15 冬物の服
さて、今日は王都の中の服屋街へと来ています。もうじき今年も終わりますから冬用の服が足りなくなってきたのです。雪こそ降ってはいませんがもう十二月。寒くて仕方ありません。
周りを見ても老若男女みな冬着です。翻ってオレも冬着を着込んでいます。月光のジャケットの下にはピンク色のふわふわセーター。そこへ厚め生地の白のロングスカートです。更に首には当然白のマフラーも掛けています。あとは……そうそうムーンライトスタッフは刀の様に腰へ差していますよ。これは大きいのでコンパクトサイズに縮めてね。
ええと、なんでいっつもスカートなのか? 元男ならそのへん嫌だったりしないのかって?
嫌じゃないよ。スカート可愛くていいじゃん。って言うか、むしろ美少女になったのにスカート履かなくてどうするんだって話だよ。
街中を歩いている時、男共の視線が突き刺さるのが快感なんだよ。そしてオレはこう思うわけだ。お前らにはこの娘はあげられないんだ。ごめんねー! ってさ。
だってアレだよ。この子はオレの言う事を聞いてくれる最高の女の子なんだよ! 手を上げたいと考えれば手は上がるし、走ろうと思えば走り出すんだぜ! すごいだろ? しかもパンツだって見放題!
なんていい女なんだオレってばぁぁぁぁ!
感極まったオレはそのままブルブル震えると、目を大きく見開いて自分で自分の体を抱きしめていたのだった。
◇
で、一軒の服屋に入ったわけですが、やっぱり王都にある服屋さんだわ。いい品揃えしています。値段もいい感じだけどね……。
服屋の中をあちこちと見て回ってるのですけど、ちょっと値段が良すぎて無理だってのが判る。だって、何処のブランド物かは判らないけど、パンツ一枚白銅貨五枚とかありえないんですけど!! それにセーター一枚で銀貨一枚と白銅貨八枚とかキチガイじゃないのかと!
ああ、ちなみに白銅貨は一枚日本円にすると千円くらい。銀貨は一万円くらいです。
上下の下着で白銅貨三枚。セーターなら一枚白銅貨五枚がいい線だろうに! いや、いい品物だとは思うよ。生地もしっかりしてるみたいだし、パンツの素材もシルクで履き心地は最高だとは思う。でもな、今のオレにそんな代金が出せると思うなよ!
勇者から貰ったお金袋の中身も残り少ないし。ステーキハウスの給金も日給月給だから月末までは貰えないんだぞ!
仕方が無い……別の店へ行こう……。でもあのシルクのパンツ履いてみたかったなー。買っても勝負パンツにしかならんと思うけど。
◇
うわあ、空がどんよりとしてきたなー。これは雪が降るんじゃないか?
店から表に出て空の色を確認すると空の色が変わってることに気付いた。これはきっと西高東低の気圧配置だなー。筋状の雲なんかあったら大雪警報とか出そうだよ。
寒いなぁ。と、とにかく隣の店へと入り……やっぱやめよう。ここも高そうだ。ドアの面構えで判る。ここは高い。
もう少しカジュアルな店は無いのか? ユ○クロとかさ!
そんな風に捜し歩いていると一軒のそれなりなお店に辿り着いた。王都の服屋街って言ってもすべてが高級品店ばかりじゃないからね。我々みたいな貧乏人にも買える様なお店だってあるのです。
よ、よし、このドアなら大丈夫だろう。
さあ入ろう。
やっぱ、白系だよなー。服を一着ハンガーから取り出すと自分の胸元に着けてみる。
オレの理想の女の子は白系の服を着こなす清楚なお嬢様だからなー。お嬢様のところは違うけど頑張って白系の服を着こなすんだ! ただ、着こなすにはオレの髪の色がネックなんだよね。白の服にクリーム色の髪じゃあコーディネートとしては面白くないんだよ。それに肌も色白だし。
だから靴は黒系にしてるんだ。あと、ワンポイントとかも黒に。ただ、やりすぎるとオレの求めている白系じゃなくなってしまい、気付いたら白と黒のコントラストになっていたなんてオチがついてしまうので扱いが難しいのです。
うんうんなんて頷くと、取り出した服を元に戻してまた服選びを始めた。
しっかし、このパンツの表に付いてる小さなピンクのリボンはいったい何なんだろう? パンツの棚に置いてある白のパンツを掴むとそんな事を思う。でも、このリボンが可愛くていいんだよなー。フワってスカートが捲れ上がった時に見えるパンツ。それに付いているピンク色のリボン。
うはー、こりゃあそそるぜ。
それに無邪気なフリをして体育座りの体勢で見えるパンツも得点が高いはず!
大事なところを隠すパンツの布の結合部分。オレはあのミシン目が大好きだったりします。あの部分最強だよなー。自分で体育座りをして鏡を見てもそそるもんなー。
でもね、パンツだけだとややパワーが半減するのです。やっぱりスカートを履いてその奥にチラリと見えるパンツが最高得点なんだよな。
もしかすると、鏡を見ながら自分で理想のパンチラの角度とかをさぐってる女子ってオレだけなのかもしれない!?
「えーっと全部で銀貨三枚と白銅貨四枚です」
一通り服を選んだので、それを持ってカウンターへ行くと店員のお姉さんに合計の料金を言われた。
持って行った品物は白い上下の下着セット三着、薄い灰色のセーターを一枚、黄色のセーターを一枚、ハートのワンポイントが可愛い厚手の白のフレアスカートを一枚、明るい白の膝丈スカートを一枚、最後に白の靴下を五足分。
まあ、これでこの値段なら妥当かな。
「はい。では……これで」
お金袋をごそごそやってお金を取り出し、カウンターへと置く。
ひーふーみーよー……うん。あるね。
「はい……。はい確かに。では袋にお詰め致しますね」
「お願いします」
いやー、買っちゃったー。予算銀貨三枚にしてたはずなんだけどちょっとオーバーしちゃったなー。でもいいか。ちょっとウキウキしてきたし。これは部屋に戻ったら着せ替えごっこしきゃなー!
◇
店から出ると白い物がチラチラとしていた。
普段の王都は冬と言ってもそこまで雪が降ることは無い。しかも振る事すらもまばらなんだから積もる事なんて滅多に無い。しかし地面は真っ白に覆われていたんだ。
ああ、雪振っちゃったかー。これは帰るのがたいへんだぞ。まだ昼時ですしもうちょっと見て回ろうかとも思ったけどやめておきましょう。
さてさてせっかく近くまで来たんです。ステーキハウスのマスターに挨拶でもして帰りますかー。雪だから暇でしょうからね。
まさか休日に仕事してくれなんて言わないでしょうから。
「おう、ミコ! いいところに来たな。ちょっと手伝ってくれ!」
店のドアを開けて中へと入るとマスターと目が合う。そして危険を感じて帰ろうとした矢先、先に言われてしまった。来るんじゃなかったか。
「あのですね大将。外は雪ですよ。なんでこんなにお客さんが居るんですか?」
「判らんよ。ただな、これだけ居ると忙しいのが判るだろ? だから助けると思って手伝ってくれよ?」
「はぁ、判りましたよ。ではエプロン取ってきますね」
「ありがてー! 休日出勤分にするから頼むわー」
はあ、オレってなんて人がいいんだろう。って言うかなんで立ち寄ろうかと思ったんだろう。まあ、仕方ないね。仕事ならそうと割り切ってやりますかー。ただ、夕方の五時なんていうと辺りは真っ暗だよなー。
雪と暗い夜道は嫌だなー。
◇
最後までやり遂げたオレはマスターからエールを一杯貰うとその足で雪道へと出たのだった。
降りしきる雪の中、暗いのでムーンライトスタッフの先端部を発光させ雪道を踏みしめる。
しばらく歩くとちょうど城門の閉まる直前で、閉められる前に出られた事は幸運だったみたい。もう五分も遅れてたら午後の六時の門限だったからね。雪道は時間がかかるなー。
とりあえず雪で寒い。凍えそうです。城門も出た事ですし精霊魔法を使いますか。
そう思うと風の精霊の力を借りてオレの周りに雪が来ない様に空気を動かす。そして火の精霊に頼んで周りに炎の玉を作ってもらった。
おおおぉぉ、暖っけー。寒さにブルブルと震えていたからだが段々と暖かくなってくる。しっかし、精霊魔法は汎用性が高いからいいよなー。何も攻撃するだけが魔法じゃないんだからね!
某ド○クエで戦い以外の日常生活に関する呪文がどれだけ少なかった事か……。建物から一瞬で出られたり、知ってる街から街へとワープする呪文は便利だとは思うけど、まあ、大雑把なのしかないんだよなー。
翻って、精霊魔法はとっても使い勝手がいいんだよー。大気から水を精製する事も出来るし、それを鍋に入れてお湯を沸かす事だってできちゃうんだ。だから家事にはもってこいの魔法だよ。
精霊魔法自慢を誰に聞かせるでもなく頭で考え込む。でも考えても前に進むわけじゃあない。とっととローレンスさんの家へと急ごうっと。
ああ、だいぶ手が疲れてきました。
じつは寒いのと同時に握力もなかったんですよ。右手にはムーンライトスタッフ。左手には買った服の入った袋。それらをずーっと掴んだままでしたから。もう痛くて痛くて。
だから、杖の発光部分を前にしてその後ろ側に袋の取っ手を括り付けて背中に担いでみる。これはさっきよりも楽かもしれない。うん。いい方法だわ。
ただ、格好悪いから人前では出来ませんね。
杖を天秤棒の様に担いで歩く事三十分。やっとローレンスさんの家へと辿り着きました。はぁ、もう疲れた。
炎の玉のお蔭で寒くはなかったですし、風で雪が来ない様に調整もしてましたからそれほどでもなかったんですけど、家の中へと入ったオレはエルさんからすぐにお風呂へと入れられてしまいました。
精霊魔法で暖もとったって説明をしても、風邪をひいたらどうするの!? の一点張りで。
雪かぁ、はあ、もう今年も終わりですねー。魔王を倒したり勇者にハブられたりとたくさんあったなー。今年は……。
暖かいお風呂に入りながらそんな事を思ったのだった。




