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なんか、人目を憚らず泣いちゃった。今は不思議とすっきりしてるけど、思い出すと恥ずかしくなってくる。
しかし、なんで泣いちゃったんだろう?
やっぱり勝ちを逃して悔しかったのかなぁ?
自分の不甲斐なさに嫌気がさしたのかなぁ?
「ねぇ、何でだと思う?母さん」
「え?何の話?」
あ、無意識に聞いちゃった、あはは……。
「ううん、何でもない」
「それで、今日はどうだった?」
母さんが、レースの感想を聞いてきた。
「何か、天国と地獄を同時に味わった感じ?よくわかんないけど……」
「また良く分からない表現ねぇ……」
自分でも良く分かってない。色んなことが一度に起こった日だから……
「自信なくした?」
「そんなことない!負けた原因は分かってる。いい勉強になった」
そう、原因はスタート直後。
変更したセッティングに予想以上に戸惑った結果、ハイペースで前を追わなければならなくなり、バッテリーが最後まで持たなかった。メカニカルな部分に、メンタルな部分が上乗せされた……って感じかな?
「じゃあ、やっぱり……」
「うん、決めた。父さんの後を追ってみる」
ガタターン!
な、何?何の音?
「ゆ、友美ちゃん……まさか、まさか!」
後ろを振り返ると、店長が顔面蒼白で立ちすくんでいた。手に持っていたであろう缶ジュース類が、地面にぶちまけられている。さっきの音はそれかぁ……。
「友美ちゃん、は、早まっちゃいかん!」
「はぁ?何の話です?」
「だ、だって、怜治の後を追うって聞こえたけど……」
「うん、私の心は決まったよ」
「そ、そんなぁ……まだ君は若いんだし、将来のある身だし……」
な、何か話が噛み合ってないような……。
「その将来の道が見えたって言ってるんです。このレースの前までは、まだちょっとあやふやだったけど、父さんが目指した、追いかけていた“世界”を私も追いかけてみたい、と……」
「………………え?」
何故に店長、目がテンなの?
「あ、あは、そ、そういうことかぁ。僕はてっきり……」
「てっきり……何です?」
「こ、こんな事、言って……いいのか……なぁ?」
なぁ~んか、歯切れが悪いなぁ。
「てっきり……後追い……自殺を……決めたのかと……」
はぁ?
「何でそんなことする必要があるんです?」
「そうだよねぇ……よかったぁ、勘違いかぁ」
どこをどう解釈すればそうなるんですっ?
「『後を追う』という表現がいけなかったんじゃないかしら?」
そうかぁ、そう取れなくも無い表現だよね、確かに……家の事情がアレなだけに。
「でも、それ以外の表現ってあるのかなぁ?」
「まぁ、断片的に聞こえたのを、勘違いした僕も悪かった。ごめん」
「本当よ、勲君。お詫びとして、マッチドバッテリーを進呈しなさい」
「……ええぇ~ッ!か、勘弁してください。妻に怒られる~ッ」
まぁだ諦めてなかったんですね、この人は……。
後追い自殺etc……に関しては、後に投稿するお話で少し触れます。




