第九十話
コリドー・コネクターを作ったことで、スペースの問題が解決した。
……のはいいのだが、校庭を使う以上に周りの目を気にする必要がなく、しかも頑丈。
何がいいたいのか本当に簡潔に……容赦がなくなったのだ。
する必要がなくなったことは認めよう。
さらに言えば、今日は最終日だ。
いろいろな意味で調子に乗ったところで周りにばれないのだから、我慢する必要は皆無。
秀星としても一応それは認める。
「……すごいことになりましたね」
「だな」
コリドー・コネクターの内部のレイアウトはかなり自由だが、今回は、廊下から接続できる部屋の数は一つだけ、そしてとても広く設定できるようにした。
結果的に、いたるところで容赦のない魔法が飛び交うことに。
「そう言えば、アメリカの魔戦士は、銃の魔装具が発達しているから強いイメージがあったんだが……違うんだな」
「あ、いえ、イリーガル・ドラゴンの中でも、僕が率いている部隊を除けば、銃を持っている人ばかりですよ」
「そうなのか?」
「はい。ただ僕の場合、リーダーではなかったので支援金があまり来なかったこともあって、導入するにしても維持するにしても、コストがかかりすぎるんですよ」
「……」
銃と言うのは安い。
弾丸も大して高くはない。
アメリカと言うのはそういう国なのだが、魔装具となると話が変わる。
秘匿されるような技術を集めていて、それを使って作っている。
そういったもの達に取って警戒するべき部分は『解析されないこと』である。
いろいろ隠そうとしてまた変なパーツを付けて、そのパーツの金額が……みたいな感じだ。
さらに言えば、強化するためにモンスターの素材を使っているところもある。
モンスターの素材は供給が限られているのだ。
需要の有る素材であろうとなかろうと、それらのモンスターを倒すのにもまたコストはかかる。
そういった感じで、連鎖的に増えていくのだ。
「魔力をうまく流すのにはモンスターの素材の方が適してるからな……」
「普通の金属をそういった感じにコーティングする技術は今のところありませんし、あったとしても秘匿技術ですからね。モンスターから素材を手に入れて、それを加工して使う必要があります」
普通の鉄を伸ばして糸を作った場合と、モンスターからとれた鉄を伸ばして糸を作った場合では、圧倒的に後者の方に魔力が流れやすい。
親和性が高いと言えばいいのか、親和性は通常金属も魔物金属もほぼ同じで単純に『何か流れやすい』のか、それもまだ研究中だ。
付与魔法では限界がある。
通常金属だけで作った銃型魔装具が、魔物金属を使った魔装具に勝ったという前例はないようだ。
「まあ、このままでも強いから問題はないか」
「そうですね!」
★
その頃。
「フフフ。フハハハハハ!すごい力だ。力がみなぎってくるぞ!」
ローガンは溢れてくる力にハイテンションになっていた。
だがすでに彼は、人の形をしていなかった。
浅黒い肌。赤い瞳。なぜか純白の角。
背中からは翼が生えており、尻尾もある。
簡単な腰布を巻いただけの蛮族スタイルだ。
手足も人間のそれではなく、爬虫類というか獣というか、いずれにしても、ズボンがなくとも問題がないものになっていた。
「この力があれば、あの秀星であろうと倒せる。その暁には、やつのハーレムメンバー全員を嬲り殺してやる。ククク。フハハハハハ!」
重要なので一つだけ言っておくと、ハーレムを作ろうとしていたわけではない。
来夏は秀星を、メンバーとしてでもあるが、ある意味用心棒としても誘っただけであり、秀星にとっては、メリットを考えるとどこでもいいわけだが、雰囲気がいいと思って賛成しただけである。
あと……一名、人妻である。しかもゴリラである。いいのかローガン。
「さあ、今すぐ殺しに行ってやるぞ。朝森秀星!」
ローガンは翼を広げ、一気に飛び立つ。
そして、沖野宮高校に向かって一直線に飛翔。
一応補足するが、ローガンのこの翼は、彼が悪魔のような姿になったからといってすぐに扱えるようになるものではない。
人間はもとより翼を持たない生き物であり、翼を得たからと言って、すぐに飛べるわけではないのだ。
確かに、魔力を併用していることは間違いない。彼の重量や肉体の構造を考えると当然。
だが、その魔力を使うということも、彼が本来持っていた能力ではない。
初見で、鳥以上に自然に飛んでいる。
彼が才能に溢れた存在であり、天才と呼ばれる理由はここにある。
「もう見えてきたな。フン!」
ローガンは学校の校庭に着地する。
速度を緩めずに着地したこともあって、地面がひび割れ、大地が少し揺れた。
「ククク……さあ、秀星!ルーカス!今こそ貴様たちを倒してやるぞ!」
こだまが聞こえるのではないか、と思えるほど彼の声は響いた。
……誰もいない校庭に。
コリドー・コネクターがあるのは、実は生徒会室。
そこが一番いいと宗一郎本人がいったし、秀星としては、あったからと言って自由に使えるものではないので、誰がどこに持っていようと関係はないので肯定。
生徒会室にあるわけだが……当然、校庭からはどうしたとしても見えない。
「ん?お、おい。少し待て、確か合同訓練は今日までのはず。飛行機のチケットは夜だったはずだ。いないわけがない」
その通り。
「なるほど、僕の力は遠くにいてもわかるほど大きなものだったということか。すでにどこかに隠れているということか。ある程度、頭が回るようだからな」
一人納得するローガン。
まあ、遠くにいてもわかるのは事実であり、コリドー・コネクターの中は比較的安全なので、避難場所として最適であることも間違いではない。
だが、避難場所として使っていないことも事実である。
「朝森秀星!決着をつけるぞ!出てくるんだ!」
またもや響くローガンの雄叫び。
だが、誰も来ない。
様々な意味で遮断性の高いコリドー・コネクターの中にいる秀星。
彼の地獄耳を持ってしても、彼の声は届かないのだ。
「おい、待て、冗談だろ。おい!本当にいないのか!おい!」
届かない。
「早く出てこい!出てこないと、このボロ校舎をぶっ壊すぞ!」
校舎がボロであるかどうかはともかく、ローガンにそれを壊すような気概はない。
彼は親の威光で好き勝手やっていただけであり、小悪党すら名乗るのはおこがましい小心者である。
さらに言えば、とある技術によって今の体を手に入れ、それによって発生する副作用として、頭の中に悪魔の囁きのようなものが響くのだが、人の言うことを聞くのが嫌いなローガンに、そんなものは通用しない。
局所的に精神力が高すぎるのだ。
哀れな悪魔である。
彼のようなタイプは答えを直接与えるのではなく、ヒントを小出しして、本人がその答えに気がついたように錯覚させることが必要なのだ。
通常の人間は『何をすればいいのかわからない』という状況を嫌うし、すぐに答えを求める。だからこそ、悪魔の囁きというのはよく響くのだが、ローガンには通用しない。
「おい!本当にいないのか!本当に校舎を壊すぞ!本当に壊すからな!」
響く声。
届かぬ叫び。
「おい!おーい!頼むから出てきてくれ!お願いだ!これですでに帰っていたとか虚しすぎるだろう!出てきてくれええええええええ!」
下手に精神力が高いため悪魔の囁きも聞かず、だからといって本物の悪になれるほど黒さもない。
彼の叫び声は、ずっと響いていた。




