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第四百八十話

 脱線し続ける秀星とアステル。

 まあ、他のメンバーが疑問を普通に口にするタイプであり、それに対して何らかの答えを出すことができてしまうのが秀星とアステルの二人である。

 だがしかし、それでは話が全然進まない。


 結果としてどうなったか。

 別の人間が説明すればいい。

 当然のことだが、プレゼンテーションを行うとき、最も知識量が多い人間が喋らなければならないというルールはない。

 もちろん、数々の質疑応答に対する返答は必要だが、こちらはある程度想定できる。

 秀星とアステル以外の人間が説明すればいいというだけの話である。

 二人共、喋るのは下手だが資料を作るのは上手なので。


 そんなわけで、凛名がかわりに説明していた。

 ちなみに、秀星とアステルは『プレゼンタークビ』と書かれたダンボールの上で正座である。


 ★


「おらあああ!」

「素直だなぁ」


 ユニハーズの拠点に存在するトレーニングルーム。

 様々な機材と広い空間。そして、頑丈な壁が特徴の部屋である。


 そこでは、アステルが見守る中、秀星とオウガがお互いに自前の剣を手に戦っていた。

 岩石で作った板。と形容していい大剣を振るうオウガだが、秀星が細めの長剣であるプレシャスを構えて受け止めるとなんの抵抗もなく止まっている。

 体積的にありえなさそうな光景だが、秀星のことなので、何か別に力を使っているのだろうと納得できるのは毒されている証拠だろうか。

 それとも、高志と普段から活動している故に常識という言葉を信用しなくなったのか、まあいずれにせよ、無駄な質疑応答がないのはいいことである。


「なかなかそっちも頑丈じゃねえか。かわされるのならまだしも、普通に止められるとは思ってなかったぜ」

「俺としても、そんな大剣を高スピードで振ることができるのは、来夏くらいだと思ってたけどな」


 大剣を弾きながらそんなことを言う秀星。

 お互いに本気ではないが、秀星が押し込んでいる。

 実際に、最初にお互いに剣を構えた位置の中心を軸にするならば、そう言えるだろう。


「おらっ!」


 オウガは剣を振るうが、その全ては秀星に簡単に弾かれる。

 オウガの剣速は悪くない。

 なかなか理不尽な性質をしている高志のそばにいても大丈夫だといえるほどの実力はある。

 だが、秀星にはほとんど通用しない。


「なんでこんな簡単に弾かれるんだ……」

「……なるほど、『わかりやすい』からだな」


 見守っていたアステルがそう言った。

 だが、オウガはわかっていない様子。


「わかりやすいって……どういうこと?」

「まあ簡単に言えば、ちょっと観察して、そこから推定した通りの情報で剣が来るんだよなぁ」


 オウガの質問に対して、秀星はそういった。


「推定どおり?」

「ああ、人間は、自分が考えた通りのイメージをそのまま再現するのは難しい。だから、同じように剣を振ったとしても、全く同じにはならないんだ。鏡の前で何度も素振りをしてフォームチェックしたとしても、俺くらいが相手になると、全く同じって難易度がすごく高い」


 簡単に言うと、違和感である。


「で、その凄い技術をどうやって使っているのかと思ったんだが、それがわかった。そのわかった結果を基にして考えたんだが……アステルとオウガって、『ゲーム転移』だろ」

「「!?」」


 秀星の指摘に驚く二人。

 彼らにとって真実であり、そして、なぜばれたのかがわからないことだった。


 ゲーム転移。

 簡単に言えば、ゲームをプレイしていて、何らかの原因で、使っていたアバターの姿で転移する。というものである。

 多くは高レベルで転移したり、自分が持っているシステムを理解したうえで転移するため、基本的に強者である。

 アステルは鑑定に優れており、オウガは純粋な戦闘力……こちらはまだ切り札を残しているようだが、ともかく、それぞれがプレイしていたゲームのほぼ最高レベルで転移してきたのだろう。


「俺がそう考えた原因だけど、二人は魔力のとある使い方をしているんだ」

「とある使い方?」

「魔力は『再現力』という使い方がある。まあ、あくまでも俺がそう呼んでるだけでほかに言い方があるのかは知らないけどな」


 秀星は剣をひっこめると、両手を合わせる。


「基本的に、情報だけしかないそれを現出するための魔力のことだ。まあ見ていてくれ」


 手を左右に広げていくと、白いものが手と手の間を流動している。


「まあ、ぶっちゃけてしまうとこれのことなんだが、実は、これを作って、それを行使するっていうのはすごく難しい。で、二人はそれを無意識に使ってるんだ。何かあるんだろうなって思いながら見てたら、その再現力を使って何を再現しているのかを見ていたけど、アバターを再現し続けているんだなってわかった」

「ちょっとたたかっただけでわかるのか」

「いやまあ、暇つぶしに、『もしもゲーム転移が技術的に可能ならどうすればいいんだろうな』って考えたことがあって、その結果いきついたのが再現力だったってだけだ。コスパが悪すぎて俺はやらないけど」

「それだけすごいのか?」

「すごいぞ。再現力を使いながら適当な漢字を見れば、それを再現可能だった」


 二人は『そこまで……』という顔になっていたが、これを発見した時は秀星も驚いた。

 転生や転移だとか、そういった『死んだ者の魂を転生させる』という、現実に存在する命に関する大規模な転移は神が適当にやっていると思っていた。

 そして秀星の価値観は、『神という概念は人間の限界』というもののため、『神にできるなら人間にもできる』ので、すなわち『人も人を転生させることができる』という結果に行き着いた。

 事実として、秀星は技術的に転生は可能である。

 神々が決めている法律的に面倒なのでやらないだけだ。


 ただし、ゲームのアバターのような、実際には肉体としては存在しないものに対してどのようなメカニズムが存在するのかがわからなかったのである。

 秀星としては大変うれしい結果だ。


「ちなみに、転生とかをはじめとした魂の操作はほぼ神にしかできないけど、再現力は自然界に存在するからな」

「要するに……私たちがゲーム転移された理由はまだ不明ということだな」

「そうなる」


 謎が多いようだ。

 まあ、それは最初から分かり切っていたことだが。


(この様子だと、ほかのユニハーズのメンバーにもいろいろ秘密がありそうだ……一番ありそうなのが父さんっていうのがなぁ)


 朝森家に対していろいろ思うことがある長男であった。

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