第五百話
「面倒。というべきだな。最大火力要因が不在の状態だ」
「たしかにそうですね」
ユニハーズの拠点で、ロビーで話し合う二人。
アレシアとアステルである。
それぞれ、剣の精鋭とユニハーズのサブリーダーだ。
なお、剣の精鋭に関して言えばアレシアよりも強いメンバーがいるが、人事権を握っているのが来夏なので、来夏が決めた人選で進めることになる。
そして、どのようなメンバーの入れ替わりや強化があったとしても、来夏はそのスキルによって基本的に見逃さないので、人事的な部分で変更が必要となれば普通に通達するため、何も言われていないということは、言い換えればサブリーダーはアレシアで最初から変わらない。
「一応、基樹さんがいますから、軸としては彼になりますが……」
「すでにモグラたちを片付けに行ったからな」
すでに地中に行ってモグラたちを片付けている基樹。
元魔王としての出力を活かして戦っているが、その反面、二つ以上の戦場に行くのは無理である。
「基本的に、掃討するよりほかはない。ただし、あの隕石から漏れ出ているものをどうにかしない限り、いくらでも湧いてくる可能性は十分にある」
「そうですね。鯨を生み出していた壺ではこちらに被害が少ないと判断した瞬間に、すぐに切り替えてきました。ほかにも似たような壺は別にあって、そこにも突然変更することが可能でしょう」
「だが……私の眼は確かに深くにみることは可能だが、その代わりに範囲は広くない。そして、その範囲的な視点を持っているのは来夏だからな」
そして、その来夏は海のほうに行っている。
秀星と高志と来夏がいる時点で、それ以上の増援が不必要というのは悪い話ではない。
ただ、過剰供給だからだれかこっちに戻してほしいというのが本音である。
「モグラの討伐は基樹に任せておいて問題はないだろう。魔力量が膨大だから、燃料切れにもならないだろうしな。問題は、それが単なる対処療法でしかないという点だ。根本的に、ほかの壺を見つけなければ意味がない。それに……そもそも壺だけとは限らないからな。とにかく、大きくて判断ができないとなればそれを見ていくしかない」
「探索班と討伐班に分ける必要がありますね。ただ、そのほうが動きやすいメンバーも多いでしょう。そして、さっそく探索してもらうほうがいいですね」
「ああ。ところで……あの隕石、どうする?」
「破壊するかどうか。ということですか?」
「そうだ。まだ壊していないから、魔力が漏れ続けている。もちろん、漏れた先には必ず壺などが存在するはずだから、残しておくという方法は無視するべきではない、だが、『私たちが認識できない魔力』が漏れていた場合、それを私たちが確認することはできない」
「その可能性を考慮する必要がありましたね……」
「かなり重要な可能性だ。もしもその魔力を使うとすれば、そちらの魔力の先にあるものが本命のはずだからな」
「かなり厄介なものですね。ただそうなると……アステルさんを隕石の監視から離せなくなりますから、討伐班のほうの人数が減ります……」
どうしたものか、と唸る二人。
「……あのさ。剣の精鋭とユニハーズだけで戦わなければならないっていうルールはないんだよ?」
横からそのような声が聞こえてきた。
二人が見ると、そこには椅子に座ってこちらを見ている少年がいた。
「英司か」
「彼は?」
「『エボルート』というチームのリーダーだ」
「よろしく~」
手を振る英司。
「で、僕からも戦力を提供しようって感じだよ」
「実力は相当なものだ。見た目通り飄々としてるがな」
「紹介がひどいねぇ……それはそれとして、どんな敵だったとしても戦えるくらいの実力があることは保証しよう。で、どうする?」
「任せられる部分はその都度任せる。ただ、あまり引っ掻き回すなよ」
「アッハッハ!そんなことはしないよ。君らのところのリーダーじゃないんだからさ」
そこをつかれるとどうしようもない。と言わんばかりに黙るアステル。
「で、僕たちは基本的にどっちのほうがいい?」
アステルは少し考えた後、英司をまっすぐ見ていった。
「基本は探索班だ」
「オーケーオーケー。まあそういうと思ってたよ。まあ任せといてね。それじゃ」
そういうと、英司はドアから出て行った。
「……かなり、独特の空気を持っている人でしたね」
「そういう人、この辺りでは珍しくないというのがな……もう少し、平和に生きたいものだ」
溜息を吐くアステル。
アレシアは同情した。
そして、それと同時に同意した。
来夏にしても高志にしても、トップにこういうのがいるとなかなかメンバーが平和にならないのは事実である。




