第四百八十六話
ユニハーズが活動するこの島では、定期市が開かれる。
圧倒的な面積が存在するので、すべてを個人や一つの組織で集めるなど不可能なことなのだ。
それぞれのリーダーたちは高志を筆頭に負けず嫌いが多いので、競争意欲も高い。
基本的には、朝森家の悪魔である沙羅が向かうことになっている。
転移、転送に関しては秀星ですら到底及ばないレベルなので、まあ大体どうなっても問題はないからである。
ただし、今日は違った。
「お父さん!肩車してください!」
「未来の俺はどんな教育をしてるんだろうなぁ」
椿はとてもきれいな瞳で肩車をねだり、そしてそれにこたえる秀星。
「フフフ。かわいい子に育ちましたねぇ」
「なんだか、想定以上に素直な子だね」
沙羅は微笑み、風香は若干言葉を失っている。
「ハッハッハ!まあ、たまにはこういうのもいいじゃねえか」
高志はただ笑っている。おそらく何も考えていないのだろう。
……といった状況である。
秀星、風香、椿、沙羅、高志の五人で向かうことになった。
本来は沙羅だけで行くのだが、椿が「私も行きたいです!」と言って、沙羅がうなずくと、「お父さんとお母さんも一緒に行きましょう!」といって、秀星と風香は断る理由がなかったのでうなずき、高志がフラッとついてきた。という状況である。
「それにしても、定期市か。常時開かれていないってことは、何か問題があるのか?」
「いや、単純に維持が面倒っていうだけの話だ。地中にどんなモンスターがいるのかわかんねえしな」
「それもそうか」
秀星の頭をなでながら嬉しそうにしている椿を尻目に、秀星は高志に質問すると、すぐに答えは返ってきた。
確かに、基本的に考慮すべき問題である。
地中に生息するモンスターの生息区域はそれ相応に広い。
しかも、地中ゆえに、前後左右だけでなく、上下にもその範囲が存在する。
場所をある程度特定しておき、そこで短時間で場を設けるのが効率的だろう。
「えへへ。未来ではあまりみんなで買い物をすることがなかったので、楽しみです!」
この言葉に対しては、四人は『なんかごめんなさい』と思った。
どうやら、買い物にはそこまで行っていないらしい。
おそらくダンジョンにばかり入っているのだ。
思春期の娘に対するものではなかっただろう。
「……まあ、買い物に行くのはこれからするとして……どっちだっけ?」
高志がそんなことを言い出した。
「……このまままっすぐ行けば指定位置だぞ」
「そうだったっけ?」
どうやら全く記憶にないようだ。
まあ、想定通りだが。
「ふーむ……なるほど、まあ、それなら問題ねえな」
高志は不敵な笑みを浮かべてそのまま歩いて行った。
★
ユニハーズが活動する島では、ユニハーズが経済的にトップに君臨している。
基本的に沙羅が相手の弱みを握った結果だが、それでも、経済的にトップに君臨していることに変わりはない。
ただし、基本的に法律というものが存在せず、暗黙の了解で成り立っているのが現状である。
別にそれが悪いというわけではない。
悪い方向に進むことはあるが、悪いことではない。
「おい、今日はあの悪魔一人じゃねえ見てえだぜ」
こんなご時世だ。
暗躍、暗殺を行う者というものは実はどこにでもいる。
フードをかぶり、身を隠している彼らも、それらの一つに過ぎない。
「で、どうする?」
「リーダーは論外だ。あいつはどうにもならねえ。そして、秀星ってやつもだめだ。あの高志と沙羅の息子。そして、日本本州では『世界一位』なんて言われてる。どう考えても普通じゃねえ」
「じゃあ、あの嬢ちゃん二人か」
「ああ。どっちも警戒心はそこまで育ってねえみたいだな。厳密には、肩車されてねえほうは育てられてはいるが、鈍ってる見てえだな」
「となると、あの肩車されてる嬢ちゃんってことになるが」
「よりによって肩車してるのが秀星ってのがな……」
「どうする?」
「撤退だ」
「いいのか?」
「ああ、この状態ではだれも狙えん。あと……秀星がこっちを見ている」
「「「了解」」」
彼らは『やらない』という選択肢をとれる。
ユニハーズを筆頭に、この島にいる組織はリーダーを除けば平均戦闘力が変わらない。
それに加えて、組織力も同等だ。
言い換えれば、だれもかれもが、無理に攻める必要がないのである。
膠着状態といわれて否定することもできないのだが、無駄な争いがない分、問題はない。
空気の読めないバカは狙いやすく、処分しやすい。
最も、今回に関しては沙羅も自重するだろうというのが見た限りの判断である。
ただ、暗殺者たちにもわからないことが一つあった。
『あの肩車されている嬢ちゃんが、秀星をお父さんと呼び、風香をお母さんと呼ぶのはなぜなのだろう』




