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「正体を現せ! この化け物め!」


 俺はそのように叫ぶと、無防備に背を向けていたリーゼに襲いかかった。

 腰に帯刀していた銅剣を抜き、大上段から斬りかかった。

 ガキンッという金属がぶつかるような音がした。

 手応えがあった。

 しかし次の瞬間、俺は激しい反動を食らい思わず尻もちをついた。 

 思い切り振り下ろした俺の渾身の切っ先は、しかし、彼女の細い背中に届く前に、何物かに弾かれたのだ。


「あらあら。いけない人」


 リーゼがゆっくりと振り返る。

 彼女は――笑っていた。


「ひっ」


 俺は膝行るように後ろに這った。


「く、来るな! 来るんじゃねえ!」


 腰を抜かしたまま、闇雲に剣を振り回す。

 

「この――この、化け物め!」


 リーゼは微笑んだままだった。

 そして、困ったように言った。


「それ以上、怒らせない方が良いわ。今ならまだ間に合うかもしれない」

「な、なんの話だよ!」

「この屋敷の話。あなたは、この"家"を怒らせたの」

「だ、だから、なんの話を」

「この"家"は、私を愛しているの。だから、私に危害を加える人間には容赦しないわ」

「危害を加えるつもりなのはそっちだろう! この嘘吐きめ! 一体、俺をどうするつもり――」


 と、そこまで言ったとき。

 俺は急に息苦しさを感じた。

 見る見る内に、首が絞まって行く。


「嗚呼、残念だわ。どうやら、もう遅いみたい」


 リーゼは眉を下げた。


 俺の首を目に見えぬ手が絞めていた。

 見ることも触ることも出来ないが、確かに人間の手が首を絞めている感触があった。

 俺の顔はみるみる内に鬱血し、チアノーゼで紫に変色していった。

 苦しさの余り、足をバタバタと動かした。

 しかし、首を締め上げる力はいよいよ増していった。


 ――ボギッ


 やがて、鈍い音を出して骨が折れる音がした。


「また――駄目だった」


 意識が途切れる間際。

 そのように呟くリーゼの声が聞こえた。

 


the end

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― 新着の感想 ―
 また──駄目だった……。  ええっと、今度はどこまで戻るんだっけ?
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