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第六十五話

「九重市で、行方不明者が出始めてるって?」

『うん。お父さん。警察関係者に知り合いがいるんだけど、そういった話が出てる見たい』


 秀星は夜に風香から電話がかかってきたので何かあったのかと思ったが、本当にいろいろあったようだ。 九重市は治安は別に悪いというわけではない。

 魔法社会的に見るとそれなりに評価を考え直す必要があるのだが、表社会においてはそうでもないのだ。

 行方不明者の件数に関していっても、かなり低いと言われている。秀星が知らないだけかもしれないが。


「どういう状況なんだ?」

『行方不明者と言っても、事情は様々なんだけど、魔法社会が関係しているのかどうかはある程度推測できるんだ。それで、魔法社会に生きている人間がいなくなっている見たい』

「……今までにこういったことは?」

『全くないって訳じゃないけど、それでも、全部解決してきたみたいだよ。確かにダンジョンはあるけど

本当に小遣い稼ぎにしかならないモンスターしか出てこないし、罠もない。私の実家の山にもいろいろ住んでいるけど、エイドスウルフやマクスウェルが住んでいるから間引きはしっかりされているはず』


 心当たりがないというのはよくわかった。

 そして、八代家の当主が思ったよりまじめであるということもよく分かった。


「……どれくらいの人数なんだ?」

『推定だけど、既に、五十人はいなくなってる』

「短期間で五十人……そもそも違和感がすごく出てくると思うんだが……メディアでもとり上げられていないし……」

『お父さんがメディア関係の組織に圧力をかけてる見たい』

「すごいな……」

『世の中お金だから』

「世知辛いな……」

『表社会と魔法社会では、お金の動く量が違うからね。魔法社会の中でも名家である八代家は、それなりにため込んでいるっていってた』


 それを秀星に言ってもいいのかと思ったのだが、別に狙うつもりはないし、そもそも、八代家の金を得ようと使う時間を別のことに使えばもっと稼げるだろう。

 狙う理由がない。


「まあメディア組織の話は置いておくとして……行方不明者か。誘拐事件の可能性は?」

『お父さんもその可能性を考えてるみたい。市役所に問い合わせてみたら、最近、外国の人がまとまった人数引っ越してきたって言ってた。全員が原因とは言わないけど、タイミングがね……』

「言い淀んでるってことは、可能性として考えてるけど証拠は何もないってことか」

『そういうこと。しかも、私たちがあの船から帰ってきてからなんだよ? 私も来夏さんからいろいろ聞いてるけど、アメリカが大失態だっていってたし……』

「状況証拠はそろってるって空気なんだな」

『そんな感じかな』

「まあ、俺の方でも調べておくよ」

『うん。何か分かったら連絡してね。それじゃあまた明日』


 通話終了。


「……この町で誘拐事件ねぇ」


 秀星は溜息を吐いた。

 まさか、自分の生活圏内でそんなことをする奴がいるとは思っていなかった。

 何が目的で誘拐しているのかは知らないが、お灸をすえる必要があるかもしれない。


 ★


「おい、魔戦士は集まってるか?」


 とある廃墟の地下。

 そこには、五十人近くの魔戦士が手と足を拘束され、目隠しと猿ぐつわをされている。

 老若男女、と言えるが、比較的若いものが集められているようだ。

 強制的に眠らされているのだろう。自然な感じではなく、死んだように眠っている。


「おう、これだけ集めりゃ、上も喜ぶぜ」

「だが、まだノルマの半分だ。しっかり集めていけよ」

「分かってるって」


 アメリカの魔法犯罪組織『サクリファイス』

 魔法社会におけるの人身売買組織として有名だ。

 クライアントから依頼を受けて獲物を確保し、数々の裏ルートを使って送る。

 何時の時代でもこう言った依頼はある。


「それにしても魔戦士かぁ……ちょっと前に性奴隷を集めるっつって女を攫いまくったが、あの時は面白かったな」

「クライアントも寛容な性格だった。何人か遊ばせてもらえたくらいだぜ。他はそんなことないからな」


 下衆な笑みを浮かべる二人の男。


「昔もいろいろやったな……そういや、あの上玉は何処に行ったんだ?」

「何の話だ?」

「いや、三年くらい前か?中学生を攫っただろ?ちょっと紫色の髪をしたやつ」

「あー。あいつか。あんな上玉はなかなかいねえんだけどな。当然とばかりにヤらせてもらえなかったし」

「カジノの景品になったって話だが、今はどうしているんだ?」

「知らねーよ」


 次に何を話すか。

 そんな雰囲気が流れていた時だった。


「世間が狭すぎるんじゃゴルア!」


 正義の味方の救出シーンとはとても思えない叫び声とともに、ドアが吹き飛んだ。

 二人の男はすごく驚いたが、そこはプロ。すぐに冷静になって武器を構える。

 どちらもアサルトライフルだ。

 ドアのところにいたのは、金色の魔法拳銃を構える少年。


「誰だテメェ!ここがどういう場所かわかってんのか!」

「どういう場所って……『サクリファイス』の仮拠点だろ」

「いやその通りなんだが、それが分かってきてるってことは、覚悟ができてるんだろうな」

「それはこっちのセリフだ」


 少年は魔法拳銃を構える。

 それよりも前に、男たちはアサルトライフルの引き金を引いた。


「「……え」」


 少年は、アサルトライフルがばらまく弾丸を全て、左手で受け止めている。

 そしてその上で、片手だけでお手玉をし始めた。

 百発近い弾丸。

 それも、魔装具として強化されたものだ。

 見た目は普通のアサルトライフルだが、強化がかなり施されている。

 男たちと少年の距離を考えれば、ダメージを覚悟で突撃できるものすらあまりいないだろう。


 だが、この少年は違う。

 全ての弾丸をを手に取ったうえで、それでお手玉をし始める。

 はっきり言って不気味だ。


「なあ。『ここがどういう場所かわかってんのか』って言うのは構わないけどさ。そっちも、一体誰を相手にしているのかわかっているのか?」

「はぁ?お前みたいなやつを俺達が知るわけがねえだろ」

「さっさと死ね!」


 別の銃をとりだして発砲する。

 だが、無駄だ。お手玉の玉の数が増えるだけである。


「……ど、どうなってんだ?」

「はっきり言ってふざけてもお前たちの相手をできるというだけの話だ。まあ、当然の差だ。本来なら君たちみたいな犯罪者は私刑ということで首を切っておくんだが、尋問とかいろいろあるしな。そう言ったことはしないでおくよ」


 あと、と前置きして続ける。


「俺の名前は朝森秀星。剣の精鋭の切り札だ。冥土の土産になることを祈っているよ」


 麻痺弾を二発分だけ撃つ秀星。

 二人の男はバリアを出現させたが、弾丸は『おっとあぶねぇ』と言いたそうに止まった後、バリアのない方に回りこんで首筋に直撃した。

 二人はそのまま倒れる。

 あくまでも麻痺弾だ。

 動かさないことを目的としたものであり、気絶させることを目的としたわけではない。

 しっかりと意識があるようだが、指一本たりとも動かせないはずだ。


「さてと、誘拐に関してはまだ行くところがあるか」


 スマホをとりだして電話し始める秀星。

 それを、二人の男は恐怖に満ちた目で見ていた。

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