第四百七十九話
「で、あの船が二万年前に沈んだってどういうことだ?」
高志が聞いてくる。
ユニハーズの拠点のロビーは広い。
が、今集まっているメンバーは、秀星とアステルがプレゼンをするとしても、他に二十人以上いる。
そのため、ロビーで丸く並んで説明するとなかなか地獄である。
しかし、プレゼンテーションのための大型の部屋を使うような人数ではない。
ただ、高志はこういうときはそういう部屋を使いたがるのだ。
そしてそれに来夏が同意したのだ。
多数決の結果、賛成ニ、棄権大勢で入ることが決定したわけである。
絶対王政とほぼ変わらない気がしなくもないが、剣の精鋭とユニハーズでは気にしたら負けである。
「二万年前、と具体的な数字を出したが、そこに大きな意味は含まれていない。重要なのは、そこまで昔なのに、一体どこにそんな技術力があったのか、という点だ」
今全員が気になっているのはそこだろう。
別にこの数字が一万年前だろうと十万年前だろうと、よほどの事前知識がなければ結果は変わらない。
「だな。で、どうしてそんな昔に、魔法文明が発展してたんだ?」
「まず、魔法文明という視点で見たときに、一番考えなければならないのは魔物の存在なんだよ」
秀星はスクリーンに【まず最初にモンスターが原因を考える】と表示させた。
「モンスターが?」
「基本的に魔法文明は、モンスターが最初にその基盤を作る。モンスターの中にも組織行動をする種族はいるし、そうした種族が何らかの外的要因で絶滅したとき、外から入ってきた人類がその文明を利用し、発展するというケースは珍しくない」
多くのものが首をかしげている中、基樹が無表情のところを見ると、元魔王である彼にとっては『常識』のようだ。
「もちろん、『モンスターが作った文明を人間が利用することなどできるのか』という疑問が出てくることは分かっている。だが、『それでもそれを使おうとする』のが人間で、自然にできたものだろうと、他人が作ったものだろうと、基本的に利用できそうなら積極的に使っていこうとするのが人間だ。明確に人類に危害を加える文明は珍しくない」
それから、とアステルは続ける。
「モンスターはよほどの知能と技術がないと、人間を捕縛・迎撃できる罠は作らないから、基本的に人は入っていくんだ」
「え、そうなの?」
「実際に森にでも入ってみればわかるが、基本的に自然界に存在する動植物は、その縄張りの範囲にいる相手を意識したものになっている。動植物が人間を観測し、そしてそれを脅威と理解し、人間に対抗するための進化を遂げなければ、人類に対抗することが可能な罠を作ることはできない」
「え、でも、高いランクのモンスターが出てくるところでは、罠での死亡事故だってあるよね」
「それは単に、『その地域でのモンスターの危機感知力』が『油断している人間の危機感知力』を上回っていた場合がほとんどだ。基本的に、人を殺せない程度の罠でしかない場合が多い」
秀星は手をとりあえず叩いた。
全員が秀星を見る。
「話を戻すか。で、そのモンスターが作った文明を利用することで、昔の人間はモンスターが使うモノを利用しはじめる。その結果、『魔法を主に使うモンスターの文明』にひっかかる部族たちが現れる。これが魔法文明の始まりといわれているんだ」
「モンスターって昔からいるんだね」
「人類がそれらを利用・管理し始めたことで表に出なくなってきたっていうのはある」
そして、もう一度秀星は手をたたいた。
「で、あの船にその話がどうつながっていくのかって話なんだが、その魔法文明の中でも、『海上都市』に特化した文明を作り上げたものが作り上げたものだ」
「そんな都市があるの?」
「アトムに頂上会議の書庫を見せてもらったら記述があった」
秀星のこの言葉に対して、『え、おまえってそこに入れるの?』といいたそうな眼をした者が何人かいたが、まあ、そこは指摘しても仕方がないのでスルー。
「現在はもう滅んでるけど、実際に存在したという証拠もあるらしい。証拠品の保管庫も見せてもらったし、間違いない」
「秀星、結構いろんなところに入れるんだな」
「持つべきものは権力を持った友人だ。まあそれはそれとして、海の上に都市を作る。という技術を確立させたものが、あれを作り上げたのは間違いない。実際にそれらを証明できそうなものも見つかった。ここでみんなに見せても多分さっぱりわからんだろうけど……」
とまぁ、こんな感じで説明は進んでいく。
ただ、秀星とアステルには致命的な欠点があった。
脱線が多すぎる。という点である。
二人とも無駄な知識を詰め込みまくった結果こうなったといえるのだが……どうにもならないものである。




