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第四百八十四話

 夕食だが、ユニハーズでは決まったメニューと言うものがなく、沙羅が全員がお腹いっぱい食べられるだけの量を一気に作り、それをビュッフェ形式で食べるのだ。

 信じられない話だが、『高志の妻で秀星の母』と聞くとなんだか普通のことのようにも思えるのだから不思議である。


 魔戦士と言うのは基本的によく食べる。

 体を動かしまくっているのだから当然だ。

 そして、沙羅が作る料理はどれもこれもおいしいので、みんな本当によく食べる。


 で、その中でも椿はよく食べる子のようだ。

 山の様にスパゲティを皿に盛りつけている姿は、『それ食いきれるよな』と秀星が動揺しながら見ていたくらいである。

 まあ、何の問題もなく食べていたわけだが。

 なお、椿にとって沙羅は祖母に当たるわけだが、『おばあちゃーーん』と言いながら走っていって抱きつくような子なので、沙羅との第一印象は最高である。


「そういえば、椿ってどれくらい強いんだ?」


 高志がそんなことを呟いた。

 椿が『!』と反応する。


「そうですねぇ……お母さんよりも強いですよ!」

「……へぇ」


 風香の顔がちょっと怖い。

 まあ、自分よりも体格の小さい娘に言われると思うところはあるのだ。当然である。


「なら、ちょっと二人で戦ってみろよ。そうすればわかるぜ!」


 来夏がそういった。


 ★


 剣の精鋭やユニハーズに所属していると、『考えたならやれ!』みたいな精神が身につく。

 晩御飯を食べて少し時間をおいて、その後でユニハーズの拠点の中にある訓練所に入った。

 かなり頑丈に作っていることが傍目でもわかるほどの素材で壁ができている。


(……一体、こんなアホ見たいな部屋で普段は何をしてるんだろうな)


 そう思った秀星である。


「というわけで、木刀を持ってきたぜ」


 高志が木刀を二本持ってきた。

 それを風香と椿に渡した。

 二人はそれを受け取って、部屋の中心に行く。


「あ、秀星、審判やれよ」

「何で俺が……まあいいけど」


 高志の提案にうなだれながらも、審判ができる位置に立つ秀星。


「フフフ、懐かしいですねぇ。未来でもよくこうして戦ってましたよ!」


 秀星はそれを聞いて、なんとなく状況を察した。


「……てことは、そうやって戦って風香に勝ったってことか?」

「その通りです!」


 椿は木刀を構える。

 それを見ながら、風香は先ほどまでの怖い表情ではなく、優しい表情になった。

 なんとなく、未来でどんな感じだったのか、その状況を察したのだろう。


「じゃあとりあえず、どちらかが降参って言うまでだな。この部屋では、ダメージを与えた時、それを外傷ではなく魔力の減少に変換されるようになってるから、まあある程度ならお互い全力でやっても問題ないぞ。基本的に攻撃に禁止事項はない。ということでいいか?」

「わかった」

「分かりました!」


 というわけで。

 秀星は手を上げた。


「それじゃあ、始め!」


 秀星が合図をすると同時に、椿が突撃した。

 思っていたより早い。

 そして、走りながらも木刀に風を纏わせていく。


「『神風刃(しんぷうじん)竜巻砲(たつまきほう)』!」


 引き絞った木刀に纏わせた風が、椿が木刀を振り払うと同時に全面的に前に押しだされる。

 ただ、椿は気が付いていないようだ。


「『旋風刃・波紋標(はもんしるべ)』」


 水を纏った。

 その木刀を振ると、向かってきた膨大な風は、その力を失っていく。


「!?」


 驚愕している様子の椿。

 椿が放った『神風刃』というものだが、おそらく旋風刃の強化バージョンなのだろう。

 だが、練度が足りない。


 膨大な風が吹き荒れていたのに、もうすでに静かなものだ。


「む、ならば、普通に攻めます!」


 剣術勝負で行こうとしているようだ。

 まあ、それはそれでいいのだが……。


「フフフ、かかってきなさい」


 風香はまるで、沙羅のように笑った。

 木刀を使って、椿の木刀を全てさばいていく。

 椿の剣は、椿の見た目通り素直なものだ。

 しかも、『神風刃』の強化を普段からしているためか、剣術の方はあまりバリエーションが多くはない。

 弱くはないのだが……。


 ……とはいえ、身長百五十センチの小柄な体格で、とてもきれいな瞳をしているので、見た目通りの強さ。と言われればそれまでだが。


 椿の木刀は風香に全く当たらない。


「む……むむ!?」


 椿も『何かがおかしい』とは思い始めているようだが、それでも、全然当たらない。


「むむ……お母さん!守ってばかりでは勝てませんよ!」

「そうだね」


 次の瞬間。

 風香は怒涛の勢いで木刀を振って、椿をどんどん後退させていく。


「うわわわ!」


 慌てたように木刀を振って風香の木刀を弾いていく椿。

 しかし、余裕がないのは明白である。

 風香はまだニコニコ微笑んでいるので、そっちはまだ余裕があるようだ。


(かなり手を抜いてるなぁ……)


 秀星は風香を見てそう思った。

 まあそもそも、未来で風香が椿に対して本気を出すなどと微塵も思えない。

 そして、たまには負けてやるというのが母親と言うものなのか。

 まだ素直な性格の椿。

 裏のこと、未来の秀星も風香も全く言わないだろう。


(これが、未来でねぇ……)


 たまに攻めるのをやめて受けに回ったりして、椿に攻撃をさせている風香。

 赤子の手をひねるかのように戦っているが、おそらく、風香もこうして木刀を振りあって『理解』したのだ。

 椿は、自分と秀星の娘なのだということに。

 秀星ほどの観察眼も知識もない風香だが、こうして戦えばさすがに分かる。


(素直に、純粋に、両親を目指してるんだなぁ……)


 時々、『むうううう!』とか『うにゃあああ!』とか唸っている椿。

 まるで騒がしい小動物である。


(まあ、そのうち止めるだろ)


 スタミナを鑑定した結果。風香の減少速度はそうでもないが、椿はかなりはやい。

 技術的な部分はまだまだである。



 高志と来夏も、これに関してはなんだか見守っておこうと思えるのか、何も言ってこなかった。


 戦った後の風香の感想は、『椿ちゃんかわいいね』である。

 椿が風香に本当の意味で勝てるのは何時になることやら……。

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