表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ある悪女の物語

作者: どんC
掲載日:2023/12/19

 妹が死んだ。


 妹が死んだ。


 お医者様は「15才まで生きられないだろう」


 とおっしゃっていた。

 その通りになった。

 体の弱い妹だった。

 いつもベッドから窓の外を眺めていた。

 美しい妹だった。

 金の髪に紫の瞳でまるで妖精の様な娘だった。


「私の妖精のお姫様」


 父も母もそう言っていた。

 父も母も妹に夢中だった。



 二歳年下の妹に湯水の様にお金が使われた。

 高額な薬代、妹を慰める為の無駄な衣装やアクセサリーや靴。

 可愛いぬいぐるみ達。部屋一杯の花。

 妹の部屋から見える見事な庭。

 妹にかかった費用の皺寄せは私の学費で支払われた。

 亡くなったお婆様が私の為に残してくれた遺産。

 お婆様も通った帝都学園に行きなさいと残された遺産。

 お前は頭が良いから高等教育を受けなさいと言われたのに……

 もちろん妹にも遺産は残されていたが……

 とうの昔に薬代に化けていた。


「妹が可哀そうだと思わないの!!」


 その一言で私の遺産は奪われた。

 父の愛も、母の愛も独り占めした妹。

 それなのにお婆様が私の為に残して下さった財産まで奪われた。

 私は古びたワンピースが三着だけだった。

 穴の空いたワンピースをエプロンで誤魔化していた。


 それなのに……


 妹はよく庭師の孫と話をしていた。

 妹の部屋から見える庭は、とても美しく整えられていた。

 外に出られない妹を慰める為の庭。

 庭師の孫は美しい少年だった。

 よく妹と話していた。

 私の初恋の人でもある。

 優しく妹に笑いかける彼……


 私……


 妹より頭が良かったのよ。


 私……


 妹より健康で丈夫な体を持っていたのよ。


 私……


 妹ほどではないけれど……美人よ。

 ライトブランの髪と琥珀の瞳を綺麗だと誉めてくれたのは庭師の孫だった……


 私の家は比較的裕福な商家で。

 祖母は貴族でかなりの持参金を持って嫁入りした。

 祖父はその持参金を元に何倍にも稼いだ。

 祖父も祖母も亡くなり、商会を父が継いだ。

 妹が病気になるまでは、両親はしっかり働いていたが……

 でも父も母も妹に係りっきりになって。

 店のことは、放ったらかしになった。

 何とか私は店を切り盛りしたけど。

 14才の小娘では従業員にあなどられ……

 店員が、一人去り二人去り。

 売り上げをちょろまかす不届き者も出てきた。

 従業員の質も下がり。

 店は傾いていった。


 妹が死んだ。


 妹が死んだ。


 やっとやっと死んでくれた。

 父も母も妹の亡骸にしがみつき大声で泣いた。

 私はそんな両親にかまわず葬儀の準備をした。


 冷たい?


 ええ、そうでしょうね。

 私は冷たい。

 妹を憎んでいたわ。


 妹の葬儀の後、父も母も自殺した。

 妹が飲んでいた薬を飲んだのだ。

 その薬は健康な者には毒だった。


 妹の葬儀の後……


 私は父と母も見送る羽目になった。

 共同墓地の片隅に並ぶ小さな三つの墓。

 三人の死を悼む時間は私には無かった。

 妹の為に使われた借金は私にふりかかり。

 屋敷も店も取り上げられ。

 妹のドレスや靴や贅沢なアクセサリーも売り払われた。

 それでも借金は残り。

 私は売春宿に売り飛ばされた。

 私は妹に比べれば見劣りがしたが。

 そこそこ美人だったから。


 私は娼館の売れっ子になった。

 商売をしていた為か。

 私は相手が欲がっている言葉をかけることが出来た。

 娼館の主は私を高級娼婦とした。

 私の相手は貴族ばかりだ。

 若さと美貌だけでは直ぐに飽きられる。

 休みの日には図書館に通い。

 私は知性を磨いた。

 そんなある日、図書館で一人の老人に出会った。

 彼は知識人で色々な話を私にしてくれた。

 老人は学校の教師らしい。

 私は彼を先生と呼び、色々な知識を吸収する。


 ある日、羽振りの良い男爵が私を身請けした。

 かなりお年をめされた男爵らしいが、私は喜んだ。

 高級娼婦と言っても先は見える。

 若さを失い町で(売春)を売るか、病気で死ぬか。

 迎えに来たのは、なかなか豪華な馬車だった。

 私は娼婦仲間とオーナーに見送られ馬車に乗る。

 男爵の館に着いた。

 男爵の割には豪奢な館だ。


 しかし……


 喪に服しているのか門には黒い旗が掲げられている。

 貴族は身内に葬儀があると、門に黒い旗を掲げ一年間喪に服す。

 そして結婚式やパーティやお茶会など派手な行事は避けられる。


 どうやら男爵家に不幸があった様だ。

 私は客室に案内された。

 私を身請けしたのはあの図書館の先生だった。

 先生はアラン・ウィーク男爵と名乗った。

 そう言えば先生のフルネームを聞いたことは無かったと思い出す。


「息子夫婦が馬車の事故で亡くなってね」


 ポツリポツリとアラン男爵は話し始める。

 アラン男爵は帝国学園の副理事長をなさっていて。

 爵位は息子夫婦に譲り学園で教師をしていた。

 今年は第三王子も入学する、大変な時期で学園を休めないそうだ。

 しかし息子夫婦には二歳と一歳の子供がいて。

 再び男爵位を継ぎ、二人を養子にした。

 アラン先生は、私に二人を育てて欲しいとの事だった。

 私は頷く。

 大好きなアラン先生の役に立ちたかった。

 これ程嬉しい事はない。


 それから私は二人を大事に大事に育てた。

 ウィーク家は、男爵位ながらソコソコの領地があり商会も持っていた。

 私は領地経営も商会も子育ても頑張った。

 娼婦上がりと馬鹿にする人達はいたが。

 私は娼婦で鍛えた笑みを溢すだけだった。

 金持ち喧嘩せずだ。

 そんなもの買ったって石金(くずせん)の得にも為らない。

 私は娼婦だった時の伝手を使い、子供達の人脈を増やすために積極的にお茶会に参加した。

 子供達には商会で扱っている高級な生地を使った服を着せた。

 服のデザインは若手のお針子に任せた。

 私が着る上品な服とマッチして、流行を作り出す。

 私を娼婦と馬鹿にする人よりも私に同情する人が多かったのだ。

 病弱な妹の犠牲になった可哀想で健気な姉として。

 私はアラン男爵に教わった知識も応用して農地の開拓にも励んだ。

 幸い領地は魔の森に近く、開拓が許されていた。

 王都のスラムの人達をもらい受け。

 彼らを厚く保護し森を開拓させた。

 切り出される木材は家にも木炭にも化けた。

 木屑はレンガの型に入れ固め、それらは冬の燃料に使われた。

 森からもたらされる恵みは全く無駄になるものは無かった。

 農地は広がり人は増えていった。

 男爵家は栄えた。


 そんなある日……

 アラン・ウィーク男爵が亡くなった。

 死因は過労だ。

 息子夫婦の死、王族の入学、孫達の事、領地や商会……

 彼は何もかも背負い過ぎたのだ。

 私は未亡人となった。



 私とアラン先生との間には一つの密約が交わされていた。

 二人の関係は白い結婚だった。

 子供達が成人したら、私にはかなりな財産と辺境にある小さな館が貰える。

 長男は帝国の騎士となり帝国騎士団に入り活躍している。

 来年には伯爵家の三女との結婚を迎える。

 長女は公爵家に嫁いでいった。

 私は長男に全てを引き継がせた。

 私が育てた優秀な執事や商会の重役達が益々男爵家を盛り立ててくれるだろう。


 さあ……

 私の役目は終わった。



 アラン先生……

 私はちゃんと出来たかしら?

 あなたのご恩に報えたかしら?


 私は小さな鞄を持って辺境に向かった。

 辺境の町で私は小さな学校を開き、字や計算を教えている。

 多くの平民は読み書きが出来ない。

 だから私は無償で彼らに読み書きを教えた。

 そう私の夢は教師に成ることだった。

 夢はかなった。


 長男と長女からよく手紙がくる。

 孫が産まれたこと、孫が大きくなったら孫を連れて来てくれるそうだ。


 ああ……


 私はなんて幸せなんだろう。

 こんなに幸せで良いのかしら……


 私は罪人だ。


 そう……皆様もお気づきだろう。


 妹を殺したのは私だ。


 私が好きだった庭師の孫が、妹に恋をした。

 黒髪で緑の瞳の背が高い人だった。

 私の事を綺麗だと、ただ一人誉めてくれた人だった。


 あら?


 アラン先生に似ているわね。

 アラン先生も元は黒髪だったし、緑の優しい瞳だった。

 妹を知る人は皆、妹が一番美人だと褒め称えた。

 両親の愛も私の財産も奪った妹。

 彼まで奪うの?

 私は妹を憎む様になった。


 そして……


 たった一回。

 私は妹の薬をただの風邪薬とすり替えた。

 店には風邪薬も置いていた。

 妹の薬と風邪薬はよく似ていたのだ。


 妹が死んだ。


 私が殺した。


 両親は一緒に死のうと言った。

 借金で首が回らない事に気が付いたのだ。

 私は家を飛び出し、気が付けば教会の椅子に座っていた。

 私を見つけたシスターが私を家まで送って下さった。

 そこで毒をあおって自殺した両親を発見する。

 両親は私を置いて妹の所に逝ってしまった。

 借金だけを残して。

 一緒に死のうと言ったのはせめてもの優しさだったのかも知れない。

 今となっては知るよしもないけど。






 ある日、彼が訪ねてきた。

 私の初恋の人。

 庭師の孫だ。

 彼らは腕が良かったので直ぐに他の貴族に仕えた。

 彼も腕の良い庭師になっていた。

 妹の葬式は質素で、家族内で済ませたから。

 彼の姿は見ていない。

 後で聞いた話では、妹の為に珍しい薔薇を求めて隣の都に行っていたらしい。

 墓参りに行くと花が添えられていたから、彼もたまに花を供えていてくれたのかも知れない。


「久し振りですね。お嬢様。すっかり年を取って誰だか分からないかもしれませんが……」


 戸を開けると、彼が佇んでいた。

 黒髪に白い物が交じり、目元や口許にしわがよっているが。

 確かに庭師の孫だった。


「ふふ……それはお互い様よ。私もすっかりお婆ちゃんになったわ」


 私は彼を招き入れた。

 応接室に案内して私は紅茶を運ぶ。


「ご免なさいね。生憎メイド達には休みを取らせているの。今日は花祭りですもの」


 ああ……


 そうだった。妹が死んだのも花祭りの日だった。

 妹の死を悼むように花びらが舞っていた。


「これは?」


 質素な応接室に彼を通すと。

 彼は懐から古い手紙と小さな袋を差し出した。

 妹が亡くなる数日前に渡された物らしい。

 自分が亡くなったら私に渡すように頼まれていたらしいが……

 彼が隣の都から戻った時には私は娼館に売られて、何処に居るのか分からなかったそうだ。

 すっかり黄ばんでヨレヨレになった手紙を受け取り、そっと撫でる。

 お姉ちゃんへ

 震える文字を指でなぞる。

 記憶の中の妹が笑っている。

 私は手紙を開いた。


『お姉ちゃんがこの手紙を読んでいるなら、私は亡くなっているのでしょう。悲しまなくて良いのよ。私は皆に愛されて逝くのだから。でも、心残りはお姉ちゃんのこと。ご免なさい。お父さんの愛もお母さんの愛も奪ってしまって。お父さんもお母さんも私には惜しまずドレスを与えてくれたけど。お姉ちゃんには三着の普段着しか与えてなかったわね。

 ご免なさい。私すぐ死ぬから許してね。高価な薬は風邪薬とすり替えたわ。それで彼に服と一緒に隣の都で売って貰っていたの。それを資金に彼と駆け落ちして。私が死んだらお父さんもお母さんもお姉ちゃんを愛するようになると思うけど、借金取りにお姉ちゃんが娼館に売られるかも知れない。だから逃げて。彼と幸せになってね。大好きなお姉ちゃんへ困った妹より』


 ポタポタと涙が零れる。

 涙が手紙を濡らす。

 私は妹に愛されていた。

 私は妹を憎んでいたのに……


「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」


 彼が私の側に来て、そっと背を撫でてくれる。

 ポツリポツリと彼が話してくれた。

 妹は私が彼を好きな事に気が付いて。

 彼に私と駆け落ちするように勧めた。

 妹も薄々気が付いてはいたのだ。

 自分に注ぎ込まれる膨大なお金に……

 自分のせいで姉が売り飛ばされるかもと危惧した妹は彼に珍しい薔薇を探させると称して、隣の都で自分のドレスや宝石を売って貰っていたのだ。

 妹は恋愛小説にはまっていて売り飛ばされそうになったヒロインを颯爽と助けるヒーローに憧れていた。

 自分の命を助けてくれるヒーローは現れないが。

 姉にはヒーローが要ると考えていたのだ。

 あの日も彼は妹から預かったドレスや宝石を売って帰ってきたら。

 何もかも手遅れだった。

 私は娼館に売られた後で、やっと見つけたら身請けの金は膨大だった。

 とても妹のドレスを売ったお金では足りなかった。

 彼は必死で働いてやっと身請けのお金が出来て、私を身請けしに行ったらそこに私は居なかった。

 男爵に身請けされた後だったのだ。

 彼は数年して小さな子供を連れた私を遠くで見かけたそうだ。

 幸せそうに笑っている姿を見て、彼は私に話しかけるのを止めた。

 平民と男爵夫人では身分が違いすぎるから……

 彼は今でも独身だと言う。

 弟子が家族だと言って笑った。

 私も生徒が家族よとお互い笑い合う。

 今日は花祭りなんだね。

 彼がポツリとこぼす。

 花の開花によって一月ほど祭りの日がずれる。

 男爵領は北寄りのため花祭りは一番最後だ。

 この地の花祭りを案内してくれないか?

 彼は笑い私に手を差し出してくれた。


 花祭り?


 何十年ぶりかしら?


 私は彼の手を取った。

 ゴツゴツした温かい大きな手だ。

 花祭りは子供達が小さいうちは何回か一緒に出掛けたが。

 子供達が学校の寮に入り、私も商会や領地の運営で忙しく見に行く事も無くなった。

 此方に来てからは花祭りの時は妹と両親の墓参りに行っていたから。

 花祭りを楽しむ気分ではなかった。

 家を二人で出ると花びらが舞っていた。

 まるで妹が笑って、私達を祝福してくれている様に……


 私……幸せになってもいいの?


 思い出の中の妹は静かに頷いていてくれた。






           ~ Fin ~




 ***********************

  2023/12/19 『小説家になろう』 どんC

 ***********************



 ~ 登場人物紹介 ~


 ★主人公

 2才年下の妹がいた。

 妹の借金のせいで娼館に売られるが、アラン男爵に身請けされ男爵夫人となる。頑張って男爵家を繁栄させた。

 義理の息子が成人すると引退して、領地に引っ込み無償の学校を作った。


 ★主人公の妹

 14才で亡くなる。


 ★主人公の両親

 病気の娘の為にすべての金を注ぎ込む。


 ★アラン・ウィーク男爵(享年76才)

 息子夫婦が事故で亡くなる。幼い孫の為に再び爵位を継いで主人公と結婚した。主人公とは白い結婚。

 某ホラーゲームの主人公から名をもじって使った。


 ★アランの孫

 長男と長女。主人公の愛情を受けてすくすく育つた。

 血は繋がっていないが、主人公を慕っている。


 ★庭師の孫

 昔は美少年だった。ただただタイミングが悪い人。

 主人公が好きだった。駆け落ち資金を工面してたら。主人公は娼館に売られ。身請けの金を工面して迎えに行けば、男爵に先をこされた。










最後までお読みいただきありがとうございます。

よろしければ、ブックマーク・感想・評価・誤字訂正お願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] う~~ん、悪女?
[一言] 庭師批判は分かるし親がクズなのは大前提としても、全ての原因は息子が残虐な人間であることに気付かず、その息子に孫娘のための資金を渡してしまった祖父と祖母にあるかなと。 金を扱う商人にしては無知…
[一言] 父母が最大の害悪なのはそれはそれとして、 本人が短命で且つ自分を優先するのをやめろとも言えない立場な上、親の目があるから姉との交流も制限される妹はまだいいにしても。 妹とは関わる傍ら、好きだ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ