま、闇雲に剣を振り回す。
「この――この、化け物め!」
リーゼは微笑んだままだった。
そして、困ったように言った。
「それ以上、怒らせない方が良いわ。今ならまだ間に合うかもしれない」
「な、なんの話だよ!」
「この屋敷の話。あなたは、この"家"を怒らせたの」
「だ、だから、なんの話を」
「この"家"は、私を愛しているの。だから、私に危害を加える人間には容赦しないわ」
「危害を加えるつもりなのはそっちだろう! この嘘吐きめ! 一体、俺をどうするつもり――」
と、そこまで言ったとき。
俺は急に息苦しさを感じた。
見る見る内に、首が絞まって行く。
「嗚呼、残念だわ。どうやら、もう遅いみたい」
リーゼは眉を下げた。
俺の首を目に見えぬ手が絞めていた。
見ることも触ることも出来ないが、確かに人間の手が首を絞めている感触があった。
俺の顔はみるみる内に鬱血し、チアノーゼで紫に変色していった。
苦しさの余り、足をバタバタと動かした。
しかし、首を締め上げる力はいよいよ増していった。
――ボギッ
やがて、鈍い音を出して骨が折れる音がした。
「また――駄目だった」
意識が途切れる間際。
そのように呟くリーゼの声が聞こえた。
the end




