第四百九十話
「おお!すごいです!」
中央移設の市場は本当に大きい。
大きな広場が用意されており、その中で様々なブースが存在し、商品を販売している。
「……確かに、売られてる商品の質はすごいね」
「中には、連なるように三面をとって、巨大な商品を扱っている場合もあるみたいだな。収納型の魔法具をほぼ全員が所持している。というのが前提になっているような売り方だが、まあその方が効果的なんだろうな」
「え、収納型の魔法具ってそんな簡単に作れるの?」
風香は驚く。
沙羅の近くにいると、転移や転送など、距離だとか時間だとか全部笑い飛ばすようなことによくなるのだが、一般的な視点に立ってみれば、そのような収納型の魔法具が簡単に作れるとなれば、物流状況が一変する。
「やろうと思えばできるんじゃねえの?第一、日本には『工場型の神器』があるんだからな。材料さえあればいくらでもつくれる」
「ああ、『ウィズダム・プラント』か。誘われたことあるけど蹴った記憶があるな」
神器の工場があるというのは事実だ。
それに加えて、『ウィズダム・プラント』は上位神の神器なので、日本中の魔法具作成に耐えきれるスペックを持っているだろう。
確かに作るのは難しくない。
「あ、お父さん!すごくおいしいホットドッグが売られてますよ!」
いつの間にか忽然と姿を消していた椿が、大量のホットドッグが入った袋を抱えてこちらに走ってきた。
(((……そういえば大食いだった)))
食べ盛り、というのはまだ理解できるし、そもそも魔戦士は運動量がすごいのでカロリーの消費が激しいのはわかるのだが、それと比べても椿が食べる量は多い。
とても美味しそうに食べるので見ているぶんにはいいのだが、大体は山盛りなのだ。
とはいえ、未来の朝森家が金欠になっているとは到底思えないので、食費に関しては問題なさそうだが。
……ただ、大食いなのは高志も同様。
しかも、多いと言っている椿の三倍は食べるので、議論したところで無駄である。
「で、秀星から見てどう思う?この市場のレベル」
「……ユニハーズの拠点周辺と比べて、各ランクにおける入手難易度に違いがないとすれば、すごいと思うところはいくつかあるな。ただ……どこにでもバカはいるんだなって思った」
秀星の目線の先にあるのは、市場の中央に存在する一番大きな建物だ。
一見、運営している者たちが集まっているのかと思ったが、そんなことはなく、きちんとした店だった。
しかし、対策といえるようなものがほぼ存在しないのである。
建物の頑丈さがそこそこある……要するに物理的なセキュリティはそれなりのレベルだが、透視などをはじめとする魔法に対するセキュリティがほとんどないのだ。
「ひょっとして、この島にも貴族みたいなのがいるのか?」
「いるんだよなこれが」
「こ、この島にもいるんだ……」
「あの中央にある店には、そういったやつらがいるわけだ。とはいっても、ユニハーズには手を出してこねえけどな」
「いったいどうし……あ、沙羅さんが怖いんですね」
「そういうこった。ほぼ、どこにでも転移できるといっていいレベルだから、基本的に弱みを握られてないやつっていないわけだ」
「ただ、ここにいる連中はあまり気にしてはいないようだな。純粋に母さんよりも交渉力が低いってだけで、悪いことはしてなさそうだ」
「そりゃそうさ。本当に強いやつはな。悪いことなんてしなくても普通に稼げるんだよ。周りよりも圧倒的だからな」
理不尽な話だが、大体そういうものである。
「貴族ねぇ……」
別に秀星は貴族だからと言って否定するわけではない。
だからこそ、何をしているのかで決めるのだ。
「実力で駆け上がるやつしか周りにいないのに、血筋だけで生きるっていうのは難易度が高すぎると思うんだがな……」
貴族が力を持つのはその権力が保障されているからである。
そして、その権力を保証しているのは『国』であり、『王』だ。
秀星は別に、その権力を前面に出して何かをするのは別にかまわないと考えている。
その発想がないのが逆に危険だからだ。
権力に暴力が伴っていないと、人は動かないのである。
「まあ、あの様子なら自滅するだろ。貴族なんて言うのは、周りに人がいないと何もできないからな」
「人を味方につけることができる政治家なんているのかね?」
「……いろいろ条件があるが、できないことはないぞ」
「そうか?」
「『人が心の奥でリーダーを求めているのだということを理解する』『二つ以上ではなく、明確な一つの敵を作る』『大声で、同じことを何度も言う』……みたいなことを徹底すると、人は大体ついてくる」
「なるほどな……ってそれヒトラーじゃね?」
秀星は高志の返答に本気で驚いた。
ついでに言うと風香と椿も本気で驚いた。
「……なんだその顔」
「いや、まさか父さんがわかるとは思ってなくて……」
「失礼にもほどがあるわ!」
意外と理解している部分がある様子の高志。
まあ、とても市場で話すような内容ではないが、ふと、高志にも知識的に感心できる部分があるのだと思う三人であった。




