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第四百七十六話

「ここが調理場のようですね」

「調理器具が全部ばらばらになってる……」

「ずっと海底にいたんだから、そりゃ錆びまくっているだろうし、無理矢理に引き上げたのならそりゃそうなるだろうな……」


 凛名、風香、羽計の三人は厨房とそこから続く広いホールの様子に愕然としていた。

 当然のようにすべてばらばらである。


「……ていうか、よく船の中の水を抜けたよね」

「来夏曰く、『船をシェイクした』そうだ」

「……普通に考えて、大量の海水が入ったボロボロの船をシャカシャカしたら、船がバラバラになるんじゃない?」

「いえ、普通に考えて、船をシェイクすることはできませんよ」


 確かに。


「そりゃそうだな。なんか最近、ビルをシャカシャカしたり、お手玉したりとか、なんだか大きなものって大体ひどい目にあってたから、勘違いしていた」

「羽計ちゃん。それはちょっと常識を考えるうえでマズイと思うよ」

「人の事いえるか?」

「いえないよ」


 なんだこの会話。


「なるほど、お二人がどれほど毒されているかわかりました」

「「理解してくれてありがたいです」」


 そういいながら食器棚を開ける風香。


「うわ、どんだけ古いんだろ。手袋に触れた瞬間に砂になって消えていく……」

「冷蔵庫の中身がっていうか……そもそも冷蔵庫がボロボロだな……」

「おや、ロケットペンダントが……写真がボロボロすぎて何のためにあったのやら……」


 倉庫もそうだったが、とにかくもう全部がボロボロの様子。


「これ、そもそも作りが頑丈なもの以外はほぼ粉砕じゃない?」

「そうですね。シンクはギリギリ……」

「いや、冷蔵庫って頑丈に作られるものじゃないのか?完全に粉砕していたぞ」


 矛盾しているというか、いろいろ統一されていない感じがするキッチン。

 まあ、ギャグ補正を持っている高志と来夏が暴れたから、と言われてしまうとどうしようもないのだが。


「あれ?これだけ、なんだか残ってるよ」


 風香が棚を開けると、そこには小さな箱が入っていた。

 なんと、ほとんどのものがバラバラになっているなか、この箱だけが傷一つなく残っている。


「なかなか精巧に作られた魔法具のようですね」

「罠があると思うが……」

「どうだろ……ちょっと秀星君に電話してみる」


 風香がスマホを取り出した。


『はいもしもし、風香どうした?』

「あ、秀星君。今キッチンにいるんだけど、なんかすごくきれいに残ってる小さな箱があって……」

『この船の中で?……となると魔法具か。罠があるかどうかってことか?』

「ありそうじゃない?」

『だな。ちょっとアプリ送るから、それを当てたらガチャっていうと思うから、それで問題はなくなるぞ』

「え?」

『そんじゃ』


 秀星のほうから切られた。

 そしてすぐに、風香のスマホにアプリのようなものが送られてきた。


「あ、なんかアプリが来た」

「アプリ?」

「うん。これを使ったら大丈夫って……」


 試しに起動してみると、すぐにカメラ画面が表示される。


「あ、写真を撮るんだ」


 試しにとってみる。

 フラッシュはなかった。

 そして次の瞬間、箱からガチャッと言う音が響いた。


「お、空いたのかな」

「これで開いてなかったら悲しすぎる……」


 というわけで箱を開けてみる。

 何の抵抗もなく開いた。

 入っていたのは……。


「鍵?」


 現代の家に使われているようなものではなく、どこか特別な施設で使いそうな大型の鍵であった。


「……なんの鍵だろう」

「なんの鍵かはわかりませんが、アステルさんと秀星さんの二人がいれば、錠前を見れば鍵をその場で複製できそうなので、あまり意味はありませんね」

「そんな悲しいこと言うなよ……」


 凛名の意見が現実的すぎる。


(それにしても……このアプリ、即席で作った感じがありますね。ただ、機種のスペックに左右されそうですし、セキュリティな部分もありそうです。ここまで簡単に送れるものなのでしょうか?)


 凛名はそんなことを考えた。

 が、何も難しいことはない。

 秀星はマシニクルという文明型の神器を所持しており、しかも、異世界から帰ってきてすぐに風香のスマホをハッキングしているのだ。そのころから風香のスマホは変わっていないので、風香のスマホに合わせてアプリを作ることなど造作もないのである。

 もちろん、そんなことはさっぱり知らない凛名は頭をひねるのだった。

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