第四百九十三話
隕石が来ている。
……別に問題はない。
そもそも、隕石は単体では『単なる物理的に直進するだけの超重量物質』に過ぎないのだ。
魔法という概念を使えば普通に回避、反射、高志の石頭での防御。可能なことはいくらでもある。
沙羅の転送魔法があれば、ピンポイントで座標を特定できれば全く関係のない場所に落ちる。
大きさがそこまでないのなら、海にでも誘導すればいい。
「考え直してみれば何も怖くなかったわ……」
「父さん。隕石くらいならワンパンで壊せそうだもんな」
「流石にそれは俺の拳が砕けるんじゃね?で、秀星はどの方法で防ぐべきだと思う?」
「……確保するか」
「え、できるのか?」
「魔法で情報をいじれば、降ってくる隕石を『俺の所有物』として扱えるからな。そうすれば、高速で移動中であったとしても、保存箱の中に収納できるからな」
「神器って思ったより反則だな」
「神器が反則なわけないだろ」
というわけで……。
「椿、風香。俺はちょっと隕石を回収してくるからまたあとでな」
「「え?」」
すっとぼけている二人を置いて、秀星は転移していった。
★
「隕石の回収に行きましたか」
セフィアは宇宙空間で隕石を操作している秀星を地上から見ていた。
今回、あまり呼ばれていなかったが、秀星から『集められる範囲で島の素材を集めておいてくれ』とのことで、保存箱の子機を持って集めている。
「フフフ。秀ちゃんは相変わらず滅茶苦茶ねぇ」
「!?」
セフィアは驚いた表情で振り向いた。
そこには、いつも通りの微笑を浮かべている沙羅がいた。
「……背後を取られたのは初めてですよ」
「そうでしょうねぇ。基本的にあなたは裏から補佐するのが役割です。ですが……私には通用しませんよ」
「ええ、想定していましたよ」
「フフフ。神器であるあなたなら、私がなんなのかがわかるでしょう」
「もちろん」
「いつ、それを秀ちゃんにいうのか、とても楽しみにしているのよ♪」
楽しそうな表情の沙羅。
しかし、それに対してセフィアの表情は硬い。
「そんな固くならなくていいわよ。言ったでしょ?私はそれを言うことを禁止してるんじゃなくて、あなたがどんな選択をするのかが気になっているだけよ」
「……私は、秀星様に尽くすだけです」
「ええ、そうでしょうね。神器として、それがあなたの存在意義なのだから当然よ。それに、いくつかまだ、秀ちゃんに話してないことがあるでしょ?」
「……」
「沈黙しても意味はないわよ♪私は秀ちゃんが考えていることが全部わかるんだから。だから、秀ちゃんが知らないということは、あなたが秀ちゃんに教えてないってことなんだからね」
セフィアも沙羅もわかっていることであり、そしてお互いに認識していることだが。
『秀星は、セフィアと沙羅に対しては隠し事が通用しない』ということだ。
隠し事ができないということはつまり、秀星が知らないという情報があった場合、沙羅から見れば『セフィアが教えてないから秀星がわからない』といえる。
セフィアは情報を小出しにするほうだ。
もっとも、それは秀星が強すぎる故、情報でハンデを負うためにセフィアに小出しにさせるように命令しているためなので、厳密には秀星が原因である。
もしもその命令がなかったならば、今頃秀星は、自分が抱えている秘密と、沙羅の重大な秘密、その二つを知っているだろう。
「……ひとつ言いますと、私は、秀星様がどこまで気付いているのかはわかりません」
「そうねぇ……ただ、私に関してはなんとなくわかっている部分もあるかしら」
「そうでしょうね。ああ見えて、秀星様は母性を求めていますから」
「フフフ、髪の色は私と風香ちゃんは同じだから、そこから派生した結婚なのかもね」
沙羅と風香はどちらも髪の色が緑である。
「……思えば、椿様のあの髪に交じっている緑の部分は、沙羅様なのでしょうか、風香様なのでしょうか」
「私にもわからないわね。案外、高ちゃんが隠し持っていた遺伝子かもしれないわよ?」
なにその設定。
というかいずれにしても、高志の遺伝子強すぎである。
「五年間、異世界にいたみたいね。あなたは何年一緒にいたのかしら」
「私は異世界で三年半ほどですね」
「なるほどね。なら、まだまだあなたも、秀ちゃんのことはわかってないと思うわ」
「?……どういうことですか?」
「世界の秘密を探っていくとね。秀ちゃんの秘密にも近づいていく。ということよ」
「……覚えておきましょう」
「フフフ、いずれ、すべては必然になるわ」
微笑を浮かべたままの沙羅。
そこにあるのは、好奇心。
「……これは秀星様が言っていたことですが」
「何かしら」
「『例え神の言葉であろうと、『必然』という言葉を使うと軽くなる』だそうです」
「面白いことをいうのね」
「そうですね。秀星様はこうも言っていました。『世界には七十億人の人間がいる。今から一秒後、すべての人間が自分に関係があること、またはないことを証明できる人間はいない。ならば、自分の中の必然は、七十億分の一に満たない』だそうです」
「フフフ。面白い例えね」
何もわかっていないのに『必然』という言葉を使うのは視野が狭いということだ。
「意外と秀ちゃんは厨二病なのねぇ」
「抽象的なことを想像するのはだれにとっても楽しいことです。ただ、それが爆発しただけでしょう。秀星様の想像は止まらない。止まらないうえに、数々の手段を、情報を、知識を手に入れる。だからこそ、『最強』なのです」
「……いい話ができたわ。最後に一つ聞いておくけど、秀ちゃんは何か、戦闘において『確実に相手を倒す』ための手段を開発しているのかしら」
「聞いたことがありますが、いたってシンプルなものでしたよ」
「……フフフ、そこまで聞けただけで十分よ。また話しましょう」
そういうと、セフィアが瞬きひとつする間に、沙羅はいなくなった。
「……私の意志と契約は変わりませんよ」
「あの日、唯一神秀星様と、契約した時から」




