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「あの、この炎は誰が灯したんでしょうか」
と、俺は聞いた。
すると、リーゼは一瞬目を開いた。
それから優雅に微笑み、小首を傾げた。
「はて、なんのことでしょう」
「いえ、ここはあなた一人で住んでいると仰っていたので」
「おかしいですか?」
「それは、はあ、変だと思います。俺が来たのはあくまでイレギュラーだったはずなのに、どうしてキャンドルに火が灯っているんでしょうか」
「それは――ここは私の部屋なんです。だから、灯をともしておいた」
「ベッドが3つもあるんです。さすがに、ここは客室でしょう?」
俺が問うと、リーゼは口元に手を当ててふふふと笑った。
「鋭い御方ですわね」
「それだけじゃないです」
と、俺は続けた。
「勝手に施錠する玄関。一斉に点灯するシャンデリア。この屋敷は妙なところだらけだ」
「……そうかしら」
リーゼは目を細めた。
笑っているのか怒っているのか、蝋燭に照らされたその表情は、炎の揺らめきでよく分からない。
すいません、と俺は頭を下げた。
「いきなりやってきて、こんなことを言うのは失礼だと思います。しかし、俺も命が惜しいんです」
「どういう意味かしら」
「分かりませんか」
「ええ」
「では単刀直入に聞きます」
俺はリーゼを見つめた。
「あなたは、俺に危害を加える気ですか」
リーゼはしばらく黙っていた。
俺は緊張して手に汗を握った。
自分でも、なんということを聞くんだと思った。
しかし、俺はどうしてもリーゼから直接、聞いておきたかった。
彼女からは、悪意を感じられなかったから。
「まさか」
やがて、リーゼは応えた。
「私はあなたをどうにかしようなんて気はさらさらありません」
「信じても、良いんですね」
「もちろん」
リーゼは嫋やかに微笑み、言った。
その笑みからはやはり、悪意はまるで感じられなかった。
「非礼があったことは謝ります。けれど、信じてください。私は、あなたを助けるつもりで屋敷に招き入れたのです。この森は、夜になると凶悪な魔物が跋扈する恐ろしいところなのですから」
リーゼは真摯に説明した。
俺は胸がズキリと痛んだ。
この人が嘘を言っているようにはとても思えなかった。
善意で助けてくれようという人に、俺はなんて無礼なことを言ったんだ。
俺は唇を嚙んだ。
「……すいませんでした」
深々と頭を下げた。
「実はここに来る前、色々とありまして。疑心暗鬼になってました」
「魔物に騙されたのでしょう? モンスターたちの中には、ずる賢いものもたくさんいますから」
「はい。実は、そうなんです」
「安心してください。私は人間です」
「え、ええ、それはもちろん」
俺は気まずく感じて、後頭部をさすった。
それを見て、リーゼはうふふと笑った。
「それでは、食事を用意して来ますね。それまではここでお休みください」
リーゼはそう言うと、部屋の入り口に向かって歩き出した。
そして、そのまま部屋を出て行こうとしたとき1度振り返り、こう言った。
「"私は"、ね」
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リーゼが出て行った後。
ベッドの縁に座り、俺は考えていた。
"私は"、とリーゼは言った。
あれはつまり、"私は"人間だ、という意味なのだろう。
ということは。
"人間以外のもの"が、この屋敷にはいるということだ。
そして恐らく、それがこの屋敷で起こっている奇妙な違和感の正体なのだ。
俺は改めて考えた。
リーゼから悪意は感じない。
しかし、何か不穏な雰囲気は感じる。
本能がここは危険だと言っている気がする。
この場所には、何かよくないものがいる。
さて、これからどうするべきか。
俺は――
A リーゼが呼びに来るまでここにいる。
B 屋敷の中を探索してみる。
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